侯爵家跡取り

「旦那様。あまりお急ぎになるのはよろしくないかと」

「話を端折りすぎるのはお前の良くない癖だぞシオン」

「お嬢様と許嫁候補の正餐です」

「それなら前に言ったろう。今こうしておくことが、後々あの子の自由を延ばすことになると」

「お嬢様がそれを理解されていればよろしいのですが、そうでなければただただ不幸です」

「……何が言いたい?」

「お嬢様を早く厄介払いしたいのかと」

「——口を慎めシオン。殺されたいのか」

「いいえ。失礼いたしました。ですが、お嬢様にとって、負担になっているのではと、使用人の間でも疑問の声が上がっております」

「ほう?」

「お嬢様付きの侍女と護衛から。お嬢様が体調を崩されたのも、正餐の日です。それからも口数が少なく、塞ぎ込んでおられます」

「それは私も気にはなっていた。妻もだ。私たちはあまりあの子の傍にいてやれないからな……しかしその分、愛情はたっぷり注いできたはずだが」

「犯罪臭が漂うほどに」

「口の減らないやつだな」

「ですから、輪をかけてご不安なのかと」

「だから話を端折るなと」

「愛情をたっぷり注がれてきたお嬢様にとって、ご自身の婚約を早急に整えようとされている、ように見受けられる状況に、戸惑いと焦りと不安を感じておいでなのではと」

「……一理あるか」

「十理です。愛されてきたご自覚があるだけに、何故婚儀を急ぐのだろうと、戸惑っておられるのでは。何事にも聡いお嬢様のことです。今までのご自分の何か、または積み重ねにより、その愛情を失ったのではと、不安にかられておいでなのかもしれません」

「何をバカな。陛下——今は殿下と言うべきかもしれんが——への牽制が目的だったのは確かだ。だがあの子の友達作りの比重の方が遥かに大きい」

 あの子は活発な性分だったから、女の子はもとより、男の子の友人もいた方が良いだろうと。本来であれば、デビュー前の娘に異性など近づけたくもないが、あの子を思えばこそ、妻とも話し合って我慢したというのに。

 あの子は負けん気も強い。子供は男子よりも女子の方が運動能力も高い。子供時代の今ならば、あの子の好きな体を動かす勝負事も、安心してさせられる。大人になったらもうできなくなる。そうなる前に、せめて子供時代は。

「ですからそこが——言葉足らずだと申し上げているのです。お嬢様は何事にも聡いお方です。旦那様と奥様がお考えのことを、そのままお伝えするべきです。言ってもまだわからないだろうなどと、お嬢様を侮りすぎです」

「……伝えろと? 殿下がお前の見た目を気に入ってすぐに婚約したがるだろう。だが子供時代の婚約ほどあてにならないものはない。殿下が持っているものは地位だけだ。それに付随する面倒ごとと引き換えにしてもその地位が欲しいのならば良いが、地位があるだけで頭も軽く運動能力も大して高くもなく、プレッシャーに弱く心根も良いとは思えない。殿下の地位に目が眩むのだけはやめて欲しい。だから大勢の人間と会って男を見る目を磨けと、そう伝えろと?」

