ひまつ節
風でレタスが飛ばされて
僕の畑にやってきた
僕は行く日来る日
待ったけど
レタスの持ち主は現れなかった
きっとろくなやつじゃない
僕はそう言いながら
鼻をならして罵った
そんなことだと思ったぜ
レタスは腐ってしまったよ
レタスは畑の、綺麗で潔癖な煉瓦の囲いのなかに
放り込んだままである
手に入らぬものがある
けしてこの手中に収まるはずのないものがある
手に入れたとしてもだめだ
潔癖に生きさせられたこの僕が
手に入れたとしても
きっと手の中で平気に腐らせてしまう
誰も取りに来なかったあのレタスと同じように
あの誰にも読まれぬレターと同じように
ある朝、あれ?と思った
僕は、目が覚めて気がついた
何かがおかしい
何だか思うまま、手が動かない
窓のそとは雨が降っていて
机の上は野菜ジュースの匂いがした
僕は朝飯を作りかけて気づいた
今日の僕は昨日の僕より幾分心が傷ついて
全然平気なんかじゃないのだ
ふと足は外へ、庭へ出ていって
僕の目の前にはレタスがあった
腐っちまった黒っぽいレタス
きっとあれが、30日放置されてたものなら
相当汚いものであろう
僕は、そういうのが一番嫌いなのだ
不潔で、切なくて、理不尽で、自分のことを
語るのが大好きな奴らだ
それでも、今日はおかしい。
僕は泣いていた
あれは、食えるのだ
死ぬかもしれないが、食えるのだ
きっと、うまいのだ
僕はそれを見て泣きながり喚きながら
うずくまった
整頓された小綺麗なガーデンで
僕は一層きれいになった
くそお、僕は
本当にそれだけは食べたかったのに
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