5日目
ーー5日め。話は大きく方向転換しました。
Q5.
昨日、死ぬ間際に会いたい方を思い浮かべましたね。
今、その人たちが1人ずつあなたの元へやってきました。
あなたは、ひとりひとりに何と声をかけますか?
ひとりひとりを頭に思い浮かべながら、その人との思い出を振り返り投げかける言葉を書き出してください。
A5.
昨日まであれだけ「話尽くしただろう」と言っていましたが、実際には話していないので、まあ話したいことがたくさん出てきますね。
まず初めに話すのは母でしょう。
お腹を痛めて産んでくれた、たった一人の息子。
幼い頃から好奇心旺盛だった僕を、さまざまなことに挑戦させてくれました。
何事も、僕が「やりたい」と言ったことは、すべて全力で応援してくれました。
ときには大喧嘩することもありましたが、きょうだいのいない僕の「喧嘩相手」になってくれていたのだと思います。今となってはいい思い出です。
母の「ものを大切にする」姿勢は、とても僕の人生に影響を与えています。
母が小学生時代の文房具を、高校生まで、なんなら大学生になっても息子が使い続ける、という家庭はなかなかないのではないでしょうか。
挨拶や、礼儀、思いやりについては、人一倍うるさかった母。おかげで、どこに出しても恥ずかしくない、立派な一人息子になれたよ。ありがとね。
ひとつだけ、残酷なお願いをします。
「僕が生きているだけで幸せ、僕が幸せならもっと幸せ」とは、再三再四言われたことですが、今度は「自分だけの幸せ」を見つけてみてください。
これが僕の、最期の願いです。
次に話すのは、父だと思います。
父は、幼い頃に僕からみた祖父、父から見た実父を亡くしており、「おやじのせなか」を見ずに育ってきました。
僕が生まれたことで、初めて体験する「父ー息子」の関係性。
自らの身体との兼ね合いもあり、手探りの不安な毎日だったことと思います。
幼少期には、ものづくりの面白さを教えてくれました。
決して裕福とはいえない家庭でしたが、手作りのおもちゃたち、ボロボロになるまで遊んでいた記憶が、鮮明に残っています。
僕が成長するにつれ、父は「遊び相手」から「話し相手」に変わっていきました。
僕が在籍していた高校では、毎日のように半ば哲学的な問いが投げられ、社会と自分とを問い続ける、いま振り返るととても病みそうな毎日でした。
そんな僕の話を聞いてくれて、思考整理の手助けをしてくれる。
時には、目からウロコな解釈を言ってくれる。
豊富な人生経験を交えて、上からではなく、同じ「時」を生きるものとして、助言をくれる。
加えて、このようなまじめくさった話だけではなく、くだらない話や、野球論についても語り合ってくれる。
父とふたりで話した時間は、僕の人生の宝物です。ありがとう。
父への最期のお願いは、これもひとつだけです。
「もっと自分のことを好きになってね。息子は、親父が思ってるより親父のことが大好きなんだよ。」
最後に話すのは、大切なひとです。
大学に入ってからであった、僕の大切なひと。
人生のバックグラウンドも、目指すところもなにもかも違うけれど、なぜだか、一緒にいるのがとても心地いいひと。
始まりは、僕の一目惚れでした。男子校出身の僕は、あまり異性と接するのが得意ではなく、連絡先交換では直接聞けずに、グループから追加したことを、付き合ってからからかわれましたね。
大学に入った僕は、詳しい話は省きますが、「次付き合う人は結婚を意識しなければなあ」と思い、その観点で、お付き合いしてくれるひとを探していました。
そのためには、当然、お互いの「対話」が欠かせません。
人生で初めて一目惚れした僕であっても、その考えは変わりませんでした。
「この方とお付き合いできれば幸せだけども、話を重ねてみないことにはなあ。結局、僕は顔より中身重視なんだなあ。」
ところがどっこい。真面目な話もくだらない話も、どんな話でも一緒になって考えてくれる、驚くほど話が合う方だったのです。
「赤の他人」に、ここまで自分を晒して、素の自分で向き合ったのは、初めてと言ってもいい素晴らしい体験でした。
僕を幸せにしてくれてありがとう。僕で幸せになってくれてありがとう。
残酷なお願いだけど、僕以外の、幸せにしてくれる人を見つけてね。
幸せになってください。
最後に、見送ってくれたみんなに、こう言ってお別れです。
「ごめんね、先に逝きます。」
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