伝説の幕開け-ロバート・マクレーンに捧ぐ-

 ロバート・マクレーンは、そのときのことを後にこう語っていた。

「壇上に上がってマイクを掴むまで、私はメデューサに睨まれたように緊張していた。しかし、不思議なことに意を決してマイクに向かって喋り始めると、緊張をすっと何処かへ行ってしまった。嘘みたいに落ち着いて、それでいて高揚感に包まれたまま、私は喋り続けた。一種のフロー状態だったと思う。喋り終わって壇上を降りるとき、大衆の大きな歓声が耳に入ってきた。後にも先にもあんなに集中したことはなかったね」


 ロバート・マクレーンは旧ドラトリア帝国の北端にあるマニマール州の酪農家の次男として生まれ、ハイスクールを卒業するまでの18年間をこの土地で過ごした。

 マニマール州は広大な土地と涼しい気候から酪農業が盛んな土地だった。見渡す限り草原が広がる広い大地は、牛たちにとっては楽園だったが、娯楽施設も少なく、血気盛んな18歳の少年にとっては、退屈極まりない土地だった。

 多くの若者はハイスクールを卒業するのと同時に、この土地を離れた。ロバートもその一人だった。


 ロバートはどちらかと言えば学校の成績が良い方ではなかった。遅刻、欠席は当たり前。授業態度も不真面目で、教師からは問題児扱いされることも多かった。しかし、ロバートは決して頭の悪い男ではなかった。もしロバートを頭の悪い男だとするならば、ラスタ―ニャ国独立の父と呼ばれた男もまた、頭が悪い男だと認めなければならない。

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