第12話 誰がやったの?
ヴィーヴルが車を調達してきました。
白いライトバンです。
後部座席に私たち。
運転席に、ヴィーヴル。
助手席に、ブラックリザード。
ちなみに、ヴィーヴルの姿はスーツから茶色のジャージに変わってました。
完全獣化に備えてのことでしょう。
当然、ノーパンノーブラのはずです。
この痴女が!
「ブラックリザード、ターゲットの現在位置は?」
「今、この先の飲み屋で取り巻きたちと一緒に飲んでるみたいだ。もうしばらくすれば、店から出てくるんじゃないかな」
「じゃ、この辺で降りましょうか」
ヴィーヴルは車を停めました。
そして上着を脱ぎ始めました。
「え?先生何をやってるんですか?」
「完全獣化すると、ジャージの上着はダメになるわね。だから脱ぐの。もったいないから」
完全獣化に伴う痴女的理由について北條君は知らないので、そう聞きます。
最初は感心して聞いていたように見えたのですが。
私は気づいてしまいました。
北條君が、痴女の胸元を後部座席から肩越しに見てるってことに。
あ、気づいちゃいましたか。
この痴女が、ノーブラだってことに。
知ってます?ノーパンでもあるんですよ?
すごいですよねー。
……
……そりゃね、北條君。
私たち、まだ、告白もしてないし、付き合ってもいないですけど。
こんな、躊躇わず男に肌を晒すような痴女のノーブラが、そんなに価値があるんですか?
男の子って、そういうもんなんですか?
噂ですけど、この人、平気で外で完全獣化解くそうですよ!?
裸族ですよ!?
タダで見れちゃうかもしれないおっぱいなんですよ!?
それでもおっぱいが大きければ、それでいいんですか!?
男の子がエッチなのは分かってるつもりですけど!
このあまりにも節操のない構図に、ムカっとしちゃいまして。
思わず、感情が洩れていたのでしょうか。
北條君がビクンと震えました。
私の怒りを感じたんでしょうか。
慌てて私は怒りを引っ込めました。
付き合っても居ない男が他の女のおっぱいに釘付けになったことを嫉妬するなんて。
質の悪いストーカーみたいじゃないですか。
北條君がこっちを見たとき、私はノーマル状態に戻っていました。
危ない危ない。
そうです。
悪いのは北條君でなく、この裸族なんです。
それに、今の段階でジャージ脱ぐのは得策では無いと思いますし。
釘を刺しておきますか。
「ヴィーヴル、ジャージの上は着た方がいいと思います」
「でも、戦闘になったら脱がないと……」
私の提案に、ヴィーヴルは振り返って食い下がってきましたけど。
「これから尾行しようかってのに、Tシャツノーブラ女がウロウロしてたら、痴女かと思われて目立っちゃうかもですよ?」
言ってやりました。
私、間違ったことは言ってませんから!
車を降りた私たちは、あの男を尾行しました。
酔っぱらっているからか、まるでこっちには気づいていないようです。
私の隣にいる北條君は、悩んでいるようでした。
多分、お義兄さんの仇と、この事件の犯人が一致することについて考えているんでしょう。
相手がジャームとなれば、討伐するのは合法になるので、合法的に仇を討てるわけですけど。
それを「ラッキーだ」と思ってしまうとしたら、それは許されるんでしょうか?
おそらく、そういう思いだと思います。
北條君、真面目ですもん。
そういうことに悩む人です。
ラッキーだ、仇を殺しても殺人罪にならない。
運が良かった、なんて思ってしまえば、今回の事件が起きてしまったことも「ラッキーだった」ということになってしまいます。
そんなの、許されません。
でも。
本心では、誰でも大切な人を奪われたとしたら、誰でもその奪った相手の存在など許しはしないでしょう。
誰にも非難されず、やっても問題ないなら誰でも復讐に向かうと思います。
やらないのは、それをしてしまえば、自分もそいつらの仲間入りをすることになるから、しないんです。
そうなると、口では「ラッキーだと思っていない」なんて言っていても。
本心はどうなんだ?
そういう思いが湧くと思います。
複雑でしょう。
悲しいですが、私はこのことには多分力になれません。
何か零したいことがあるなら、それを受け止めてあげることくらいしか。
北條君が自分で答えを出すしか無いんです。
あの男が、仲間たちと別れました。
そして、フラフラと公園に入っていきます。
フラフラ歩いて、人気が無い公園内のベンチに寝そべり、高いびきをかきはじめました。
私たちは植え込みに隠れながらそれを見守っていました。
チャンスが巡って来たようです。
「周囲に人はいないわね?」
ヴィーヴルが最終確認します。
「大丈夫だ。姉さん」
「じゃ、いきましょうか」
ヴィーヴルは言うと同時に、サンダルを脱ぎ捨て、ジャージの上を脱ぎ捨てて戦闘準備を整えます。
そして両腕を広げて。
ワーディングを展開しました。
空間が凍っていきます……
私たちはその様子を見守りました。
あの男のいびきが停止します。
私たちはあの男を取り囲むように、一斉に飛び出しました。
「藤堂一夫、起きなさい!」
戦闘態勢を整えているヴィーヴルの厳しい声。
しかし、あの男は全くの無反応です。
というより。
ピクリとも動いていないです。
これは……!
「……姉さん、これって」
「ええ。そのようね」
ヴィーヴルとブラックリザードは目で頷き合って、こちらに言いました。
「……藤堂一夫は非オーヴァードのようだわ」
……そのようですね。
オーヴァードなら、特にジャームなら、この状況で狸寝入りはしないはずです。
もしこちらが多少の犠牲は恐れない人間なら、その場合倒されてしまいます。
……でも。
それなら、どうしてあの被害者は襲われたのでしょうか?
無関係とは思えないです。
おそらく、この男が何か知ってるはず……!!
すごく、嫌な予感がしました。
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