第12話 大悪魔と人間
大きな屋敷。
手入れされた屋敷内は清潔さがある。
とある一角の庭園には青い花が咲き乱れている。
「アーベラの花、いっぱい咲いてるね!」
「今が先ごろだったか」
黒い大悪魔は、やけに楽しそうに話しかけてきた人間に目もくれず返事をした。
「アーベラって面白い花言葉が多いよね。『強奪』、『奪う』、『さよなら』、『悲恋』、『失望』、『また会うまで』、『別れ』、『悲願』とか・・・暗いのがばっかり」
人間は大悪魔に恐れることなく親しげに話す。
「レーベラはなんだっけ・・・『敬愛』、『幸福』、『愛している』、『大切な人』とかだよね。えっと、確か花束の意味が『再開』?だっけ。明るいの多いよね。この前調べたんだ」
大悪魔は話は聞いているものの、人間と話す気はないようだった。
それを不快に思うこともなく、人間の少年は楽しく話しかけ続けていた。
「ねえ、ベルギオ。見てよこれ!青の中に赤があるよ!僕、てっきり青い花ばかりあるからアーベラが好きなのかと思っていたんだけど、レーベラも育ててたんだね!」
「摘み取れ」
「えー」
「赤はすべて。俺の視界にいれるな。知っているだろう、俺がその花を嫌いだということを。ロノ」
「へへ、へへへへ!うん、もちろん知ってるよ!ベルギオ!!やっと名前を呼んでくれた。やったー!ねえ、この花どうするの?」
「捨ててこい。いや、こちらに持ってこい」
「はーい?」
ロノがベルギオにレーベラの花を手渡そうとした瞬間、指先が触れる前に青い炎をあげて燃え尽きていた。
「あっつ」
「加減はしてやっただろう」
「えへへ、ベルギオ優しい。この火傷ずっと残らないかなー」
「そのくらいのものなら数日すれば治る」
「えー、消えちゃうの?せっかくベルギオがくれたものなのにー」
「人間は脆い、その達者な口をそろそろ閉じろ、ロノ。あの花のようにするぞ」
「あはは!ベルギオの愛情のこもった炎なら僕いつでも大歓迎!でも、もっと一緒にいたいもん。我慢するよ」
「黒曜族の恥さらしの象徴であるあの花がこの屋敷にあるのは不愉快だ。他にもあの花があれば報告しろ。この屋敷に赤は不要だ」
「わかったよ!ベルギオからお願いされちゃったー、がんばろう!」
対照的な温度差があるにもかかわらず、ロノはベルギオのために赤い花を探しに庭園を歩き回っていた。
「えー、ないなー?」
ロノは目当てのものが見つからないようだった。
「・・・人間か」
ベルギオは一人の人間を思い出して、楽し気に笑った。
「あの人間、今頃何をしているだろうか」
「え!なになに、ベルギオ楽しそう!僕もまぜてよー」
青の庭園にしばらくの間楽し気な人間の声と、どこか冷めた大悪魔のやり取りが繰り返されていた。
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