第31話 攫われました?
黒曜族の宴から数週間が経っていた。
あれ以来定期的にネビュラとともに外出する機会が増えた。
ネビュラも俺も身分を隠していた。
ひやひやするときが多かったが、互いに互いを諫めたり落ち着かせて良い関係になっていると感じた。
そんな、ある日のことだった。
またいつものように外出をしていた時だった。
事件は起きた。
◆
「あれ、俺もしかしなくても迷子なのでは?」
ネビュラがいつも隣にぴったりとくっついて一緒にいるのが当たり前になりつつあったせいで余計に一人になった時の不安が大きかった。
ネビュラが俺から目を放すとは思えなかった。
過保護な大悪魔だからだ。
というか俺はこの生活に完全に馴染んでいた。
人間界に帰るどころか魔界の生活に慣れていっているという恐ろしい事実に、目的は俺がいた世界に帰ることだと気合を入れ直した。
「誰を探している」
「ネビュラ!!・・・じゃない。お前はたしか」
「こんな辺鄙な所にくる人間は珍しいからな」
「ベルギオ!!」
俺が覚えている限りでは2度目に会うことになる。
ネビュラが言うことが本当ならば3度目だろうが。
「俺の名を知っているとは光栄だな」
「こんなところで何をしているんだ」
「それは此方の台詞だ。黒曜族の面汚しとは一緒ではないのか。都合がいい」
「・・・」
「そう警戒するな。ここは人間が一人で生きていけるほど甘い世界ではない。一番よく知っているはずだ。ついてくるといい、面白いものを見せてやろう」
「面白いもの?そうだ、人間だってなんでわかったんだ。この指輪・・・効果ないんじゃ」
「指輪か・・・安心しろ。人間だとは周囲には気づかれないだろう。大悪魔に通じないだろうが」
「・・・意味がない」
「俺は二大悪魔と呼ばれる大悪魔の魂を2つ持っている。二大悪魔は魔界にも少ない。俺といる間は、身の安全は保障しよう。さぁ、どうする?選べ、人間よ」
「人間って呼ばれると気づかれる」
「可能性はあるな。否定はしない。では、なんと呼べばいい?」
「レオと。ネビュラたちからはそう呼ばれてる」
「知っているさ、その名はよく知っている」
「・・・ベルギオ?」
ベルギオは何かを懐かしむように笑みを作った。
その青い瞳を覗き込んでも何も得られなかった。
「ネビュラと早く再開しないと」
「今、会ったら最高に面白いことになりそうだ」
ベルギオは上機嫌に笑みを深めた。
「今は会いませんように」
「何の真似だ」
「神様に祈ってるんだ。会うと大変なことになりそう」
「神に祈る?祈るくらいなら悪魔に強請ればいい」
「何かもってくだろ、絶対」
「四肢、眼球、声、体の自由、感情・・・悪魔との契約に見合う代償だ。代替だ。対等でなければ」
「悪魔と契約なんて絶対しない」
「一度した人間ならば必ず次もする」
「一度もしたことなんて」
「あるさ。記憶がないだけで」
「・・・何か知っているのか?」
「よく知っているさ。初めて出会った時のことは今でも鮮明に思い出せる」
「・・・ネビュラと何かあったのか?」
「なんだ、興味があるのか?俺を嫌うように調教でもされてるかと思ったがどうやら違うらしい」
「俺も何でかわからないけれど、ベルギオの知っていることを教えてほしいんだ。あんたなら話してくれる気がした。ネビュラがどうしてあんなに嫌っているのか。憎悪しているのかを」
「ふ。ハハハ!!」
ベルギオは耐え切れずに笑いだした。
「やはり人間は面白い。俺を楽しませる。レオ、お前のいない世界は退屈で仕方なかった」
「な、なんだよ?どういう意味だ」
「まずは、ここからだ」
「え?なんだよここ」
「ドレスを選んでやろう」
「は?ど、ドレス?男が着ないだろ?!」
「今から着る人間がお前だ。逃げてもいいが、一人で帰れずに殺されるだろう」
「・・・っ!!わかったよ着るよ着る!!」
「物分りのいいところは変わらず。人間とは不思議な生き物だ」
「悪魔は難解で意味がわからない」
「悪魔と人間の価値観は一致しにくいようだ」
この状況ネビュラと会ったら絶対大変なことになると警鐘が鳴っていたが、不可抗力だ。俺だけではどうにもならない。
下手売って死ぬわけにはいかないのだから。
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