第4話 魔法適性

 魔法とは魔晶に魔力を込め、発現させた現象の事を言う。


 魔晶とは魔法を発現させるために使われる結晶のことである。結晶にはそれぞれ属性があり、魔法適性と合致した属性の魔晶でなければ魔法は発現しない。

魔晶は消耗品であり、定期的な交換が必要である。だが、高純度の魔晶であれば自然に回復するため交換は不要である。また、質が良ければ、より多くの魔力を込めることにより、発現する魔法の規模が大きくなる。しかし、質が悪いもしくは必要以上に魔力を込めすぎれば魔晶は壊れてしまう。


 魔力とは魔法を発現させるために使われる力である。魔力の質の高ければ、より強い魔法に成り、魔力の量が多ければ、より多くの魔法を発現できる。


 魔法適性とは魔法を発現する際、付与される属性である。一生涯を通じて変わることはなく、遺伝的に継承されるものではない。魔法適性に適した魔晶でなければ魔法は発現しない。


 これはネイチャーに住む、誰もが知っている常識だ。今から約300年前にネイティア皇国の初代皇帝リチャード1世とネイチャー教の創始者ロウによって体系化され、布告された教えであり、それが今も広まっている。


 魔法適性には多くの種類がこれまでに確認されてきた。炎、水、風、地が一般的に多くの人間の使う魔法適性だ。それを一般魔法適性と呼ばれた。

 だが、一部の例外が現れた。それが雷、氷、音、樹だった。これらは亜種魔法適性と呼ばれ、世界中で年に一人、二人程度しか生まれない。

 だが、それに更に輪をかけて少ない適性、それが上位魔法適性と呼ばれた光、闇、時、金だ。これらの魔法適性を持つ者は十年に一人生まれるかどうか、というほどの少なさだ。

 力の強さは強い順に上位、亜種、一般と言われている。故に光の魔法適性は一般、亜種魔法適性を凌駕する力を持っている。


「‥‥‥‥だからここまで用意周到にリリスを狙ったのか‥‥」


 俺はスティーブに剣を突き付けつつ、返答を待った。


「‥‥ああ、光の魔法適性を持つ者が、力を振るえば、どうなるか分からない。ハッキリ言っておとぎ話の中でしか知られてない様な適性だ、例え光の魔晶が無くても危険は危険だ。それに手荒に行えば、最悪命を絶ちかねない、それだけは避けたかった。だから、兄の方から、妹を手放せさせようとした」

 

 イヤになるほど、狡猾な手だ。リリスの居場所をなくさせることで、リリスを奪い、ネイチャー教に売りつける、それが目的か。

 ネイチャー教が光の魔法適性者を放っておくわけがない。初代教皇ロウは光の魔法適性だ、ネイチャー教は光の魔法適性者を『聖人』や『聖女』と崇めてきた過去もある。リリスも光の魔法適性である以上、そうなることは既定路線だろうな。

 俺は頭を抱えながらも気を取り直し、剣をスティーブの首元から放した。必要な情報は引き出せた、後はもういいだろう。


「分かった。もういい、行け」

「あ、ああ‥‥」


 スティーブはベックに肩を貸し、連れだってこの場を去っていく。

 俺はそれを見届け、ブレイズとリリスの下に足を向けた。


「奴ら、ガルバ商会の目的が分かった」


 俺はリリスとブレイズに説明した。その結果、二人を更に追い詰める事になったとしても知る必要が二人にはある。


「なんだよ、それ‥‥‥‥リリスをネイチャー教に売り飛ばすことが目的だと‥‥俺の妹はものじゃねえ!」


 怒りに満ちた眼のブレイズ、対照的にリリスは‥‥‥‥笑った。


「そっか‥‥私が行けば、お兄ちゃんはラクに成れるんだね。じゃあ‥‥‥‥行くよ」

「! 駄目だ、そんなの‥‥俺が何とかするから、お前が気にしなくていい」

「でも、このままだと、お兄ちゃんが‥‥‥‥」

「俺の失態が招いた事だ。‥‥‥‥だからこんなこと言うのは筋違いだとわかっちゃいるが、どうしても言わせてくれ。親父もお袋も死んで、俺に残ってんのはお前だけだ、だから‥‥‥‥リリスだけは俺の側にいてくれ」

「っ‥‥お兄ちゃん―――!」


 リリスはブレイズに抱き着き、泣いている。ブレイズもリリスを放さないと言わんばかりに力強く抱きしめている。


「でも、ネイチャー教にお兄ちゃんも一緒に行けば、一緒に居られるんじゃ?」

「それはおススメ出来ないな」

「え、どうして?」

「どういうことだ?」


 リリスの意見を俺は否定した。その事に二人は疑問を持った。まあ、仕方がないだろうな。一般にネイチャー教は各国が国教にするほどの宗教だ。世間のイメージはそれはキレイなものだ。だが、一般的に光があれば闇がある。それはネイチャー教も同じくだ。俺もガレットの下で教えられ、実際に目撃しなければ、信じなかったからな。二人に言うべきかどうか悩ましいが、知らなければネイチャー教を頼りかねない。それだけは避けないとな。


