第14話 許さないから

「……大丈夫!もし北條君が責められるなら、私も一緒に謝ってあげるから!」


北條君は私が望む選択をしてくれたんです。

だったら、もし彼が彼の大事な人たちに責められたら、私も一緒に謝る!


ごめんなさい。あなたたちの無念を晴らす機会を潰してしまったなら、謝ります。

後で必ず、謝ります……。


ですから、北條君を今生ではこちらにいさせてあげてください……!


私は、後ろから強く彼を抱きしめました。


しかし……


「先生たちは、あなたのことを信じていたわよ。きっと、一人でその結論に辿り着くってね」


「力で無理矢理止めたら、きっとキミの人生に禍根を残すと思ったんだよね。だから、姉さんに言って、彼女を羽交い絞めにさせてもらった」


その言葉は、聞き捨てなりませんでした。


……はぁ!?

何言ってるんですか!?まるで何か成し遂げたみたいな顔で!?

私、さっきのこと許してませんからね!?


泉姉弟の言い草に腹が立った私は、北條君から離れて二人に向かっていきました。そして食って掛かります。


「無責任なことを言わないで下さい!もう少しで北條君、人を殺すところだったんですよ!?」


「そうなったら、そうなったで、それは彼の選択だろう」


なんて無責任な!?

人間、何かの弾みでやってしまうことだってあるんですよ!?


二人の、特にヴィーヴルのニヤニヤがムカつきました。

すごく微笑ましいものを見るみたいな顔をしてたんです。


何ですか?

アナタ、私の反応見て喜んでたんですか!?


「なんですかそのニヤニヤ顔!ムカつきます!」


「……だって、可愛いから。青春してるなー、って」


フフッ、と微笑みながら彼女は言います。


カチーン!ときました。

大人の女の上から目線を感じたので。


「馬鹿にしないでください!」


あまり行儀のいいことではないのですが、思わず彼女を指差してしまいました。


「だいたいなんですか!あなたの惚れた男の子くらい、もう少し信じてあげなさいって!そんなことにヴィーヴルに踏み込まれる筋合いは……!?」


そんなことを思わず大声で言ってしまってから、私は自分の言葉に気づきました。


私の時間が、停止します。

思わず口を押えてしまいました。


……しまった!

今、ここで今の言葉を北條君に聞かれていたら、私の計画破綻しちゃう……!


見ると、ヴィーヴルも、その肩のブラックリザードまで口を押えていました。

もっとも、あっちは失言に気づいて、ではなく、笑いを堪えて。


……こいつら……!!


自分が玩具にされていることに、激しい怒りを覚えます。

睨みつけてやりました。


そこに。


「あの、先生。俺、なんかおかしいですか?」


北條君が、おそるおそるといった感じで聞いて来ました。


……良かった。

この様子じゃ、さっきの失言聞かれて無いみたい。


首の皮一枚で繋がった感じです。

まだ、北條君に私を選んでもらうという望みは生きています。


しかし。

この事態を引き起こしたこの二人!


「いや、あなたはおかしくないのよ。あなたはね……」


ヴィーヴルが、笑いを堪えながらそう北條君に返しました。


絶対許さないから!

覚えておきなさいよ!?


……何か、空気がまた変わった感じです。

先ほどまでの緊迫感が嘘のようです。


それを引き締めるためか、ブラックリザードが強引に話題を変えました。


「まぁ、ひとつハッキリしたことは」


さっきのこの外道の話には、結末に大きな情報があったんです。


「シャドウストーカーは、そこの男の母親だな。間違いない」


この外道が大林さんを殺害した後。

死体の処理に困ったそうなんですが、そのときにこの外道の母親がいきなり現れて、全く驚きもせずに「私に任せなさい」とその処理を請け負った。

そう、こいつは言いました。


……正気の人間の行動じゃ無いですし、その後エフェクトを使ったとしか思えない死体遺棄が行われたわけです。

こいつの母親がジャーム・シャドウストーカー。そう考えるのが自然です。


結末が見えてきました。


「早速、コイツの記憶を消した後、支部に戻って作戦を立てよう。大詰めだ。頑張ろう」


そう、ブラックリザードが私たちに呼びかけた後でした。


いきなりだったんです。


どこからともなく真っ赤な糸が、飛んできて。

外道を絡めとり。


まるで一本釣りするかのように、持ち去って行きました。

え……?


そして同時に起こるワーディング。


ふしゅるるる、ふしゅるるる。


闇の奥から、また、蜘蛛の化け物……シャドウストーカーの従者が現れました。

全部で3体。


囲まれています。


私たちは円陣を組んで、それぞれの得意武器を発現させます。


私は魔眼槍。

北條君は火炎拳。

ヴィーヴルは、獣化した右腕による、破壊の爪。


勝負はあっけなく着きました。

この従者たちは、私たちの敵ではありませんでした。


北條君の火炎拳により、一匹は火達磨になり。

一匹は私の槍の一撃で串刺しにされて仕留められ。

最後の一匹は、ヴィーヴルの爪で、体内から臓器を引きずり出されて絶命していました。


3体とも倒された瞬間、ワーディングが解除されます。


倒された従者たちの死骸は、見る間に溶けて消えていくのですが。

ブラックリザードは、焦った声でこう言いました。


「………まずいことになった。藤堂一美にこちらの事を知られてしまったらしい」


そして、彼は北條君に言ったのです。


「キミの姉さんに連絡しろ!!今すぐ逃げろと!」


その言葉が意味するところに気づき、私の血の気が引いていきます。


「藤堂一美は必ず、キミの姉さんを狙う!!」

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