第4話 とても可愛いのに
最初の事件を受けて、支部内で会議を行い、応援要請の決定がなされて。
実際にこの支部に、本部から応援が来るまでに、3週間くらいかかりまして。
その間、追加で殺人事件が4件も起きてしまいした。
情けなくなりました。
どんだけ、私たちはお花畑だったんでしょうか。
私、平和を守るために戦ってた、正義の味方のつもりだったのに。
ここにきて、それはもういいや、私は恋に生きるんだ、とか。
そんなことを考えて、あのときのプロ意識を失ってしまっていたのでしょうか?
自己嫌悪になります。
自分の仕事に誇りをもってあたらないで、恋も何もないでしょう。
そして、泉姉弟が学校に潜入できる手筈を整えるのにさらに1週間くらいかかり。
その間に、さらに1件の殺人事件が起こり、これで通算6件の殺人事件が起こったのです。
あぁ、なんですかこれ!?
昔なら始末書もので、焼き土下座ですよ!?
無力感に苛まれながら、事件を整理します。
最初の大林さんの事件の時は、被害者の遺体は激しく損傷されていました。
しかし。
2件目以降はそうじゃなくて。
全員。急所を一撃でやられて即死なんですよね。
状況は似てるんですよ?
白昼堂々が基本。
インターホンの呼び出し音に、来客を知った母親が対応に出向くと。
一緒に居た子供たちが母親が戻らないから変だと思い、見に行くと母親の頭が吹っ飛ばされた死体があった、とか。
酷いのになると、いってらっしゃいと手を振って夫を会社に送り出した妻が、送り出された夫が「あ、そういえば」と振り返るともう殺されていたとか。
ありえないタイミング、という点では共通しているんですが……。
死体の破壊に対する、執念が無い。
ここ、変だと思うのが普通です。
2件目以降は、目的が変わってしまった、と見るのが。
だとすると、最初に大林さんを殺した理由はなんだったのでしょうか?
そんなことを考え続けて。
毎日、辛い気持ちになっていました。
でもその日、ちょっと良いことがあったんです。
泉さんが数学の臨時教師としてこの学校に来た日の昼休み。
北條君が、自分の席でスマホを見ながら「ねぇよ」って独り言を言ったので。
思わず後ろから「何が?」と突っ込んでしまいました。
北條君、すごく驚いて。
可愛かった。
「……脅かすなよ。なんか用?」
「いや、北條君が昼休みにスマホ弄ってるって珍しいなと思って。いつも寝てるのに」
と、眼鏡を触りながら答えました。
そうです。いつも、北條君は昼休みは寝ています。
ビスケットを数枚食べて。あとはいっつも寝てるのです。
ビスケット……そんなのが昼ごはんなんて。
……お弁当、作ってあげたいなぁ。
まぁ、料理、したことないんですけどね。私。実は。
彼女になれたら、練習しないと。
気が早いですか?
「今日はちょっと、寝る前に調べたいことがあっただけだよ」
そう言って、スマホを仕舞ってしまいました。
そこまでなら、いつも通りだったんですが。
その日は、それから先がありました。
「……なぁ、ひとつ聞いていい?」
え?、と思いました。
そして、キター!とも思いました。
とうとう、会話ですか?
お友達になれるのですか?
彼女への足掛かりですか!?
恋がはじまるのですか?
歓喜を抑え込み、私は平静の姿のまま返しました。
「何?」
我ながら上手く出来たと思います。
「水無月さ、俺の過去話聞いてないの?俺、前にタメの男子に怪我させたことあるんだぜ?怖くない?」
北條君は私を正面から見据えながら、不思議そうに聞いて来ます。
何を言いだすかと思えば。
そんなことですか。
怖いわけないですよ。
だって。
「いやでも、北條君悪い人じゃないでしょ?」
それ、分かってますもん。
北條君みたいな良い人は居ません。
辛い想いをしているお姉さんを助けてますし、自分も辛いのに。
「そんなの分かるわけ?」
「分かるよ」
だって、ずっと見てますもん。あなたのこと。
ずっと見てて、私が常々思ってることを言ってあげました。
「本当に悪い人ってのはね、目が濁ってるもんだよ」
「でも、北條君はそうじゃないから」
すると、どんどん顔が赤くなっていきます。北條君。
照れてるんですか?