「はい」

「お前は主人に向かって不敬罪で投獄されろと言うのか?」

「お嬢様の精神の平穏と将来と引き換えならば」

「今言っただけで軽く絞首刑だぞ。名目上100回は投獄される」

「バレなければよろしいのです」

「いっそ清々しいな」

「恐縮です」

「褒めてはおらんが……少し話してみよう。……気鬱の病ならば、その方が都合が良いとも思ったが」

 デビュー前の娘は基本的に表に出さないものだ。だと言うのに、今度はいつ会えるのかと、矢継ぎ早の催促を去なすのに気鬱は格好の言い訳だったのだが。

「あの子の機嫌を損ねるのは本意ではない」

「御意」


 さて、どう話すか。

 顎に手を当て考え始めるとほぼ同時、ノックの音が響いた。このノックは執事だ。

「入れ」

「旦那様。侯爵家のご子息がお越しになるまで2時間ほどです」

「ああ、わかった」

「——旦那様?」

 思い出し笑いを訝しむ声に顎から手を外す。

「ああ、いや……子爵家には驚いた、と思い出してな」

 執事と従者が顔を見合わせ、そして口元を緩めた。

「先触れもなく、と言うよりご子息が先触れのような真似をされるのは驚きましたね」

「あの物怖じのなさも天晴れです」

「あの向う見ずさは今となってはうってつけだ。殿下が相手だろうと割って入る気概があるやもしれん」

「布石となれば良いのですが」

「できる限りの手を打つだけだ」

「はい。まずは、侯爵家のご子息です」

「ミリーナに話す前に、まずは妻と話そう」

 不思議そうな顔をする執事と、頷く従者を従えて部屋を出た。

 


 

「ミリーナのことで」

「ミリィが何か?」

「気鬱の病だと、使用人たちが噂しているようだ」

「心配している、の間違いですわね?」

「……心配しているようだ」

 にっこりと微笑んだ妻に、小さく息を吐く。

「女性の意見が聞きたいんだ。どう思う?」

「ええ、女は女同士、と申します。ですがミリィに限っては、あなたの方が、ミリィの心境をよくお分かりだと思いますわ」

「私もそう思っていた。が……口をきかない、という怒り方は、どちらかといえば女性のものだと思う……」

「ミリィは怒って口をきかないということはありませんでしたわ。あの子が沈黙を選ぶのは、何か秘密を守る時と決まっています」

「そう。それなら理解できる。例えば……気に入りの使用人や領民に、領主である私に何かを黙っているように頼まれた、というならわかる。領主としては歓迎できないが、あの子は筋を通す子だ。曲がったことも嫌いと来ている。父親として妥協しよう。だが、それなら使用人にまで緘黙を押し通すというのは?」

「あなたにもお分かりにならない、ということですわね?」

「あなたにも、か」

「ええ」

「……私の従者が言うには、婚約者候補を引き合わせているのが原因として疑わしいそうだ」

 妻の瞳が溢れそうなほど見開かれる。

「その、従者の言葉を借りると、ミリーナを早く厄介払いしたがっていると、ミリーナに勘違いされているのでは、と」

 パシン、と鋭い音を立てて扇が閉じられる。

 それに内心、冷や汗が出る。

「あらあら。あなた……命が惜しくないようですわね?」

「いや! だから従者が」

「従者の不行届きは主人の責任ですわ。降嫁したとはいえ、いざとなれば王位継承権をもつわたくしの力をお忘れですの? 筆頭とはいえ、公爵の分際で? 分をわきまえなさい」

 だから嫌だったんだ、と思いながら急ぎ臣下の礼をとる。

 彼女が降嫁したから王になれた、と自他共に言わしめるほど、第一王女だった彼女は人心掌握に長けているし、ありとあらゆる力の効果的な使い方も知っているし、女性らしく裏と表の立ち回りも抜群に上手かった。普段の嫋やかな風情は何処へやら、娘が関わると途端に恐ろしい女王陛下に変身してしまう。

 ピリピリと肌が粟立つのは比喩でも気のせいでもなく、実際に彼女に与する精霊たちが、出番はまだかと荒れ狂っているからだ。

「私の従者の発言への罰は、後ほど改めて甘んじてお受けします。私が申し上げたかったのは、ミリーナが、私たちの愛する娘が、私たちの気持ちを誤解しているのなら、それを解くべく二人で話すべきではないかということです」

