渋谷節

黄色い座布団に座って

大人しくしていた男がいた

その男はユウラクチョウのことを

鳥の名前だと思っていて

かっぱはまだいると思っていて、

狸は年老いたら化けるのだと、

本当に信じていた


人は座布団だか、敷き布団だか

そこに飛び込んで体を丸めれば

安心して眠ってしまう領域がある


私は悲しく咳き込んで体を反らして

めを潤ませた

馬鹿な男だと言われたさ

何にも気づけないやつだと


茶色い座蒲団に立って

歌を歌ってうまくやってるやつがいた

その男はよく銀座に行き

写真をとるのが趣味

素敵な服を着て誉められて

金と愛をいっぱい持ってた


でも彼はアレルギーがあった

卵が食べられなかった

ケーキが食べられなかった

喘息も持ってた

人が甘いケーキを食べながら

赤裸々に喋るから

人生が本当に嫌になったことがある

本当だ


私は悲しく咳き込んで

あたりを見回して

通りすぎた人に視線を流す

真夏には懐かしいメロディが流れる

地面に揺れる陽炎に、さあ帰ろうと、

私は優しく言った

明日も強く生きられるように

準備しないとね

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