白い孤島
rurinoi
白い孤島
長い長い旅の果てに
私はこの島に辿り着きました。
私はこの島が気に入りました。とても気に入りました。
この島に在るものは全てが白く―― 砂も木も浅瀬を泳ぐ魚も、太陽の光さえも ―― みな真っ白だったのです。
私はこの島がこの星のどこにあって、どのような名であるのかさえ判りませんでした。でも、これは私の願望であったのかも知れませんが、この島はまだ誰にも発見されていない未知の島であるように思えたのです。
なぜなら私はこのような島の存在を噂にすら聞いたことがなく、また島の雰囲気からしてもそうであるような、そんな感じがしたのです。
私は気の赴くまま、歩き始めました。歩きながら、私はこの島のことを胸の内で白い孤島と呼んでいることに気がつき苦笑しました。これは名というより単なる形容に過ぎず、けれど結局は他に相応しいと思える名も思い浮かばなかったので私はそれ以上考えることをやめ、この島の白さに身を委ねることに決めました。
私は、私もこの島に在る数多の白いもののように白くなって、今の自分とは違う別の大義になりたいと思ったのです。私にはもう、それまでいた私の過去の世界が、そこに在ったあらゆるものが、人も文明も、思い出さえもが色のないものとしてしか思い出せませんでした。
私は本当に、あの世界に生きていたのでしょうか? 何か、長い夢を見ていたような、そして本当の私の世界は実はここに最初からあって、私はただ単に、ここでその夢から醒めただけなのではないでしょうか?
そんなことを無理やり肯定して、肯定し続ければそれはいつしか私の真実となっていくような、いいえ、きっとなるのだと私は自分に言い聞かせました。
けれど、あの日。
あなたが、この島に、やって来た。
あなたは、自分も長い長い旅の果てに、この島に辿り着いたと言った。
あなたが触れると、木々が、花々が、色づいた。魚にも色がついた。赤、青、黄、ほら、オレンジ色のも。
私たちの周りに、
太陽の光りもその本来の色をとり戻し、私はその美しさに目を細めた。
あなたは、私に魚をとってくれた。
私はお返しに、あなたに果実をあげた。とっても、とっても甘い果実。芳醇な香りのする。
私はあなたにこの島にずっといて欲しいと言った。あなたは笑った。
二人が食べきれずに地に落ちた果実からは、やがて新しい芽が出た。
それがまた木となって実をつけ、森を、もっともっと大きくした。
気がつけば、白い孤島はなくなっていた。今は緑の島になった。
私には家族ができ、でも子どもたちはこの島が白かったことを知らない。
星の瞬く夜、あなたと並んでそれを見上げながら、私はあなたに言った。
この島を、あなたが変えた。
あなたが、色をくれた。
私の言葉にあなたは少し驚いたような顔をし、そしてあの日のように笑った。
そのやわらかな笑みを湛えたまま、あなたは、それは違うと言った。
色をもたらしたのは、君だった。今、ここに在る色、それこそが君の望んだ世界。
僕たちの、望んだ世界。
僕たちはこの肌のように違う色をもって生まれたけれど、でも望めば、こうして同じ色の世界に生きることができる。
ただ、それだけのことなんだよ。
それだけの・・・・・。
私たちはもうそれ以上語らなかった。
言葉は、もう必用なかった。
あなたの言う通り、私はこの世界を望んでいた。きっと望んでいた。
あの日、あなたがこの島に来た時。
私が、この島に辿り着いた時。
旅に、出た時。
あの場所を、離れようと思った時。
私の場所を、探し始めた時。
この世の色を、知った時。
生を、受けた時。
私は、私が始まった時から、この 「今」を求めていた。きっと求めていた。
そして――。
長い長い旅の果てに
私はこの島に辿り着きました。
私はこの島が気に入りました。とても気に入りました。
この島に在るものは全てが白く―― 砂も木も浅瀬を泳ぐ魚も、太陽の光さえも ―― みな真っ白だったのです。
私はこの島がこの星のどこにあって、どのような名であるのかさえ判りませんでした。でも、これは私の願望であったのかも知れませんが、この島はまだ誰にも発見されていない未知の島であるように思えたのです。
なぜなら――。
白い孤島 rurinoi @rurinoi
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