雪降りの夜に
しあん
第1話
街の真ん中で少女が泣いて居た「ママ…どこ」って泣いて街にいる人は悲しそうな顔をしているけど声をかけてくれない。
「ママ…」
少女は母親の影を探すが、一向に見つかる気配はなかった。
───幼い頃の私は、よく言えばわんぱく坊主というやつで、とにかく落ち着きがなかった。
そのせいか、人混みの多い場所にいると大抵いつも迷子になってしまう。
今回も、買い出しと称し母親と二人でデパートに行き、その帰りで迷子になってしまった。
幼き日の私にとって、母親がいないというのは想像を絶する恐怖でしかなく、ただただ周囲に怯え、泣くことしかできなかった。
でも、それは唐突に現れた…
「君、こんな所で何してるの?お母さんは?もしかして迷子?大丈夫?」
一見普通の好青年が、少女に声をかけた。
だが当時の私にとっては、その少年の好意ですら、恐怖でしかなかった……。
「ママ……ママァ~……」
泣きながらこぼれる叫びに少年は動揺する。
「……お母さん、探してるの?一緒に探そうか?」
「いやぁ!!」
ただただ恐怖でしかなかった。
母意外信用出来るものなど居なかった。
私はとっさにその場から逃げた。
恐怖が私を走らせた。
「ママっ!!…ママっ!!……どこぉ~!!」
幼い私がいくら走ろうとも、少年のそれには敵わなかった。
「待って!!君!!」
退路を塞がれた。
「逃げないでよ……ほら、一緒にお母さん探そ?」
「いや!!」
「仕方ないなぁ……」
少年は少女を持ち上げ、肩に載せた。
そして早速少年は、少女の母親を手当たり次第捜索する。
「誰か~、迷子の娘さんを探してる方はいらっしゃいませんか~?迷子の娘さんを~」
小一時間ほど捜索しても、手がかりひとつ無い。
その頃には少女は何故か泣き止んでいた。
「ん、落ち着いた?」
様子を見るなり少年はその子を肩から降ろした。
「お兄ちゃん、誰?」って少女が言った、少女は怖くなって来たから泣きながらまた走った少女は思いっきり走った。少女は思いっきり叫んだ「ママ、ママ何処怖いよ」って言いながら走った、少女は少し後ろを振り返ったら少年が追いかけて来た。少年が言った「君、待って走ったら危ないよ大丈夫だよお母さんが見つかるまで僕と一緒に居よ」って言った、少女は走るのを辞めた。
「はぁ…はぁ……」
青年は僅かに肩を弾ませながら、少女に駆け寄る。
「今度こそ……落ちついた…?」
「……‥…うん。」
少女は泣きべそをかきながらも、涙を洋服の袖で拭く。
「…しかし、あそこまで探しても見つからないとはね」
青年は必死に少女の母親を探した反動と、少女との二度に及ぶ追いかけっこのせいで、額には汗が滲んでいた。
「仕方ない…警察に行こう」
青年はそうゆうと少女の手を引き、交番へと向かう。
…それから、警察の協力の下、色々と当たってみたのだが、驚いたことに少女の母親はまったくこの世に存在すらしていなかった。
少女の言う「家」も訪ねてみたが、今は使われてすらいない廃工場になっていたし、少女の持ち物から発見された母親のものと思われる携帯番号にもかけてみたのだが、「おかけになった電話番号は現在使われておりません。」の一点張りだった。
これは一体どうゆうことだろう。
警察もこれには降参、とばかりに狼狽えている。
「……ぅぅ…ママぁ…」
「だ、大丈夫!!、お母さんはちゃんと見つかるよ!!……多分…」
少年はこの不可思議な状況に自信を失いつつあった。
「そういえば君たち、名前は?」
「僕はサザナミって言います。この娘は………」
「お嬢ちゃん、自分の名前分かる?」
少女は怯えながら言った、「み、みお」っと小さい声で言った。
「"みおちゃん"ねぇ…」
「んー…しかし…これだけ何の手がかりもないとなると、警察としても正直、お手上げなんだよ」
壮年の警察官はそう言い、顔をしかめる。
「で、でも!」
青年はつい、声を張り上げてしまった。
