悩み多きリサ

 リサはいつも何かについて悩んでいた。

 あるときは、友人から言われた何気ない一言に深く傷つき、一晩中その友人の言葉が頭から離れず、気がついたら夜が明けていた。

 またあるときは、知人からの褒め言葉を皮肉だと勘違いし、知人との交流を1ヶ月も断絶した。

 とにかくリサはいつも何かに悩んでいた。褒め言葉も感謝の言葉も、みんなみんな悪いように捉えて、とにかく苦しんでいた。


「どうして私ばかり、こんな悲惨な人生を送らなければならないの。最悪の人生よ」

 リサは独り部屋に閉じこもって、この悲惨で惨たらしい世界を呪った。愚痴をこぼしても、ちっとも世界は変わらないことをリサは知っていたが、それでも言葉は溢れ出した。

「もう嫌。辛いよ。私はただ平穏に暮らしたいだけなのに、どうしてこんなに不幸なの。お金持ちになりたいわけでも、きれいなお洋服が欲しいわけでもないの。ただ平穏に暮らしたいだけなのに、どうして神様は私にこんな辛い思いをさせるの」

 とめどなく漏れ出す言葉は、狭い部屋の壁に反響して、床に積もってゆく。

「私は何にも悪くないのに。どうしてみんな私をバカにするの。どうして私を傷つけるの。どうして私を苦しめるの」

 リサの問に答える人は誰もいなかった。さらに言えば、リサをバカにする人も、リサを傷つける人も、リサを苦しめる人すら一人もいなかった。みんなリサを愛しているのに、リサはその愛を悪意と捉えてしまうのだ。

「もう嫌、もう嫌、もう嫌」

 耳を両手で塞ぎ、吐き捨てるようにリサは叫び続ける。こうすれば頭の中で聞こえる自分に対する悪口が聞こえなくなるのだとリサは考えている。

 リサが憎しみを込めた言葉を吐き捨てるたびに、狭い部屋に呪詛が積もってゆく。ついには、呪詛が部屋を埋め尽くし、今にも崩壊しそうな状態になってしまった。

 それでもリサは呪詛を吐き続けた。もう、それ以外に自我を保つ方法がなかった。呪詛を吐きつけ、誰かの悪口を言っている間は、自分は悪くないと思えるのだった。きっと悪口を言うのをやめた途端、リサはリサ自身を呪うしかなくなるのだ。

 ついにリサが呪詛を吐きつけることをやめることはなかった。

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