第17話 花束を

忠魔の大悪魔ガビは焦っていた。

依頼を頼んだ悪魔からの依頼失敗の手紙。

ぐしゃぐしゃに丸めて火をつけた。


「失敗しました、なんて言えない・・・。でも、いかなくちゃ」


青の庭園に重い足取りで入った。


「あれー、随分とお早いお戻りだねー。で、どうだったのー」


銀髪の人間の少年が、紫色の瞳を楽し気に細めながら話しかけてきた。

その隣には、黒曜の大悪魔ベルギオ様が座っていた。

手紙を読んでいた。


「ベルギオ様、人間ですが・・・」

「うんうん、いないね。どうしたの?」

「・・・・・・捕まえるのに失敗しました」


自分で行けばよかったと後悔した。

人間の少年の腹立たしい言葉は無視をした。


「あーらら、やーちゃったー。やっちゃったー。ベールギオに怒られるぅ~」

「・・・・・・・・・人間風情がっ」


アタシが失敗したことに対して、大喜びの人間の少年に今にも手を出しそうだった。


「ロノ、ここに咲いている花で、花束を用意しろ」

「え、アーベラの花?なんで?うーん、一番いいやつを作るね。ちょっと待っててね」


ロノは命じられて嬉しそうだった。

花束を作るために、選別して摘み始めた。

ベルギオ様は、再び手紙に視線が戻っていった。

しばらくの間重い空気が流れた。


「あの・・・ベルギオ様」

「これ綺麗だよ!ベルギオ、どう?見て見て―!」


言葉をかぶせるように、ロノがベルギオ様の前にラッピングした青い花束をさしだした。

手紙から再び目線を上げた大悪魔は、花束を見て今度はこちらに視線を向けた。


「その花束をガビに渡せ」

「え?」

「あはは、はーい」


初めて名を呼ばれて思考が停止した。


「はい、どうぞ」

「・・・」


大人しく受け取った。


「ねぇ、おばさん。その花束の意味知ってて受け取ったんだよね。そんなに嬉しい?あははっ、僕面白くて笑っちゃうんだけど」


幸せをかみしめている横で、ゲラゲラと耳障りな笑い声をあげる人間の言葉で我に返った。


「何がおかしい!」

「だって、アーベラの花束の花言葉の意味知らなさそうだもんね。仕方ないよ。僕は知ってるよ。だから、特別に教えてあげる!」


やけに楽しそうに笑う人間はさらに黒い笑みを浮かべていった。

紫色の瞳を大きく見開いて。


「アーベラの花束の花言葉、それはねー・・・別れ!!ねえ、今どんな気持ち?それ受け取って嬉しいー?あははははっ。ベルギオから贈られたんだよ。嬉しいよねー、ねー!」

「・・・嘘だ」

「嘘ではないさ、ロノの言う通りの意味だ」


ベルギオ様が青い瞳をこちらに向けていった。


「そんな・・・」

「だが、それを受け取る相手は貴様ではない」

「え?」

「え?違うのベルギオ。だって、いらないでしょこの大悪魔」


指をさして人間の少年はいった。


「今は必要だ。それを貴様自身の手で奴の元に届けろ」

「不死の大悪魔だっけ?」

「ただの死にぞこないの悪魔さ」

「!必ず届けます!」


挽回するチャンスをくれたのだと思い、力強く宣言した。



「あーあ、ベルギオってば甘すぎだよ。もっと、厳しくいかなきゃ」


ロノは不満そうにいった。


「ならば、まずは貴様から実践するとしよう」

「えー!なんでさ。僕、厳しくされるのはごめんだよー」

「我儘な人間だ」


忠魔の大悪魔の前では無感情だったが、二人きりになると呆れた様子でベルギオはいった。


「ねー、それ誰からの手紙?ずっと読んでるけど」

「これか?古くからの付き合いの悪魔からだ」

「僕よりも?」

「当たり前だ。お前と出会う前からの付き合いだ」

「え!なにそれ誰それ!ずるいずるいずるい!!」

「妬くな。今は疎遠だ」

「じゃあ、その手紙はなにさ!文通してるの!ベルギオが?僕ともして!」


ロノは羨ましくてしょうがなかった。


「今日初めて届けられたんだ。勘違いするな」

「じゃあ、なんてかいてあるの!」

「面倒ごとはごめんだ」

「え?それだけ?そんなにつらつら文章書かれてるのに!?」

「要約するとこうなる」

「しないでいいから、全文読み上げてよ」

「読み上げる内容ではない」

「じゃあ、僕が読むかして!」


ロノはベルギオから手紙を奪って、必死に文章を見た。


「難しい。なんて書いてあるの?」

「面倒ごとはごめんだ」

「それ以外!」

「今のは、俺の本心だ」

「ええ、めんどくさがってるの?ベルギオひどいよ」


アーベラの花が咲き乱れる庭園にはしばらくの間騒がしい人間とめんどくさそうな大悪魔のやり取りが続いた。

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