第12話

「10年前のこと。


1つ1つ、説明していくね。


サトシがサキエに告白しようと思うと僕に話してくれた時、


僕は凄く嬉しかったんだ。


そんな大事な事を僕に言ってくれるんだって。


僕はサトシとサキエが自然に付き合う事になれば良いなとずっと思っていたんだ。


サトシは優しいから、ずっと僕の事を気にしていて、


サキエに言う事が出来なかったってのもずっと判ってた。


だから、サトシが決意してくれて、本当に良かった」


サトルは、俺がサトルの事を気にして言わない様にしていた事も判っていたのか。


「ただ、タイミングが悪かったんだ。


あの時に二人が付き合う事になっても、二人は幸せになれない。


寧ろ最悪な人生を歩むことが判った。


色んなパターンを模索したよ。


でもどれもダメだった。


サキエがサトシの告白を受ければ、絶対にOKと返事をしてしまうのも判っていた。


唯一の解決方法は、僕がサキエを奪う事だったんだ」



今考えてみれば、サトルは完全に断言していた。


サトルには一体何が見えているんだろうか。


何を知っているんだろうか。


「サトシには悪いと思ったけれど、最良の選択を僕は選んでいった。


二人が幸せになる為の選択を。


その結果、1つだけ弊害が発生してしまったんだ」


手紙を持つ俺の手は小刻みに震えていた。


「僕が28歳で死ぬこと。


それを僕自身が確定させてしまった。


後悔は全くなかった。


僕は二人の事が大好きだから。


理想は3人でずっと同じ様に居たかったんだけれど、


そんな僕のワガママは流石に通らなかった」


こんな話、信じられるワケがない。


でも、信じなければ、様々な事が理解出来なくなる。


「僕はサトシと友達になれて本当に良かったと心から思ってる。


僕が辛い時、いつもサトシが側に居てくれた。


僕が選択しなくても、サトシはその選択に関係なく、側に居てくれたんだ。


サキエも同じだった。


だから3人で居られた時間は本当に幸せだった」


サトルがそんな風に思っていてくれたなんて、考えもしなかった。


支えられていたのは俺の方だと、ずっと思っていたから。


「仲直りする事はいつでも出来たんだ。


でも、そうすると二人が幸せになれない。


だから僕はサトシと仲直りする事は一番最後にしようと決めた。


サトシには辛い思いをさせるけれど・・・。


僕が死んだ後になってしまうけれど・・・。


それでも良いと思ったんだ」


今思えば、サトルはいつも俺が望む通りの事をしてくれていた。


よくよく考えれば、俺の機嫌を良くすることも、


仲直りさせる事も、サトルなら簡単に出来たはずだ。


「それに、仲直りは死んだ後じゃないといけなかったんだ。


サトシは優しいからさ。


あの鈍感な僕の母さんが知ってるくらいなんだよ?僕が気付かないはずないじゃないか」

一番辛かったのは、きっとサトルなんじゃないだろうか。


俺は何度も何度も涙を袖で拭いながら手紙を読み進めた。


「一番辛かったのは僕だったんじゃないかって思った?


全然。僕は幸せだったよ。


だって10年間、サキエと一緒に居られたんだ。


独り占めしてみて凄く良く判った。


サキエは本当に素敵な人だよ。


サトシには勿体ないかもしれないね!」


なんだよ・・・余計なお世話だよ・・・サトル。


「サトシは気付いていなかっただろうけど、


サキエは僕と二人きりになるといつもサトシの話ばっかりするんだよ。


10年の間も、時折サトシどうしてるかなぁって言うんだ。


流石に焼きもち焼いちゃったくらいだよ。


でも、そんな二人の邪魔をしたのは僕のせいだ。


本当にごめん」




少しくらい・・・焼きもち焼いとけ。



「もっと沢山書きたいんだけれど、


これ以上書くとダメみたいだから最後に1つだけ。


ありがとう。サキエの事、よろしく・・・」


最後の1文を読み終え、俺はすぐにタクシーへと飛び乗った。


「すいません。ここに向かってください」


運転手は何も書かれていない手紙を差し出す俺を怪訝な顔で見つめていた。

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