第5話 いい加減にしなさい

北條君が下校中に通り、一人になる可能性が高い川沿いの道で待ち構えることにしました。

ここで一人になった北條君に、ワーディングかけて確かめるのです。


それで終了。北條君の無実が証明される。


……本当に、気分が悪いです。

大好きな人が疑われるなんて。


でも、これを了承しないときっとこの巨乳たちはもっと酷いことをします。

我慢するしかないのです。


すごく、汚された気がしました。

やはり巨乳の女にろくな奴はいません。


「さてと」


橋の下で、私と一緒に待機している巨乳が、ジャージの上を脱ぎ捨てて、履いていたサンダルも脱ぎました。


そのときに、気づきます。


「ヴィーヴル……何でノーブラなんですか?」


「ブラしてたら完全獣化した時に壊れるじゃない。外すわよ。そりゃ」


しれっと。


巨乳は、ジャージの下に白Tシャツを着ていたのですが、乳首がくっきりと浮いています。

無駄にデカイもので、ずっしりと重いシルエットが浮き出てて。


非常にムカつきました。

見せびらかして挑発するつもりですね?


あれさえ私にも備わっていれば、ひょっとしたら北條君はもう私の旦那様になっていたかもしれないのに。


「ひょっとして、パンツも……」


「当然」


しれっと。


……巨乳という生き物は、恥じらいと言うものが無いらしいですね。

見下げ果てた連中です。


「姉さん、来たみたいだ」


壁を這ってるブラックリザードが伝えます。


そうこうしているうちに、北條君がやってきたのです。


……さぁ、巨乳。

勝手にやればいいです。


北條君、気絶しても怪我しないでくださいね。

もし怪我をしてしまったら、申し訳ありません。


巨乳が両手を広げて、ワーディングを使用しました。


空気に、オーヴァードしか耐えることができない粒子が広がり、特別な領域が広がっていきます。


北條君はあっという間に意識を失い……


と、思ったのに。

北條君は、平気でした。


ただ、何か気づいたのか、キョロキョロしてます。


え……?


北條君、オーヴァード、だったの?


驚きと、嬉しさがありました。


なんということでしょうか?

私の想い人は、私と同じオーヴァードだったんです。


運命を感じました。すごく嬉しかった。


ですが。


「はい、確定ね。この状況で、被害者の周辺で無登録のオーヴァード……ジャームだと考えるのが自然よ」


巨乳のやつ、ほれみたことか、とばかりに北條君をジャーム認定して、出て行ったのです。


「泉先生?」


北條君は戸惑っていました。

当たり前です。

いきなりワーディングされた上、こんな痴女にわけのわからないことを言われたら誰だってそうなります。


「先生、とても悲しいです。臨時教師とはいえ、教え子を手に掛けないといけないなんて」


でも巨乳にそんな気遣いができるはずがなく。

一方的に、自分の言いたいことを言うのです。


「でもね。これが先生の本来のお仕事なの」


そう言った後。

巨乳は、完全獣化を始めました。


身体を獣人化させる、キュマイラシンドロームの代表的エフェクト……!


みるみる、直立したトカゲの獣人という姿に変わっていきました。

筋肉が発達し、衣服を圧迫していきます。


といっても、これは手抜き変身。

巨乳の本気の完全獣化は、これに尻尾と翼がつくのです。


その姿が、ドラゴン人間に見えることから、牝ドラゴンである「ヴィーヴル」が彼女のコードネームなのですが。


とりあえずは様子見ってことなんでしょうか?


……そんな気を回すなら、北條君を疑うのを止めなさいよ!


ムカつきました。

巨乳……!!


ロアアアアアアアアアア!!!


とりあえずの獣化が終わった巨乳は、驚きのあまり動けなくなってる北條君に突っ込み……


いきなり体当たりかけて、吹っ飛ばしやがりました。


てめえ!巨乳!

私の将来の旦那様に!何してくれとんじゃあ!!


吹っ飛ばされた北條君は、いきなり、経験したことも無い一撃を喰らったからでしょうか。

動けなくなってました。


そして、なんとか誤解を解こうと頑張ってます。


愚かな巨乳は、聞く耳を持ちませんでしたが。


久々でした。

怒りのあまり、笑いが零れてきたのは。


「……クリスタルオーブ?」


ブラックリザードが、何か言ってましたが、無視です。

私は、魔眼を迷わず出現させました。


その後の行動も迷いませんでした。


余裕をかまして北條君をいたぶっている巨乳の後ろ姿に狙いを定め。

いきなり、巨乳の周囲の重力を10倍以上にあげてやりました。


するとたまらず巨乳は、「キャア」とかわざとらしいエセ可愛い悲鳴をあげて、地面に倒れて動けなくなります。

ざまぁ、です。


私も出ました。


「ヴィーヴル!」


北條君。助けに来ましたよ。

安心してください。


「やっぱり、ちょっと乱暴すぎます!!こんな方法でジャーム認定だなんて!!」


無様に倒れている巨乳を見つめながら言いました。


「早く解決しないと、犠牲者が増える一方なのよ!?」


これぐらいで北條君をジャーム認定。

そこがそもそも間違っているんです!


「人違いだったらどうするんですか!?」


動けなくなってる巨乳を睨みながら続けます。


「北條君は!絶対に!ジャームじゃありません!そりゃオーヴァードだったのはオドロキでしたけど!」


これだけは断言します。

北條君は絶対にジャームじゃ無いです。

首をかけたっていいです。


だって、ずっと彼を見て来たんです。

私は、私の目を信じます。


「仕事に私情を持ち込むべきじゃないわ!いますぐこの重力を解除なさい!しないなら許さない!」


黙れ巨乳!


しかし。


そこまで言ったとき。

巨乳に、変化がありました。


10倍以上の重力に慣れ、立ち上がろうとしてきたのです。

腐っても、こいつもエリートなんですね。


むかつきますが。


緊張感がありました。一触即発の。

そこに。


「まぁまぁ姉さん」


ブラックリザードが割り込んで来ました。

彼は、橋の下のコンクリートから、川沿い土手の地面の上にいつの間にか移動していたのです。


「この少年がジャームだったとして」


北條君も驚いているようでした。

なんせ、黒い小さなトカゲが、口をきいているんですからね。

驚かないはずがありませんよね。


「……その場合、二人が言い争っている間に、逃げるなり襲うなりしないのは何故だい?」


そして。

この言葉で、ようやく巨乳が納得したのでした。


まったく。

いい加減にして欲しいですね。

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