「リリスはネイチャー教が欲している光の魔法適性者だ。光の魔法適性者は聖人、聖女と祀り上げられる。‥‥‥‥だがな、そうなったが最後、その者に自由はない。永遠にネイチャー教の檻の中から出ることは出来なくなる」

「え!? 嘘でしょ?」

「残念ながら本当だ。光の魔法適性者はネイチャー教の創始者ロウという存在を超えてはいけない。創始者ロウを超えることはネイチャー教の否定につながるからだ。光の魔法適性者は感情は必要ない。ネイチャー教の象徴である創始者ロウの様でなければならないからだ。だからすることは全てネイチャー教が決める」

「‥‥‥‥」

「可笑しな話だろう? 俺も最初教えられたとき、嘘だと思ったさ。‥‥‥‥だがな、聖人を初めて見た時、その話が本当だと、直ぐに分かった。眼がな‥‥‥‥死んでたんだ。うすら寒い、張り付けたような笑顔を浮かべてた。それが他の人には笑顔に見えてたんだろうな、だが俺には全くそんな風には見えなかった。‥‥‥‥今の聖人は俺の師匠―――ガレットの昔馴染みだそうだ。一緒の村に住んでて、育ったらしい。そんなときに光の魔法適性が確認されて、ネイチャー教が聖人として、連れて行き、次に表舞台で見た時には、酷い変わり様だったらしい。ガレットも痛々しそうに見てたな」


 ガレットにネイチャー教の総本山―――ユーリギオンに連れて行ってもらった時、初めて聖人を見た。その姿に俺は‥‥‥‥恐怖を覚えた。人を人と思わない、ネイチャー教の裏の顔を見せられた気がした。

 その様を俺に見せ、ガレットは俺に言った。物事には表と裏がある、表舞台に聖人を上げるために、裏舞台ではどれ程の残虐なことが行われているのか、それは表での偉業と対を成すのであれば、それは察して余りあることだ、と‥‥‥‥だから、俺は常に見続けなければならない、表を裏を、それが俺が生きるために必要な事だから。


「じゃあ、やっぱりネイチャー教も頼れないか‥‥‥‥くそっ、一体どうすればリリスを守れるんだ‥‥‥‥」


 ブレイズは己の、いや兄妹の現状を嘆く。‥‥‥‥このままだと、この兄妹は離れ離れになることは確実だ。現状でも借金取りに追われている。その上、ネイチャー教に光の魔法適性者として知られてしまっている以上、ネイチャー教はどこまでも追ってくるだろうな。そうなればリリスは連れていかれ、聖女としてネイチャー教に祭り上げられる。現状を打開する術は‥‥‥‥なくはない、か。だけどそれを選ぶかどうかは二人次第だな。

 やれやれ、随分と首を突っ込み過ぎた気がするな。冒険者になるためなら、二人を放っておいて、ベイオグラードに行くべきなのに、な‥‥‥‥だけど、仕方がない。二人には助けられた、浜辺で倒れてたところを助けてくれたんだ、なら恩返しをしなきゃ‥‥‥‥男じゃねえ。俺は恥じるような生き方をする気はない。ガレットに伯父上、それに何より母上のためにも、恥ずかしい生き方なんて出来やしねえ。だったら‥‥‥‥最後まで付き合うさ。


「二人に提案がある。二人が離れることなく生きていくことが出来る方法があるが‥‥‥‥聞くか?」


 ブレイズとリリスは俺の顔を見る。すぐには俺の話を真摯に聞かないだろう。疑ってかかるはずだ。だが、それは仕方がないだろう。二人は、甘い言葉に騙され、こんな状況に陥った。だからこんな状況で甘い言葉に食いつくようでは‥‥‥‥


「どんな方法なの、リッド?」

「教えてくれ、頼む」


 だが、予想に反して、アッサリと信じた。


「いやいや、二人とも‥‥これまでにも騙されたんだから、もう少し疑うべきだろう?」

「だますつもりなら、最初からそんな事を言わねえだろう。それによ、お前は‥‥‥‥リッドは信用できる。後、すまねえ、礼が遅れた‥‥‥‥俺の事を助けてくれて、リリスの事を助けてくれて、本当にありがとう」

「ありがとう、リッド」


 二人は俺に礼を言う。全くこんな状況だというのに、本当にこの二人は‥‥‥‥放っておけないな。


「どういたしまして、じゃあ二人が離れることなく生きていくことが出来る方法について説明するぞ。二人とも‥‥‥‥冒険者にならないか?」

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