第13話
タクシーを降り、俺は河川敷へと走った。
辺りはもう暗くなってきており、街灯も少ない。
俺は必死になってその暗闇から人影を探した。
暫く進むと、少し下った所に人の気配を感じた。
転ばないよう、慎重に降りる。
目を凝らしてその人影にゆっくりと近付く。
「サキエ・・・」
「サトシ。本当に来たんだ」
サキエの手には何も書かれていない手紙がクシャクシャになって握られていた。
「その手紙」
「サトルから。今日、家に届いたの」
サキエは今にも泣き出してしまいそうだ。
「信じたくなかったし、信じられなかった。
でも、サトルに信じさせられちゃった。
サトシが来たのでトドメよね」
サキエの頬に涙が伝う。
俺はサキエが泣いている姿を初めてみた。
「サトルは私が望む事を全てやってくれたの。
本当に・・・全て。
そしてこれが、一番望んでいたこと、だってさ。
勝手だよね。
本当に。
一発殴ってやればよかった」
サキエはもういつものサキエに戻っていた。
俺が思っている以上にあっさりと自分の心の整理を終わらせた様だ。
「で?
サトシはどう思ってるの?
まだウジウジしてるワケ?
まだいろいろ納得してないワケ?
サトルがやってきたこと、無駄にするワケ?」
俺は10年前言えなかった事を今、漸く口にしようとしている。
色んな御膳立てをされて、だ。
「俺と付き合ってください」
「結婚してくださいって言えないのかお前は」
「いや、まだ付き合ってもいないのに」
「付き合おうが結婚しようが同じだよ!
サトルが保証してくれてるんだから!」
「あ、あの」
「何?」
「キスしないと」
「すれば?」
「ハイタッチで終わらせようか?」
「両方するの!」
サトルの手紙の最後にはこう書かれていた。
「7月10日19時8分、あの河川敷。
暗闇の中からお姫様を見つけ出し、キスとハイタッチをすること。
そうすれば、二人の幸せは永遠に続くでしょう
サトルより」
宛名の無い手紙 T_K @T_K
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