「でもせめて、両親が見つかるまでの間、この娘の居場所が必要だ!」
「ああ、それはそうなんだがねぇ」
警官の返事は何とも頼りないものだった。
「何処かいい所はないのか…?」
「ん〜…こんな身元のまるっきりわからない娘なんて、正直、どこの施設でも取り扱いたくない案件だろうからねぇ…」
警官はそういい、ポケットから煙草の箱を出しかけるが、子供の前だと気付き、またすぐにしまった。
「まあ、こっちとしても放ってはおけないから、色々当たってはみるけどな…」
駄目だ。青年は直感した。
ここの警官はあてにできない。
「…みおちゃん、ご両親が見つかるまでの間、僕の部屋で過ごそう」
「…うん」
「おいおい君、勝手に決めてもらっちゃ困るよ」
警官の男性は少女に向けて、ニヤニヤと笑いかける。
「ねぇみおちゃん、今夜はおじさんの家に泊まろっか、ねぇー?」
瞬間、青年は少女の手を引き、警察署を飛び出していた。
なんなんだ。こんな子供に手を出そうとするなんて、腐ってる。
あの目はどう見ても、子供を見る目ではなかった。
──────という俺も、人のことは言えない…か。
青年は1DKのアパートで、どうにかアルバイトで生計を立てる、いわゆるフリーターであった。
そんな男の窮屈な家に押し込まれては、少女もさぞ息が苦しいと思う。
しかしまあ、もしあの警官に事態を任せていたらと思えば、まだましだとも感じた。
とりあえず、まず身体を温めた方がいいだろう。今日はさして寒くもない日だったが、薄着の少女にしてみれば、少し肌寒かったかも知れない。
冷蔵庫をのぞみ込み、中から牛乳を取り出す。
置いてあったコップをさっと水で洗うと、牛乳を注ぎ、レンジでチンした。
即席のホットミルクには微かに湯気がたっており、ミルクのいい香りがしてくる。
とりあえず、それを少女の前の机に置き、少女にすすめた。
「外寒かったよね、これ飲んで暖まって」
「…う…うん……」
「………」
「………」
これからどうするべきか、全く先の見えない不安に沈黙する二人……。
おもむろに少女はホットミルクを口にする。
「……あったかい……」
小さい声でそう言った少女は、微かに笑みを浮かべた。
その表情はとても可愛らしく、少年にはそれが天使のように見えた……。
互いに安堵した二人は、部屋で暖をとりつつ先の事を考える。
しかし、本当にどうしたものだろうか。
さっきは咄嗟の判断で、こんな見ず知らずの少女を家に引き入れてしまったが、これは以外とまずいことかもしれない。
特に、世間的に浴びる目は痛いものだろう。
…ふと、少女が幸せそうにホットミルクを飲む姿に、ついついつられてしまっている自分がいるのに気がついた。冷蔵庫から牛乳を取りだし、さっきと同じようにチンする。
そして、机の、少女とは向かいになる位置に青年も腰を下ろした。
少女は依然として、ほのかに湯気の立つホットミルクをちびちびと飲んでいる。
その時だった。少女のお腹がぐぅぅぅぅ…と音をたてた。
「────……っ!」
少女はミルクを飲むコップを掴んだまま、恥ずかしさのあまり微動だにしない。頬をみるとやたらと赤く火照らせているのが見て取れる。
そうだな。このままじっとしていても仕方ない。
まずは腹ごしらえが先決だろう。
「…よし」
青年は不意に席を立つと、再び冷蔵庫の前へと向かう。
中を覗き込むが、やはり大したものは入っていなかった。
そりゃそうだ。日頃からろくに自炊なんてものはしてはいない。
せいぜいちょっとした炒めものだとか、たまにご飯を炊いていたりだとか、その程度のものだった。
…かといって、今から買い出しに行くのもかったるい。
いや、なによりもこの少女を一人にする訳にはいかないだろう。
一緒に連れて行くというのも、一瞬脳裏に浮かんだが、すぐにそれを取り消す。
第一、誘拐犯だと間違われない保証はない。
万一警察なんかに事情を聴取でもされたら、僕は終わりだ。
