第29話 楽しい宴

ガッシャーン!!

テーブルのグラスやら一際豪華に盛られた料理が無惨に床にころげおちていた。

宴の会場全員がその現場を見て青ざめたように静まった。


「こ、こここここ、黒曜の大悪魔様?!お怪我はございませんか?!」


主催者は慌てて駆け寄ろうとしたが、主犯の悪魔が蹴り飛ばした。

主催者は飛んでいった。

パリンとガラスが割れた。


「大丈夫だよなぁ?!まだ、お怪我はございませんよーで!!何よりでーっす!!じゃあ、今すぐ怪我しろよぉ!!」

「下賤、ですねぇ?」

「ガッ!!」


VIP席を荒らした悪魔が黒曜の大悪魔に攻撃をしかけようとしたが結局同じ席にいた生贄の大悪魔によって制裁されていた。

一撃、手に持ったグラスを悪魔の目に向けてかけただけだ。

周囲のものは、クスクスと笑うもの、恐れて身を縮こまらせるもの各々だった。

そして、反ベルギオ派として俺とギューオさんは青ざめていた。


「ちょっと、あれまずくないすかね。さすがに、やばいんじゃ」

「この後、どうなるか」


もはや何もできない。

逃げることはできない。

今、逃げれば真っ先に抹殺されるだろうから。


「面白い、今のは面白かった」


パチ、パチパチと手を叩いた悪魔がいた。

黒曜の大悪魔ベルギオだ。


「どうした?もう余興は終わりか?」


荒れた白テーブルに足を組んで置いた。

行儀悪く黒曜族のトップは宴を堪能していた。


「続けろ」


ピシャリ、黒曜の大悪魔ベルギオの一言だけで全員が震撼しただろう。

俺もギューオさんも身をもって知ってしまった。

真正面から立ち向かっても絶対に勝てない、と。


「くっくっく、私め生贄の大悪魔ヘリオロも楽しい宴なら大歓迎ですよ?」


向かいに座ってニコリと寒気のする嫌らしい笑みを浮かべる大悪魔も強敵だ。

大悪魔を侮っていた、そう実感した瞬間だ。



黒曜族の宴を主催したジューグが目を覚ますと全てが終わっていた。

散らかる惨状に再び卒倒しそうになるも、痛む体を押さえながら周囲を見回した。

ちらほらと参加していた悪魔たちはまだ残っているが何もかもが遅い。

手遅れすぎた。


「な・・・なんということでしょう。もう終わりだ」


絶望したように両手で顔を押さえ込んで、黒曜の大悪魔のことを思い出していた。



ヘリオロは実をいうと今回の宴に黒曜の大悪魔ベルギオが参加するとは思っていなかった。

招待状の手紙も捨てようかと悩んだが、気まぐれで参加するかもしれないと期待を胸に彼がいる場所へと足を運んだ。

ヘリオロ自身も大悪魔ではあるが、大悪魔として2つ名を持つ二大悪魔のベルギオは魔界でも一目を置かれる存在であった。

彼の下につこうとする大悪魔は多い。

自然と成るべくして彼が黒曜族のトップに君臨していた。

宴で襲撃を受けるも、意に介した様子もなかった。

むしろ、退屈で仕方なかった宴に刺激が与えられて喜んでいた。

だが、それ以上に別のことで上機嫌だったのだ。

貧相な宴の中で何を見出したのか最後まで席を動くことなく二人で話した。


『黒曜族の宴の準備をする。参加は自由だ。大悪魔がこようと悪魔がこようと俺の招待するお気に入りがくるのであればそれでいい』


黒曜の大悪魔自らが主催で宴を近々する。

その事実に歓喜した。


『お気に入りとは誰のことでしょうか?』


思わず気になってしまい、踏み込んだ。

そのお気に入りとは一体誰なのか知りたかった。

自分が知らない人物を思い浮かべた。

上機嫌に笑みを深めて彼は言った。


『気になるなら、参加するといい。強制はしない』


焦がれるように目を瞑り、黒曜の大悪魔ベルギオは口を開いた。


『この宴にも参加している』


これほどまで楽し気に話すのを見るのは初めてで、周囲は宴の事故現場になっていたが終わる頃には次の素晴らしい宴に想いを馳せて楽しみにすることにした。






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