第8話 寝て起きて


目が覚めれば、そこはいつもの自分の部屋ではなかった。


「どういうことだ。おかしいだろう」


周囲は昨日夢で見たおかしな世界のままで。

頬をつねってみたが、やはり痛みはあって。


「いやいやいや。夢だ、夢。もう一度寝るぞ!」


そう意気込んでもたっぷり寝たのだから眠れるはずもない。


「レオ、起きたのか?」

「・・・その声は」


部屋に入ってきたのは、昨晩の過保護気味な大悪魔だった。


「なんでいるんだ」

「すまない、寝ていたか?物音がしたもので、起きたものかと。侵入者は万が一にもないはずだからな」

「・・・おかしい、寝る」

「レオ?寝るのか」


あの大悪魔は大人しく寝かせてくれるようだ。


「おいおい、現実逃避するのはいいが、二度寝はよくねーぜー。あんだけたっぷり寝たんだし、どうせ眠くねーだろ?」

「その声・・・ガロット!」

「お、なんだ急に飛び起きてー。やっぱりお前さん寝る気なかったんだろう」

「昨日どれだけ探したと思っているんだ」


昨日探し回っていた悪魔がいた。


「そりゃご苦労なことでー、昨日はそのままこいつの屋敷をあとにして仕事に戻ったんでー。悪いが、屋敷内をどれだけ探しても見つかるわけがないぜー?」

「先にいってくれよ・・・」

「まぁ、ご苦労さんってことで。今日は顔出ししてやったんだから感謝してほしいぜー」

「・・・・・・」


ガロットは本気で謝ってはいないような気がしたが、これ以上は何も言う気になれなかった。


「・・・ガロット、レオと仲がいいのか?」


大悪魔はガロットに聞いた。


「仲がいい?っつうより、成生でこうなったんだから、嫉妬なんて見苦しい真似は大悪魔様なんだしやめてほしいぜー」

「嫉妬?私が。お前にか」


驚いたように大悪魔はいった。


「そうよ、お前さん嫉妬してんだぜ?きっと。こまけー事情は、俺様は一切知らねーがな」

「私が、嫉妬・・・」

「んなことより、人間は飯を食わなきゃ空腹で死ぬ生き物なんだぜ?まぁ、一応人間用に食事準備させたんでー、食ってくれや」

「・・・毒は入ってないだろうな?」

「入ってねーぜー。というか、味見もした。普通の食べ物だから、平気よ。心配ならお前さんが味見すればいい。まぁ、悪魔と人間じゃ味覚も違うだろうし、特にお前さんの場合は特殊なケースだし、違和感があるかもな?」

「・・・かまわない、毒見してから食べさせる」

「随分用心深いようでー、よほど気に入っているんだな?その人間」


ガロットが再び視線をこちらへと動かした。


「たとえ、お前でも手を出せば容赦しないぞ」


大悪魔は赤い瞳を細めていった。


「おお、怖い怖い。そんな命知らずな真似、俺様はわざわざしねーって。するなら、お前の屋敷にくるまえにもらってるからなー」

「っ!」

「おいおい、怒んなって。お前の屋敷に連れてきた。それが何よりの証拠じゃねーか。怒る前に感謝してほしいぜー」


ガロットは慌てて弁明した。


「すまない、ガロット」

「へいへい、お前さんにしては、珍しいもんが見れたぜー」


ガロットは興味深そうに大悪魔とこちらを見比べていた。



用意されていた食事を大悪魔が毒見をしていた。

見た目は普通の料理だ。

上手そうな香りだ。


「んで、どうよ。お味の方は」


ガロットは楽し気に大悪魔に感想を聞いていた。


「・・・これは美味しいのか?」

「お前さんの味覚なんて知らねーぜー。ま、人間用の食事なんだから悪魔が食べたところでわからんというのは共感できるかもな。俺たちの主食は『魂』であり、これじゃねえからな」

「・・・これはレオに食べさせて平気なのだろうか」

「平気よ平気。味としては人間がきちんと美味しいと感じるらしいぜ?俺様も味見はしてみたが、別に変な味ではなかったがなー。まぁ、『魂』を喰らう時みてーな、満たされ方はしないかもなー」

「・・・・・・レオ、もしもまずかったらいってくれ。毒は入ってないようだ」

「えっと、ありがとう」


席について、スープを啜った。

湯気がたっていて、温かくて、彼らの言う様にまずくはなかった。

普通に食べられる味だ。


「どうだ?」

「うーんっと、美味しいよ」

「気を遣わずに本当のこといったほうがいいぜー?何せ、俺たちとお前さんじゃ、味覚どころか種族すら違うんだからよー。遠慮してもいいことねーぜー?」

「・・・じゃあ、本当のこというけれど怒らないでくれよ?」

「まずかったか?」


大悪魔は心配そうに聞いてきた。


「いや、普通かな?」

「へー、普通」

「すごい美味しいわけでもないし、まずいわけでもないんだ。なんていうか、その・・・普通としかいいようが」

「ま、何となくいいたいことはわかったぜー。味ももっと濃いのがいいとか薄いのがいいとか、色々なんかあれば、がんがんこいつにいうといい。そのうち好みの味付けになるさ」

「あ、ああ」


大悪魔の方を見れば、うなずいてくれた。


「遠慮せず、言ってくれレオ。私の力不足ですまないな」

「いや、俺の方こそご迷惑おかけします」


難癖つけているようで気が引けるが、遠慮すれば自分が損するだけみたいだしお言葉に甘えようかな。

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