 私たちの愛する娘、に力を込めて発言すれば、シュルッと音がしそうなほどに、肌を粟立たせていた緊張感が霧散した。

 同時に、吊り上っていた柳眉が弱々しく八の字になる。

「そう、そうですわ。ミリィがそんな勘違いをしているなんて。一刻も早く解いてあげなければ」

 臣下の礼をとったままだった手を、小さな両手で包み、目の前で祈るように引き寄せる。同じように膝をついているその姿に、お怒りはとけたようだと内心安堵した。

「ミリィが望むのなら、一生独り身でも構いませんわ」

「まぁ男親の本音はそれだがね。あなたまでそれを言うのは」

「もちろん、ミリィが好きな相手と結ばれるのであれば、それが一番ですわ。ですけれども、仮に——仮にですけれども、王太子殿下が無理にミリィを望むようであれば、わたくしが力に物を言わせて王宮を破壊すれば良いことですもの」

 例えだろうか。比喩にしろ物理的にしろ、実行できる力があるので恐ろしいことこの上ない。

 殿下がどれほど切れ者に育つかは未知数だが、妻が名乗りを上げれば味方につくものは必ず出てくるし、陛下も妻には逆らえない。筆頭公爵は殿下の味方をするべきだろうが妻を敵に回したくはない。王宮は上を下への大騒ぎだ。

 そして妻に与している妖精たちは、妻が止めなければ大喜びで王宮を物理的に破壊し尽くすだろう。王国が誇る強化硝子も、もっとも硬いと言われる岩で作られた城壁も、見るも無残な最後を遂げる。

 彼女の能力は強過ぎて、表向きは存在しない最高機密の上

「……うん。だから、それをしないように、私が穏便な方法を提案して、あなたも承諾したよね?」

「ですけれど、その結果、ミリィが万一傷つくようでしたら、わたくしあなたを許しませんわ」

 にっこり微笑まれて、ひくりと喉が鳴った。

「ああ。傷つけないように、ミリーナと話をしよう」



 夫婦の話し合いが決着を見た頃合い、執事が侯爵家子息の到着を告げた。



「妹からお話はかねがね。変わらぬご厚誼に感謝しております」

 エリザベスの兄、と紹介された侯爵家子息と、父の話を聞くとも無しに聞きながら、必死に顔の前を扇子で隠す公爵家令嬢。

 ——ああ、まずい。非常にまずい。夢の中の少女にも言われたけれど……

 誰を好きで嫌いか、バレバレだと。

 そうなのだ。——人を好きになると、すぐバレる。それが恋情に近ければ近いほど。

 日頃言われることのない「綺麗になった」を連発されるくらいに、ダダ漏れになるのは女性ホルモンが過剰に分泌されるのだろう。

 普段のカラカラに干からびた状態から、一気に溢れ出るその影響は凄まじく、真っ当な大人の女性からは「綺麗になったねぇ」と目を見張られるが、母親——夢の中の少女の言葉を借りるなら前世の母親みたいに、性格が歪んでる女性からは、一気に向けられる目が厳しくなる。

 もっとも、傍観者だと気付いてからは、人を好きになるのはあくまで人間性に好意を抱くレベルになった。それが、前世の母親からの仕打ちに起因しているかどうかは定かではない。

 この少女より男爵は年下、王子は少し年上、だからいかに可愛くても恋情どころかときめきすらしないほど、徹底している少女だが——

 ……扇子があって良かった……



「ミリーナ? ……手が進まないようだけれど……何か嫌いな物があったかな?」

 公爵の声に顔を上げれば、給仕係がビクッと肩を震わせたのが視界の端に映り込み、慌てて首を振る。

 決して嫌いなものがあったわけではない。

 もともと、嫌いなものは和食に多かった。梅や納豆や小豆は嫌い。フレンチっぽい料理ばかりの公爵家の食事で、今の所遭遇していない。

「口に合わないものでもあった?」

 それにも首を振る。祈るような表情でこちらを向く給仕係の顔色が、心なし悪くなっているようなので、強めに首を振っておいた。万年肩凝りに加えて二度の交通事故で痛めた首が不安になるほどの勢いで振ってしまったが、どちらも無縁な少女の体は今の所痛みを訴えていないし、嫌な音がすることもなかった。

