塩辛

「だから、俺はこう言ってやったんだ。お前が飲みたいのはウォッカじゃなくてママのミルクだろって!」

「がはははっ! いつ聞いても最高だな、その話は!」

 安居酒屋で枝豆とイカの塩辛をツマミに、ビールをちびちび飲んでいると隣の卓から馬鹿でかい声の男二人が、どこかで聞いたとがあるような聞いたことのないようなアメリカンジョークで盛り上がっている。

 隣の客がうるさいときは、普段なら、店員に頼んで席を変えてもらうか、そうでなければさっさとビールを飲み干して店から出ている。

 しかし、今日に限っては、うるさすぎるくらいがちょうど良かった。余計なことを思い出さなくて済む。酒に頼っても何の解決にもならないことは知っている。深酒しすると二日酔いに苦しんで、せっかくの休日を無駄にすることも知っている。知ってはいるが、やめられない。それが酒だ。

 何か打ち込める趣味や恋人でもいれば、酒なんかに頼らずにストレスを解消できるのに、あいにく打ち込める趣味も恋人もいないし、作る気力もない。

 イカの塩辛を舌の上で転がして、ゆっくりと味わう。ここの店の塩辛ははっきり言って不味い。無駄に塩っ辛い。塩辛だから塩っ辛いのは当然だが、ただ味が濃ければ旨いってもんでもないだろうに。

 昔、ばあちゃんがよく作ってくれた梅干しを思い出した。狂ったように塩を使った梅干しは、保存という観点では優秀だったが、食べ物という観点では落第点だった。旨くはないが、たまに実家に帰って食べると、その塩っ辛さが実家に帰って来たことを実感させてくれる。


「すみません、ビールおかわり。それと塩辛も」

 店員が通りかかったので、追加で注文をした。不味いと言いながら塩辛をおかわりするのは、我ながら不思議だったが、そういう日もあるか一人納得した。

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