第32話 メイクアップ
俺はなぜベルギオに化粧を施されているのだろうか?
ネビュラが嫌う相手。
その大悪魔に丁寧に触れられていた。
女性が着たらさぞ綺麗であろう紫色のドレスだ。
今、俺はそのドレスを着ていた。
なぜ?
なぜ俺はドレスを着ているんだ。
本当意味が分からない。
ベルギオは終始黙ったまま手際よく俺に化粧を施し続けていた。
意を決して、この重苦しい気まずさのある空気の中ベルギオに話しかけた。
「終わったか?」
「今、な」
ベルギオは満足そうに笑みを浮かべていた。
「着心地はどうだ?」
「最悪だ」
「いい反応だ」
「喜ぶわけないだろう。俺は男だ」
「知っている。だから着せたんだ」
「なっ」
「反応が面白いからな」
ベルギオは愉快そうに声を押し殺して笑っていた。
「さて、仕上げだ。これを頭にかぶれ。そして、ついてこい」
「お、おい。どこに行くんだよ?」
「ついてからのお楽しみさ。まぁ、こなくても俺は困らない。帰ってきたらドレスを着た骨が床に転がっているかもしれないから掃除が大変そうだ」
「ああ、もうわかった!ついていくよ!」
「利口でよかったよ」
「悪魔って掃除をするのか?」
「さぁな?見てみたいか?」
「いや、遠慮する」
「そうか?残念だな」
ベルギオの掃除なんて想像したくもない。
頭に浮かんだのは、床に転がるドレスを着た骨だった。
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