第8話 蹂躙
side リリス
「久しぶりだな、リリス。漸く俺の下にやって来たか。全く、この俺を待たせるとは、とんだ愚か者だ。ブレイズのバカも無駄な抵抗しやがって、おかげで手ごまが多少減ったが‥‥まあいい、お前がネイチャー教に高値で売り飛ばせば、不足分を補っても釣りがくる」
私の目の前で嫌な感じの笑みを浮かべている人、それがジャック・ガルバさんだ。
昔はお兄ちゃんと一緒に遊んだことがあったけど、粗暴で他人を省みない人だった。小さい頃にお兄ちゃんと遊んでいるときにやってきては、いつもお兄ちゃんに突っかかってはケンカしていた人だった。リュックさんの息子さんだから仲良くしたかったけど、どうしても好きになれなかった。だって常に攻撃的で、他人を下に見ようとして、他人の意見を聞こうとしなくて、皆を常に困らせていた。
それに‥‥‥‥リュックさんが亡くなった時、お葬式の場で、リュックさんを『愚かな父親』と罵ったことがとても許せなかった。リュックさんはお父さんとお母さんが亡くなった後、随分とお世話になった。言い表せない程の恩義があった。なのに、そんな人を悪く言うなんて‥‥‥‥そんな事を言った人を好きになれない。
私は心の内でそんな事を思っていると、扉が勢いよく開き、誰かが入ってきた。
「た、大変です、ジャック様!!」
男の人は慌てて走ってきたのか、息も絶え絶えだ。
「なんだ? 俺は今忙しいんだ、後にしろ!」
「それどころじゃありません、襲撃です!!」
襲撃、という言葉を聞き、ジャックさんは机を強くたたき、立ち上がって怒鳴った。
「ふざけるな!! 一体何処のどいつだ!? ブレイズのバカか?」
「いえ‥‥‥‥背中に剣を背負った男です!」
「!‥‥‥‥リッド」
リッドだ、リッドが助けに来てくれたんだ。
私は嬉しくなった。だが、それと同時に心配事が浮かんできた。
お兄ちゃんは‥‥‥‥一緒じゃない‥‥‥‥大丈夫かな? 連れて行かれるとき、遠目に見えたのが、お兄ちゃんが戦っている姿だった。炎を剣から出したり、剣で斬りかかったりして戦っていたけど、あのとき、お兄ちゃんは十人くらいの人に囲まれていた。
もし無事なら、お兄ちゃんなら、私を助けに来ようと無茶をするはずだ。でも、今の話だと、リッド一人‥‥‥‥お兄ちゃん、無事でいて。そしてリッド、私の事はいいから、どうか無事で。
私はリッドとお兄ちゃんの無事を願い、祈った。
side out
ガルバ商会の扉を開けると、其処にはいかにも荒くれ者、といった風貌の男たちがそこいらにいた。その中には怪我をしている者や、床に寝かされている者もいた。おそらく、ブレイズにやられた奴らだな。随分と手酷くやったものだ。
周囲は慌ただしくしているため、俺が入ってきたことに気にも留めていない。ちょうどいいからこのまま奥に行こうとすると、見知った顔を俺は見つけ、あちらも俺を見つけた。ベックとスティーブの二人だ。
俺は急ぎ二人に近づき、声を出させる暇もなく、背負った剣を引き抜き、周囲に気付かれない様にベックの脇腹に押し当て‥‥‥‥様としたが、遅かった。
「侵入者だ!!」
「ブレイズの味方してたガキだ!! 滅法強ええし、何故だか魔法が効かねえ! 気を付けろ!!」
ベックとスティーブは俺を見かけると、大声で俺の存在を知らしめた。すると周囲の荒くれ共の視線が俺に集中し‥‥‥‥嘲笑が起きた。
「ガハハハッ、ベックとスティーブの二人がやられて帰ってきたって言ってたが、まさかこのガキにやられたのかよ? オイオイ、勘弁しろよ!」
どでかいスキンヘッドの男が、大声で笑い、ベックとスティーブを笑いものにしている。それにつられるように、周囲の荒くれ共も笑い始める。
やれやれ、うるさいな。‥‥‥‥少し黙らせるか。
「おいデカブツ」
「あん! なんだガキ!!」
俺はゆっくりと歩いて近づき、腰の魔法の袋から、手袋を一双取り出す。その手袋は俺のお手製―――背中に背負う剣と同じく俺が作った、俺の専用武器だ。
普段しているオープンフィンガーの手袋の上に更に肘までを覆う手袋を重ねて付けた。
この手袋は剣と同じ、ある物質を五指それぞれと手の甲から肘にかけて仕込んでいる。
「お、何だおめえ、魔法の袋なんて持ってるのかよ? いいもん持ってんじゃねえか、おれに寄越せば、命だけは助けてやるぜ」
デカブツは目敏く、魔法を袋に目を付けた。
俺は鼻で笑い、デカブツに言い放った。
「リリスの場所を吐けば、命だけは助けてやるぜ?」
「!! なめてんじゃねーぞ!!!!」
デカブツはその巨体を揺らし、俺に拳を振り下ろしてきた。その拳の大きさは俺の頭と同じかそれ以上の大きさのようだ。当たれば死ぬかも知れない‥‥‥‥あくまで、当たれば、だが。
俺はデカブツの拳目掛けて、腰を落とし、足を、腰を、肩を、肘を、連動させ、体全体の力を右の拳に集約させ、一撃を放った。
ボキッボキッボキッ!!!!
