第15話 怒りと恐怖
この屋敷にはコックさんとフェリアしか住んでいないのだろうか。
そう思うくらいには、広い屋敷ですれ違う人、いや悪魔はいなかった。
「レオ?どうした」
「いや、気のせいか」
視線を感じたが気のせいのようだ。
渡り廊下で立ち止まり振り向いたが、誰もいなかった。
◆
いつものように、仕事があるのか部屋に押し込められてフェリアに監視をされる日常がはじまる。
何気なく窓の外を見ていた。
一面は赤い花だ。
赤、赤、赤。
「!?おい、フェリア。あれ!!」
「どうされました?」
指さす方向へとフェリアが目線を動かした。
そして、慌てて外に飛び出していきながらいった。
「燃えてる!」
「絶対に、部屋からでないでくださいね。いいですか!不死の大悪魔様に伝えてきます!」
「俺もてつだ・・・」
「出ないでください!いいですか!」
「わかったからいってくれ!」
フェリアは念押しをした後、あいつの元へと走りだしていった。
俺も手伝いたかったが、ここをでて怒られるのが誰かを考えて我慢するしかなかった。
◆
ギィィィ。
開けた扉が動いた。
人影が見える。
「誰だ?」
フェリアはネビュラを呼びに行っているのだから戻るはずがない。
コックさんか?
厨房にいるイメージしかない。
それに、この部屋にやってきたこともない。
コックさんの帽子を被っている影ではない。
ガロットか?
いいや、ガロットなら普通に入ってきそうだ。
行き違いになったネビュラか?
「見たことないな、誰だあんた」
「当たり前さ、初めまして人間。悪いが、大人しくしろ」
「まさか火をつけたやつか?」
「見張りを撒くのは成功みたいだな。痛い思いはしたくないだろう?」
片手に刃物を持った悪魔がじりじりと距離を詰めてきた。
逃げ場がない俺にとっては絶体絶命だった。
俺を人間だと知って、脅す悪魔。
殺す気はないらしい。
フェリアはいない。
コックさんも気づきはしないだろう。
悪魔を相手に人間がどう抵抗しろというのだろうか。
「・・・・・・」
「なかなか利口さんじゃないか」
悔しいが、諦めるしかないのだろう。
「っ!」
「どうだ?痛いか?」
刃物で腕を薄っすらと切られた。
赤い血の雫が落ちた。
「赤?」
「レオ!!無事か?!・・・!」
「げっ?!なぜおまえがここに」
悪魔は振り向き驚いた。
現れたのはフェリアが呼びに行ったはずのネビュラだった。
「何をしている貴様」
「ネビュラも知らない奴なのか」
「レオから離れろ!」
刃物を持った悪魔は窓ガラスを割って、外に逃げ出した。
「!こんなところから飛び降りたのか?」
悪魔だからか、綺麗に着地をして無傷のまま走って逃げだした。
「レオ、よかった!・・・!その腕、あいつにやられたのか?!」
「浅いから大丈夫だ。あの悪魔も脅しでやったっぽいし」
「血が。レオから。アアアアア、許せない。あいつを殺さなければ・・・!」
「なんだったんだろう。って、そうだ!火事は?!今頃燃え広がってんじゃないのか!」
割れた窓辺から先ほどの火が上っていた場所を見ると、消えていた。
「よぉー、なんか燃えてたから消火しといたぜー」
「ガロット!!よかった」
「あれ、窓割れてねーかー?風通しいいだろうが、怪我すんぜー」
火災現場の付近にはガロットがいた。
こちらに手を振って、答えてくれた。
火は消えていた。
周囲の花が燃え尽きていた跡のみが残っていた。
「ガロット!!そちらに、刃物を持った悪魔が逃げなかったか!いたら殺せぇぇ!!」
「あー?なんだよ物騒だな。そんな奴みてねーぜー」
「チッ、完全に逃げられたか!!クソが!」
ネビュラは激怒していた。
赤い瞳が怖かった。
「おいおい、どうしたんだよ。不死の大悪魔様がブチぎれるようなことでもあったのかー?」
ガロットは割れた窓ガラスから入ってきた。
一体どうやってここまできたんだ。
「レオを傷つけたあの悪魔を見つけ出して必ず殺す!」
「ご立腹なのはわかるがなー、まずは先にやることあるだろーがー」
「なんだと?」
いつも通りに接するガロットはすごいと思った。
あんなに激怒しているネビュラは初めて見た。
怖かった。
「こいつの腕やられたのかー。まぁ、深くはなさそうだが早めに手当てはしてやるべきだろー」
「・・・レオ、すまない。今、手当てをする」
俺の腕を見て、ネビュラは冷静になった。
「まぁ、今の頭に血が上っている状態のお前さんじゃまともに人間のお手当なんて無理だろうなー。力加減間違えてやらかしそうだしなー。俺様が仕方ないからやっておいてやるからよー。まだ付近にそいついるかもしんねーし?見回りいってこいや。お前さんが戻ってくるまで、俺様がこいつの警護はしとくからよ?」
「・・・・・・」
納得がいかないのか、ネビュラは返事をしなかった。
「ったく、はっきりいわねーとわかんねーか?頭冷やしてこいっていってんだよ。今のお前さん、こいつから見たら、傷つけられた奴と同じくらい怖いと思うぜ?いや、もっとか?俺様でもビビるぜ」
「・・・!」
ネビュラの鋭い赤い瞳と目があったが、思わずそらしてしまった。
「・・・わかった。頼んだぞ、ガロット」
「おうよ、んじゃ。フェリアにでも、ここの窓ガラスの片づけは任せて場所を移すか」
「いつもすまないな」
「今にはじまったことじゃねーしな。出会った時から今までの付き合いだ。いつものことだし、俺様はかまわねーさ」
「・・・レオ、怖がらせてすまなかった」
「いや、そのありがとう。さっきは助かったよ」
ネビュラは、静かに部屋を後にした。
心なしか元気がなかったようにも見えた。
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