 過剰な味付けは苦手で、甘すぎるものを食べると鳥肌が立つし、辛いものは舌と唇が腫れ上がって痛いし、苦すぎるものは震えてしまう。だけど、今のところ、公爵家で出るものは全てセーフだった。この味付けの好みは成長して味覚が変わったと言うわけではない。大概の野菜を食べられるようになった10歳の頃からドレッシングはあまり好きではなくて、実は塩か醤油で十分だったし、さらに本音を言えば、何もかけずに食べるのが一番好きだった。

「……ミリィ、もしかして、緊張しているの?」

 小声だけれど、仔猫のような高い声は多分、全員の耳に入ったろう。

 食べているときは扇子で顔を隠せない。だからさっさと食事を終えたい。しかし焦ると絶対にとんでもないミスをしでかすのが自分なので、いつもより時間をかけてよそ見をしないように食事に専念していたつもりだった。

 そのせいで返って意識しているのがバレバレだったらしい。

 一目惚れしたわけではないが、観賞用として優れた人だとは思った。自分はその程度の『好ましい』という感情でも、結構バレる。しかもありがたくないことに、何故か恋愛的な意味で好いていると誤解されることが結構多かった。妙に妻子の話をされるのは、『俺結婚してるから』アピールだと思う。職場の飲み会で上司には『子供がいないっぽい』という話で盛り上る同僚を前に、「息子に、これ良いかなって思って」と絵本を見せてはにかんだ上司の顔が浮かび、烏龍茶で咳き込んだ苦い思い出がある。


 ——どうしていつもこうなるのかさっぱりわからない。絶対また誤解されてるパターンだこれ。どうしよう。変な返しをするとやぶ蛇だし……


「会うのは本当に久しぶりだね。……もう僕のことは忘れてしまった?」


 ……初めて会ったわけじゃないのか。


「僕もリズベットと一緒に、会いに来たかった」


 ……なんだそれは。リズベットって誰? リズ……エリザベスの愛称?


「あんなに懐いてくれていたのに、忘れられたのは寂しいけど、君はまだ小さかったから、覚えてなくても仕方ないかな」


 今も十分小さいですけど?


「……僕は髪も目の色も妹と違うから、兄妹と思えないかな?」

 え、と俯いたまま顔を思い出そうとする。エリザベスの髪は、明るい金髪。瞳の色は、ええと……顔立ちは、……ダメだ、思い出せない。少し……ふくよかな感じの女の子だった。

 エリザベス様の兄と紹介された人の顔は……きれいな顔だった。それは確かだ。でも、思い出そうとすれば、また掻き消えてしまう。

 扇子もなく顔を上げるのは嫌だったが、仕方ない。

「そうね、お祖父様に似てらっしゃるのでしょう。妹さまはお母様によく似てらっしゃるわ。お二人はとても仲がよろしいのに、今日はお一人でお招きしてしまって申し訳ないわ」

「いいえ。いつもは妹が一人でお世話になっております。今日くらいは、僕に譲ってもらいましょう」

 ふふふ、と少女のように笑った少女の母が、こちらを向く。

「ねぇ、ミリィ。お父様もお祖父様似だから、よく似ていらっしゃると思わない?」

 ……そういわれてみれば、髪の色も似ているし、印象がちょっと似ている気がする。

 そして何より、声も。

 自分は人の顔を見分けるのが苦手だ。だから、人の感情を読むのはもっぱら声だった。自分にとって声は大事なもの。けれど、相貌失認の影響が出ているのか、声に関しても、大多数の意見と違った。自分が「この人とこの人は声が似てる」と言っても、一度も同意を得られたことはない。だからきっと、自分は何か、音としての声ではなく、話し方か口調、強弱、何かそう言った音以外のもので判別しているのだとは思う。