周囲に大きな骨が砕けた音が響き‥‥‥‥
「あああアアアアアアアアアア!!!!!! 痛え、痛え‥‥お、おれの右手が‥‥アア、ア、ア‥‥‥‥」
デカブツが右手を抑え、床に転がりのた打ち回る。
俺はそんなデカブツに表情一つ変えずに近づき、頭を踏みつけ、質問した。
「リリスはどこだ? 知っていることを吐け」
「アアア!!! い、痛え、痛え‥‥た、頼む、揺らすな」
どうやら俺の質問に答えてくれないようだ。‥‥‥‥なら、仕方がない。答えてくれるまで、お願いするしかないな。
俺は頭を勢いを付けて連続で何度も何度も踏みつけた。
「ギャアアアア!!! た、たのむ‥‥‥‥た、頼む、から‥‥」
「リリスはどこだ?」
「し、知らねえ!」
「そうか、じゃあ‥‥‥‥命は助けなくていいな」
俺がデカブツにそういうと、俺を見て唖然とした。そして痛みを忘れた様に暴れて俺から逃げようと藻掻いた。
「!! う、嘘だろ!?」
「おいおい、俺は最初に言ったぞ。『リリスの場所を吐けば、命だけは助けてやるぜ?』って、なのに言えないんじゃ、仕方ないよな。そういうのは最初に知らない、と言っておかなかったお前の落ち度だ。あの世で後悔しな!!」
俺は首に足を乗せ、力を掛けていく。これで喋らなければ、次の奴に聞くか。
「ウガアアアッ‥‥‥‥た、の、む」
「知らん」
どうやらここまでだな。
俺は思いっ切り力を掛け、首の骨に圧力を掛けていく。そして‥‥‥‥
ボキィィィィ!!!
遂に首の骨が逝ってしまい、デカブツは動かなくなった。
周囲に目を向けると、唖然としている。そして何もしようとしない。いやそれどころか、逃げようとしている奴が多くいる。
やれやれ、どいつもこいつも口だけの見掛け倒しばかりだ。口先だけで、殺すだなんだとデカいことを言うだけで実際はそんな度胸もない。
生きることは‥‥‥‥殺し合いだ。強ければ生き、弱ければ死ぬ。それがこの世の理だ。ぬるま湯にどっぷりと浸かった、見掛け倒し共に俺が負けるか。
「さあ、かかってこい。腑抜けども」
俺が指をちょいちょいと呼んでやると、多少は骨がある奴は俺にかかってくるが、本当の腑抜けどもは、散り散りに逃げていく。奥に向かう奴、商会の外に逃げる奴、様々だが、数が減ってラクが出来るな。
そんな風に、周囲の様子を伺っている最中、何人かが攻撃を仕掛けてくるが、それに掠りもせず着実に一体一体倒していく。
人数差があるのに、まるでまとまりがない。連携をしてこないので、一対一をひたすら繰り返しているようなものだ。
だが漸く、連携を使うことを考えた奴がいたようで、
『炎の魔晶よ、その力によりて、我が眼前の敵を焼き尽くせ。《ファイアショット》』
『地の魔晶よ、その力によりて、我が眼前の敵を圧し潰せ。《ロックバレット》』
『水の魔晶よ、その力によりて、我が眼前の敵を押し流せ。《アクアバレット》』
『風の魔晶よ、その力によりて、我が眼前の敵を薙ぎ払え。《ウインドバレット》』
魔法を集団で放ち、俺の行動を阻害して圧し潰そうと考えたようだが‥‥‥‥それは全くもって意味がない。
俺は拳で魔法を殴りかき消していく。それは魔法を放った者たちにとって、理解が出来ない現象だった。
「な、なに!?」
誰かの驚きの声が上がったが、そんなのお構いなしに俺は近づき、全員を殴り倒す。そして、全員が地に伏した。
「さて、誰かリリスの居場所を知らないか?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
誰からも返事はない。別に死んではいないが、全員気絶してしまったようだ。しまったな、誰かは残すべきだったな。
仕方がない、奥に進んで、ジャック・ガルバを見つけるか。そいつに聞けば、リリスの居場所は間違いなく知っている。
俺は気を取り直して、奥への道を進んでいく。
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