…いや、その警察さえも全くもって頼りにできないのだが…
まぁいい。とりあえずは、今あるものでどうにかしてみよう。
冷蔵庫の中には大したものは無いにせよ、少女と自分を含め、どうにか一食分か、その程度の食材は残っていた。
さて、何を作ろうか、、、、
あるのは卵2つとジャガイモが3つ、それと山菜か………。
「これしかないな」
少年は、早速料理に取り掛かる。
ジャガイモは蒸かして蒸かし芋に。
卵は山菜を添えてスープにしよう。
「………これでよし!」
少年は料理を持って台所を離れ、少女の元へ寄る。
「先にご飯にしよう」
「……ご飯……」
少女の前に、皿にのせた蒸かし芋とスープを並べる。
「……これ、食べて良いの……!?」
「もちろん!一緒に食べよ?」
少女は驚きを隠せず、並べられた料理に目を光らせる。
「いただきます」
「……ぃただきます……」
少年は蒸かし芋を手に取り、フー…と冷まして口に入れる。
それを見て少女も真似して食べる。
「熱いから気を付けてね」
「……うん……フー…フー……パクッ…」
「ごめんね、ウチ大したもん無くて……」
「……うぅん、おいしい……」
「良かった……スープも飲んでね」
「…うん……」
「……これもおいしい……」
「もう夜遅いし、それ食べたら今夜はウチに泊まっていきな?」
「…うん……そうする……」
「それじゃあ、お風呂湧かしておくから」
「……お風呂、一人では入れるよね……?」
「……大丈夫……」
「お兄ちゃん、お風呂貸してくれてありがとう…」
「うん、どういたしまして。」
律儀に礼を言う少女にそう返事をし、青年もすぐにシャワー浴びた。
いつもなら、めんどうなので風呂に湯を溜めることなど滅多にないのだが、今日に限っては事情が違う。
軽く身体を洗い、汗を流すと白い湯気が立ち昇る湯船にゆったりと身体を沈めた。
「あー…」
丁度いい感じの湯加減に、思わず声が漏れてしまう。
「────しっかし…ほんとどうするかな」
頭の中を占めるのは、無論あの少女のことだ。
湯船に浸かりながら、ここんとこの出来事を思い返してみる。
あの日は、午前のみのシフトだったので仕事が終わって、午後からは暇だった。
アパートにいてもやはり何もやることもないので、適当に外で時間を潰していたのだ。
で、少女に出会った。
町中で、わんわん泣きじゃくっているのに、誰も手を差し伸べようとはしない。
皆、可愛そうなものを見るような目をするだけで、過ぎ去ってしまう。
青年はいたたまれなくなり、少女に声をかけたのだ。
…いや、僕だって、ただ単に退屈しのぎだったのかもしれない。
高校を卒業し、IT関連の職場に意気込んで就職するも、担当となった上司との馬がどうしても合わず、嫌になり退職してしまった。
それからといもの、こうしてフリーターとして、どうにか最低限の生活をして生きている。
未来のことなど、まるっきり考えていないという訳ではないつもりだが、こうして自由に生きているのも悪くないと思い初めていた。
そんな自分の、なんとなくの暇つぶしであったということは拭いきれないんじゃないか。
だが、迷子の少女を助けてやりたいと思ったのは事実だ。
しかし、だ。自分に一体何が出来るというのだろうか。
現実問題として、少女に関する手がかりは今のところ、まったくと言っていいほどない。
いかに堕落しているとはいえ、警察の力を借りても何の糸口も掴めないというのは、不自然を通り越して、不気味ですらある。
…しかし、そうなるとやはり当面の間はこうして自分があの少女を匿っていくしかないのだろうか。。。
考えるうちにだんだんとのぼせてきたので、頭をさっと洗い風呂場を出る。
居間には男物のぶかぶかのパジャマを着た例の少女がテーブルの前にポツンと、一人正座していた。
着換えも子供用のサイズなどある訳がないので、とりあえず僕のを着てもらったのだが、やはり…というかサイズが違いすぎるせいで、肩が方っぽ襟から出てしまっている。