「美貌の公爵に似ているなど、恐れ多いです」

「あら。ミリィはお父様のことが大好きだもの。お父様に似ているのは幸運だと思いますわ」

 ……なんだろう。裏を読むのが苦手なのに、この少女がこの少年に懐いたのは、父親に似ていたからだと、勘違いするなと釘を刺しているように聞こえる。

「ありがとう。と、言いたいところだが、果たしてそうかな? ミリーナは私よりも妻のことが大好きだから」

 微笑む父が、なぜか追い討ちをかけているように見える。

 そしてその瞬間、前世の父親の顔がなぜか浮かんだ。出来のいい子供の粗ばかり探して、鬼の首を取ったようにせせら笑っていた醜悪なクズ。子供は腹の裏など読めないだろうと、嫌味ばかり言っていた。

 体がドス黒くなっていくような嫌な感覚。頭が重くなる。何度味わっても気持ち悪さは増す一方だ。

「ミリィ?」

「ミリーナ?」

「アンナ?」

 この少女の両親の呼ぶ声にも気付かなかった。けれど、前世の自分の名前に近いファーストネームを呼ばれて、やっと意識のピントが今に合う。

 いつの間にかセンターピースに落ちていた視線を、名前を呼んでくれた人に向ける。

 気遣うような表情が、目が合うと同時、綻ぶように笑った。

 ……ああ、本当に、お父様によく似ている。

 視線を転じてそのお父様を探す。そこにいるのは少し眉を顰めているけれど、それでも美しい顔立ちの人。あの屑とは似ても似つかない。

「ミリーナ?」

 心配そうな顔に、なんでもないと首を振る。笑って見せる。気がかりそうではあるものの、同じように笑ってくれた。ほっとする。

 あの下卑た笑みとは似ても似つかない。

 それに安心する。

 お母様の方を向く。

 目が合うと、ちょっと拗ねていたような表情が、パッと変わって眩い笑顔になる。

 ああ、今日もとってもお美しい。

「……話を戻そう。少し前にミリーナは体調を崩してね。喉を壊して話せなくなった」

「えっ」

「今まで風邪一つひいたことのない元気な子だったから、家の者皆驚いた。食事が進まないところをみると、まだ快癒したわけではないようだ」

「知らなかったとはいえ申し訳ありません。今日はお見舞いとして訪問するべきでした」

「ミリーナ自身があまり大ごとにしたくないと思っていてね。予定の変更も嫌がった。それに残念だが、君の年齢では見舞いは受け入れられないな。……意味はわかるね?」

「——はい。僕は昔のように、兄のような存在でありたいと思っております」

「ほう?」

「……多忙な公爵よりもそばに、入れ替わりの激しい護衛よりも近しくありたいと思っております」

 

 両親は顔を見合わせて笑った。

 それがバカにしたものではなく、温かいものであることに少し安堵した。

 どういった意図のものかはわからないけれど。



 翌朝、「再会の記念に何か贈らせて欲しい」と言われた。

 両親の方を見ると、笑顔で頷かれた。

「……ありがとうございます」

 3人が笑った。

「何が欲しい? なんでも良いよ」

 なんでも。

 温かい笑顔で言われた言葉を、口の中で繰り返す。

 欲しいもの。

 元の世界だったら、欲しいものはたくさんあった。十年以上使っていることを知られた知人から「化石」と呼ばれたパソコンを買い替えたい。仕事用の眼鏡も新調したい。制服も、2着しかなくて梅雨時しんどかったからもう1着欲しい。そうだ、机も。

 だけど、ここではパソコンは必要ない。そもそも仕事がないから、仕事関係のものは全部要らない。

 今、必要なものは——

「ノート」

 どのくらい自分が持っている知識が通用するかわからないけれど、貴族の令嬢の仕事といえば人脈作りのはず。

 自分は人の顔が覚えられない。名前も覚えられない。字と字の順番が入れ替わったり、例えばシとイを間違えて覚えたりしてしまう。

 顔はもう仕方ないけれど、せめて名前と人となりを記録して行けば、何もしないよりはマシなはず。

「ノートが欲しいです」

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