第11話 容疑者が浮かんできました

「それは確かに変ね」


キッチリスーツを着込んだ巨乳がそんなことを言いました。

UGN支部に戻り、自分たちが見たことを報告したとき。

最初に巨乳たちから出た言葉がそれです。


巨乳はパイプ椅子に座り、紙コップでコーヒーを飲みながら私たちの報告を聞いていました。

脚を組みながら。態度がムカつきます。

出来る女を装って、北條君を誘惑する気ですか。


脚を組むあたりがもう、狙ってますよね。


……あまり、巨乳の挑発的な態度にイラついていてもしょうがないだろ、というのは分かるんですけど。

どうしようもありません。


でもまぁ、話が進まなくなりますね。

耐えましょう。


あの後、あの被害者男性をUGNの息がかかった病院に連絡入れて放り込んで。

至急調査に出向いている巨乳とブラックリザードに連絡を入れたんです。

二人の耳に入れておきたかったから。


彼女たちの結論も、私たちと一緒のようでした。


「最初の被害者はめった刺しで損傷が激しく、その後の被害者たちは即死させられてて。ここにきて、アキレス腱」


ちなみに、あなたたちが駆け付けたときに、被害者はうめき声をあげていたのね?


そう彼女は言いました。私たちは頷きます。


「つまり、ワーディングが解けていた。何でなのかしらね?まぁ、私が予想するのは……」


コーヒーを飲み干しながら。


「ワーディングかけたまんまだと、被害者が苦しまないから人形を刻むのと同じで、面白くないから」


ですね、

彼女が目で同意を求めて来たので、私たちは頷きました。


「アキレス腱を切ったのも、逃げられないようにしてじっくりじわじわ殺すつもりだったんでしょうね」


未遂に終わったけど、と言いつつ紙コップを握りつぶして、ゴミ箱に投げ入れながら彼女は言います。


「さて、ここで問題。何で今回に限り、嬲り殺しにする気になったのか」


そんなの決まってますよね。

すぐに思いつきます。


「……恨みがあったから」


私の答えに、皆が頷きました。

大林さん以後の殺人は、理由は分かりませんが、事務的に殺していただけだったから、効率的に一撃で致命傷になる攻撃を仕掛けていましたが、今回はそうじゃなく、殺害過程の方も目的だったんです。

だって、苦しめてやりたいと思っていたから。


しかし、それって何で?

それに関しては心当たりがあります。


「その男ですけど、直前にある男と決別することを宣言してたんですよ。先生」


北條君、辛そうですね。

……嫌な記憶ですもんね。

いいです。私が続きを言ってあげます。


「北條君が私に相談したいことがあるって言うから、一緒に夕ご飯を食べに行ったんです」


え?キミらいつの間にそういう関係に?

一緒に訓練して愛が芽生えたのかい?

若いっていいよな。


ブラックリザード!話の腰を折らないで!


話を脱線させようとしてきます。ブラックリザード。

不愉快じゃ無かったですけどね、ある意味。それを狙って北條君を誘ったのだし。

でも、真面目に話してるときにチャチャ入れられるのはやっぱ少しムカつきます。


「……北條君に迷惑ですからそういう冗談はやめてください。ブラックリザード。……続けますよ」


一応、そう言っておきます。

完全に私が迷惑だなんていうと、誤ったメッセージを伝えちゃうから。

嬉しくないこともないけど、扱いに困るチャチャですよ。

止めて欲しいですね。


私は気を取り直すように、眼鏡の真ん中を指で押し上げて直しつつ、続けました。


「そのときに、ものすごく不愉快な男がやってきて、私、ちょっと暴れちゃって」


……ちょっと、私も思い出しイライラしてしまいました。

あの言動、最低だったな。

よくもまあ、あんな人格の人間に育ったものです。


「お店に居られなくなったから、北條君と一緒に逃げたんです」


ホラやっぱり何かが芽生えているのよ、だ。

若いっていいよな!


ブラックリザード!いい加減にしなさい!!


……やめてくださいよ。

今度は思い出してニヤけちゃうじゃないですか。

それ、今は色々な意味でマイナスなんですから!!


「……で。一緒に公園まで逃げたら、そこまで追いかけてきた人が居たんですね」


それが被害者です。


そう言って一拍置いて


「彼、北條君にさっきの男の無礼に便乗したことを詫びに来てたんですね。反省しているから許して欲しいって。で、北條君は……」


悪いと思ってるなら一夫と手を切れ。そう言ったと私は彼女らに説明しました。


そしたら……


「藤堂一夫。ブラックリザード、調べてる?」


「この街に来る前に、この街で問題を起こしてる人物については一通り調べたよ」


ブラックリザード、抜かりないんですね。

彼は即座に、藤堂一夫のプロフィールを諳んじました。


藤堂一夫。22才。

彼岸島重工創業者、彼岸島光成の娘孫の藤堂一美の長男として生まれる。

藤堂一美は彼を溺愛しており、そのせいか彼は小学校6年生頃から問題行動を起こすようになり、中学3年生のとき、クラスメイトを殺害する。

数年間の少年院生活の後、社会に復帰したが、過去の殺人経歴を「家の力で罪状を軽減した」と吠え、信じた連中は彼を恐れているもよう。

彼岸島光成は毎月一美に多額の仕送りをしており、その影響で金回りはいい。金をつかって人を集め、虚栄心を満足させている。


……あぁ、本当に最低の人物ですね。

ひょっとしたら彼だけのせいでは無いのかもしれないけど、そういう自分を選択したのは彼ですから。大半は彼の責任です。

北條君、聞きたくない話だろうな……特にお義兄さんのくだり。


私が彼をそう思ってみていると、彼がそれに気づいてくれて。

目で、私に礼を言うようにしてくれました。


……そんな。

大したことやってないから。


「まぁ、こうなってくるとかなり怪しい人物ではあるよね」


ブラックリザードの淡々とした意見。

こんな人物、放置しておくわけにはいかないだろう。

どうする?

言外にそう言ってます。


「……接触してみましょう。もし、彼がシャドウストーカーなら、そのまま戦闘になると思うわ。気を抜かないで」


パイプ椅子から立ち上がり、彼女は肩を回してから気合を入れるように、拳を胸の前で手のひらに打ち合わせました。

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