可愛いなぁ。
ギュってしてあげたいです。
もっと、照れさせてあげますよ。
ノンストップで、北條君の良いところをあげていきました。
最後の方は、悶えてましたね。
「まぁ、いつも怒ってるのはちょっとどうかとは思うけど」
ここしばらく辛かったので、すごく嬉しい時間でした。
だって、やっと、ただの挨拶する関係から、会話できる関係になれるのかな?
そんな予感がして、嬉しかったんです。
なのに。
その日の、会議の事でした。
泉姉弟と、会議室で今後の方針を話し合っていたんですが。
「こういうときは、大林というこの女の子周辺の交友関係から洗うのが基本よ」
まぁ、そうなんですけどね。
泉さんの……ヴィーヴルの言うことは。
最初の件が異常なら、最初の殺人にだけ、特別な意味があったと考えるのが基本。
そして殺人って犯罪は、顔見知りの方が多いはずですし。
見ず知らずの人は、あまり殺したくはならない。殺したくなるのは、良く知ってるから。
だから、顔見知りの場合の方が多いはずです。
特に、こういうケースは。
でも……。
「まぁ、確かめる価値はあるよ。やり方は少し乱暴なのは認めるけどね」
ブラックリザードがそう、ヴィーヴルの意見を後押しします。
でも、そんなの、無いんですってば!!
「北條君がジャームだなんて……シャドウストーカーだなんて、ありえません!」
バンッ!と会議机を叩いて、私は主張しました。
今回の件のジャームは、シャドウストーカーと呼ぶことが決まったので、これからはそう呼ぶのですが……
よりにもよってこの巨乳、私の将来の旦那様を「シャドウストーカーかもしれない」なんてほざくのです。
理由がキレてました。
「勘よ」
は?
……と思うじゃ無いですか。
何言ってんのこの巨乳、脳みその栄養、全部胸に取られちゃった?って。
普通だと。
でもね、実は嫌なことに。
彼女の場合、一定の説得力を持つんですよね。
ノイマンシンドロームは、脳細胞にレネゲイドウイルスが作用してしまい、脳が異常な性能を持つに至ったオーヴァードなんですけど。
彼ら彼女らのエフェクトで、突如真実に気づいてしまう……通称「インスピレーション」っていうエフェクトがあるんですよね。
これが作用した時、異様な確信があるらしいです。これは絶対に正しい、っていう。
まぁ、その通りなんですけど。そういうエフェクトですから。
彼女、トライブリードで、3つのシンドロームのうち、2つのメインシンドロームのひとつが「ノイマン」なんですよ。
だから彼女、ノイマンシンドロームには自信持ってるらしく。
インスピレーションが働いたら、それに固執しちゃうんでしょうか?
……そのせいですかね。
調査捜査系の仕事で、このご姉弟が評判悪いのって。
調査捜査中に、インスピレーションが働いて、そっち方向に固執して、結果、調査捜査自体に迷惑をかけてしまう、みたいな。
真実に気づくって言っても、断片ですからね。
今回だって
「あの少年のお姉さんと話したときに、感じたのよ。ああ、この子の弟、精神的におかしくなってる疑いがあるな、かなりやばいことになってる、って」
「それは北條君の家の過去のご不幸から来る、心の傷ですよ!」
これで平行線になってます。
怪しい被害者の近くに、何かしら精神に問題を抱えている人間が居る、怪しい、っていうヴィーブル。
そんなわけない、って全否定する私。
いっそ、盗聴した時のことを言ってやろうかと思ったりもしましたが、そんなことをすれば、「あなた、この件に関わるべきじゃないかもね」なんて言われかねませんし。
せいぜい「私は毎日北條君に挨拶して、彼の様子を見てました!彼がそんな、酷いジャームだなんてありえないです!」これぐらいしか言えませんでした。
「それでも疑うなら、北條君の家に盗聴器でも仕掛けてみますか?私、そういう作業得意ですよ!?」
「それだと時間かかるでしょ。その間に、7件目が起きたらどうするの?」
もう、ホント、平行線。
巨乳への怒りで、ムキーッ!ってなってました。
で、もうしょうがないから。
「……ワーディングだけですよ?それ以外は承知しませんからね?」
それで、折れることにしました。
先制攻撃、拉致、その他乱暴すぎるアプローチ方法は絶対認められませんので、それで手を打つことに。
北條君が疑われるだけでも、あまり気分のいいものではありませんけど、他の手段をとられるよりはマシですから。
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