第10話 散々な彼の初陣
「ワーディングよ!」
感知した以上、向かわねばなりません。
私はスイッチを切り替えました。
恋モードから、仕事モードに。
これができない人は、エリートとは言えませんから。
ワーディングは、とても有用なエフェクトです。
非オーヴァードを無力化できますから。
加えて、オーヴァードなら誰でも使える。
とても素晴らしいエフェクトですが、欠点がひとつ。
使うと、近くにいるオーヴァード全てに気づかれてしまう
だから、乱用できないんです。
乱用すると、自分はオーヴァードです、と周辺のオーヴァードに宣伝することになってしまう。
それで不意打ちされたら、目も当てられません。
どこかの巨乳が、いきなり北條君に使ってましたが、あの巨乳、敵はシャドウストーカー一人だけだから、他に仲間は居ないはず、って踏んで使ったんです。
まぁ、確率的に偶然近くにシャドウストーカーが居る可能性、低いですけど、乱暴ですよね。
巨乳は乳のデカさ同様大雑把でろくでもないです。
現場が見えてきました。
後ろに北條君も一緒です。
植え込みに囲まれている、死角になってる少し開けた場所にそいつらは居ました。
「うあああ……」
呻きながら足首から血を流して倒れている男性と。
ふしゅるるるるる……
そこに群がる大型犬サイズの。
蜘蛛みたいな生物。
全部で4体。
大体のフォルムはタランチュラのようで。8本の脚があり、その先端が金属でできた蟷螂の鎌のようになっていて、鋭利な刃物として使えそう。
一匹のそれのひとつが、すでに赤い血で濡れています。
おそらく倒れている男性の血ですね。
……これは、従者ですね。
しかも、シンドロームにモルフェウスが確実に入ってます。
だって、脚に金属の鎌を錬成してくっつけてますから。
ですか。
色々分かってきました。
これは収穫です。
従者たちは、ふしゅるるる、ふしゅるるるる、と独特の呼吸音のようなものを発しつつ、牙と複眼めいたものを蠢かして。
こっちに気づきました。
4体のうち、1体が私、2体が北條君に襲い掛かりました。
「水無月!」
北條君、初陣だよ!頑張って!
あなたなら出来るから!
北條君が私を呼ぶ声を聞きつつ。
私は私の仕事をします。
一匹の鎌の斬撃を身を捻って躱し、魔眼を同時進行で出現させます。
地面を蹴って、前回りで飛び込み身体を回転させ、着地と同時に高重力場を発現させ、その一匹を圧し潰します。
グチャッと潰れました。あまり耐久力は無いようです。
北條君の方を見ました。
一匹は焼殺したようです。
ですが、もう一匹と揉み合いになってます!
助けなきゃ!
私は魔眼を両手で圧し畳み、魔眼槍を生成しました。
すぐさま跳躍し、北條君を襲ってる一匹を背後から一突きにします。
これで三匹!
あと一匹!
残りの一匹の場所は知ってましたし、放置すると放置するだけまずくなります。
私は速やかに最後の一匹も腕を伸ばして高重力場で圧し潰して処理しました。
ピギャ!という悲鳴が聞こえてきます。
……あ
「大丈夫?立てる?」
魔眼槍を消して、北條君に手を差し伸べながら。
しまった、と思いました。
……北條君、情けなかっただろうな……!!
彼の表情でもなんとなく伝わってきました。
さっきさ、絶対告白しようとしてくれてたんだよね?
でも。直後にこれじゃ、かっこ悪くて告白できないよね?
ほとんど私が倒しちゃって、ピンチを救われちゃうなんて。
ごめんなさい。でも、これは仕方ないの……!
まさか、恋のためだけに手を抜くわけにはいかないし。
お願い。へこたれないで……!
誰だって、初陣はこんなものよ……!
辛かったです。
「……すまね。そこまではいらんから」
北條君は私の手を断りました。
さすがに情けなくて手を取るのはできないってことなんですかね。
男の子は大変ですね。
「こいつらがシャドウストーカー?なのか?」
「ううん。多分違う。こいつらは『従者』だと思う」
気を取り直して。
私は倒れている男性の手当てをしながらそう答えました。
ガーゼや包帯代わりに、自分の制服のスカーフや、ハンカチを使います。
「従者?」
北條君もハンカチを出してくれました。
受け取りながら、北條君は従者を良く知らないようですので、説明してあげました。
「血液を操るシンドローム『ブラム=ストーカー』の代表的エフェクトよ。自分の血液を使用して、自分の意のままに動く疑似生物を創造するの」
前にも説明したんですけど、まぁ、実例見るまではなかなか頭には入りませんよね。
「そして、こいつら蜘蛛っぽい従者、脚を金属質の物質で強化してた。多分、物質創造のシンドローム『モルフェウス』も持ってるわね」
だから、シャドウストーカーはブラム=ストーカー/モルフェウスのクロスブリードか、それプラスアルファのトライブリードでしょうね。
モルフェウス持ちとなると、最初の事件の死体遺棄の謎も説明がつくわ。
私はそう言いました。
モルフェウスシンドロームの発症者は、モノを体積質量を無視して小さく折りたたむエフェクトを持っている場合があります。
通称「折り畳み」って呼ばれるエフェクトなんですが。
だから、これは予想ですが。
犯人は、大林さんの遺体を折りたたんで遺棄したのではないでしょうか?
そして、人の目が完全に離れた瞬間に、エフェクトを解除し、遺体を元に戻した。
おそらくこれで正しいはずです。
「その人、大丈夫なのか?」
「ええ。命に別状はないと思う。アキレス腱をぶった切られてるだけだから。それで……」
この人、さっき北條君に謝りに来た人よ。そして、攻撃を受けたのはアキレス腱。
最初の被害者大林さんは全身めった刺しで胴体真っ二つ。それ以降の被害者は頭部を一撃で破壊されるか、心臓を貫かれて一発で仕留められてるっていうのに。ここにきて、アキレス腱。
変よね。どうしてかしらね?
そう私は言いました。
北條君なら分かってくれるはず。この意味を。
……そう。さっきから私が手当てしていたのは、さっき良い雰囲気を邪魔してくれたあの男性だったんです。
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