「ごめんね…服、そんなのしかなくて…」
「ううん!大丈夫だよ!……その…ありがとね、貸してくれて……」
「全然。」
これも、なるべく早く買いに行かなくてはいけないだろう。
少なくとも、この少女を放ってはおけない以上、最低限の衣服、食事はこっちでどうにかするべき問題だ。
「…今日はもう遅い、歯を磨いて寝よう」
「うん」
────翌朝。
「ふぁぁあ…」
朝、目覚ましの音で目を覚ます。
地面が硬い。…いや、そりゃそうだ。昨夜は下で寝たんだ。
ベッドの上に視線を向けると、まだ少女はすやすやと静かな寝息を立てていた。
なんだか起こすのも妙に気が引けたので、さっさと支度を済ませてしまうことにする。
今日はまた、朝からシフトが入っており、家を出なくてはならない。
仕事に行っている間、少女はこのアパートに1人きりだ。
不安がないと言えば嘘でしかないが、収入がなくてはここでの生活もくそもなくなってしまう。
「…じゃ行ってくるね。」
青年は一応テーブルの上に書き置きを残して、家を後にした。
アパートに帰る頃には、時刻は午後5時を回っていた。
仕事そのものは、3時くらいに上がったのだが、これからの少女との暮らしに置いて必要なものなんかを近くのホームセンターで買い漁っていたら、いつの間にかこんな時間にまでなってしまっていた。
傍目から見れば、20そこそこの若者が一人で子供用のパジャマやら衣服なんかを買い漁っていたのだから、少し、というか割と異質だったに違いない。
あとは、家で退屈しないようにと、子供用の漫画やアニメなど、女の子受けしそうなものを色々と買ってみた。
「ただいま」
「…おかえり!お兄ちゃん!」
玄関を開けると、すぐにみおが駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん今日は遅かったね!」
「うん、色々と必要なものを買っていたら、結構時間かかちゃった」
青年は両手にぶら下げたビニール袋を居間に下ろす。
どうやら、お昼に、とコンビニで買っておいたサンドイッチは、無事に食べてくれていたようだ。
「お兄ちゃん、こんなにいっぱい何買ってたの?」
「ああ、やっぱり、これから色々必要になると思ってね」
青年はビニール袋から、子供用のパジャマや衣服を取り出してみせた。
「わぁぁ!」
少女は嬉しそうに目をキラキラに輝かせている。
「これ!みんなみおの為に買ってきてくれたの!!」
「うん、もちろん。」
「…さて、そろそろいい時間だし。ご飯にしようか」
「…………っ…まま」
「みお…ちゃん…?」
見ると、さっきまでのはしゃぎようとは一転、眼には大粒の涙を抱えたみおの姿が映っていた。
「ままぁぁぁぁぁ!!!!!うわぁぁぁぁぁぁーーーん!!!」
「みおちゃん!」
青年は突然泣き出してしまった少女にどうすればいいのかわからない。
いや…とりあえず安心させてあげなくては。
青年は泣いている少女を軽く抱きしめ、頭を撫でてやった。
「大丈夫大丈夫。ままはきっと見つかるよ。だから今だけ。辛抱強く待とうね。」
それでも少女は依然として泣き止まなかったが、しばらく頭を撫でているうちにみおは落ち着きを取り戻していった。
「……ぐすんっ…」
「大丈夫?少し、落ち着いた?」
「‥…うん」
目の辺りが赤くなってしまっている。
あれだけ泣けば、当然といえば当然だろう。
「さ、ご飯にしよっ」
青年は少女の頭をポンポンっと優しく触れると、キッチンへと向かう。
自分一人の生活であれば、まず気にすることもないのだが、子供が毎日カップ麺やコンビニ弁当という訳にはいかないだろ。
食材は自分なりに色々と買ってきたつもりだ。
「さて、作ろうかな…」
雪降りの夜に しあん @shian-himezuki
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