第11話
翌日、お昼ご飯を食べ終えた俺は、帰り支度を済ませていた。
おばさんは新幹線で食べる様にと、沢山のおにぎりを作ってくれていた。
おじさんが行きと同じく帰りも駅まで送ってあげると
車を出してくれたのも有難かった。
「またいつでも帰っておいでね」
そう言いながらおばさんはおにぎりを手渡してくれた。
帰っておいでという言葉が凄く特別な言葉に聞こえた。
京都駅の送迎レーンに車が着く。
「身体に気を付けて、いつでも連絡くれれば良いからね」
おじさんはいつもと変わらず優しい顔でそう俺に言い残し、車を走らせた。
俺はその車が見えなくなるまで見送った後、新幹線のチケットを窓口で購入した。
お土産を買う時間も考え、少し遅めのチケットを取ったのだが、
思いの外、買い物が捗り、あっと言う間にやる事が無くなってしまった。
少し休憩をしようと、駅近くの喫茶店へと向かう。
流石に混雑していたのだが、何とか席を確保する事が出来た。
アイスコーヒーをテーブルの上に置き、
荷物の整理をしようと、お土産をバッグの中へと詰め込んでいく。
内ポケットにサトルの手紙が入っている事を思い出し、
クシャクシャになるのは嫌だなとテーブルの上に置いた。
パズルを組むかのようにバッグの中へ手際良くお土産のお菓子を詰め込んでいく。
バッグは行きよりもみっちりと膨らんでしまった。
旅行に行くといつもこうなるよなぁと思いつつ、アイスコーヒーを手に取る。
ストローを口元に持っていき一口吸った時、微かにポタッと音が聞こえた。
結露してカップの側面に溜まった水滴が滴り落ちた様だ。
見るとテーブルに置いていた手紙の上へと、水滴が落ちてしまっている。
「ヤバッ」
すぐテーブル脇にあった紙フキンでと手紙の水滴をトントンと叩く。
そこまでふやけた様子は見えなかった。
「良かった・・・ん?」
白い封筒に水滴が落ちた部分だけ、微かに色が変わっている。
「これ・・・何か書いてあるのか・・・?」
そう言えば、サトルと俺とで、一時期スパイごっこにハマった事があった。
その時、一番手軽に買えるスパイグッズだったのが、文字が消えるペンだった。
当時の文字が消えるペンは、
消えるペンと出るペンの2本1セットで使うものだった。
おじさんと同じで雰囲気に拘るサトルは特に気に入った様で、
事ある毎に俺に秘密の手紙を書いて遊んでいた。
サトルは文字を書いて消せるペンを、俺は文字が出るペンをそれぞれ持ち、
自分達だけしか見る事が出来ない手紙のやりとりを存分に楽しんだものだ。
「この手紙、もしかしたら」
俺はアイスコーヒーを急いで飲み干し、
バッグを抱えてすぐさま駅近くにある家電量販店の文房具コーナーへと駆けこんだ。
サトルの事を考えると、今ならもう少し本格的なものに拘るに違いない。
探してみると、ブラックライトを当てる事で浮かび上がるペンが幾つか並んでいた。
俺はそのペンを手に取り、すぐにレジへと向かった。
袋に入れますかと尋ねられたが、大丈夫ですと断り、商品を受け取ると、
どこか座れるところを探して、さっきの手紙にブラックライトを当ててみた。
俺の読み通り、白い封筒に文字が浮かび上がる。
表面には
「サトシへ」
と書かれていた。
裏目をライトで照らすと、日付が書かれていた。
それは、おばさんから聞いたサトルが亡くなった日の前日だった。
封筒から手紙を取り出し、ライトを照らして中身を読んでみる。
「サトシへ。10年ぶりだね。まず初めに一言言わせて欲しい。
ごめんなさい。
一言で済ませるのはどうかと思うけれど、この一言でしか上手く伝えられないんだ。
サトシを結果的に裏切る様なカタチになってしまった事。
10年間、サキエを独占してしまった事。
サキエを幸せに出来なかった事。
サトシをあんなにも泣かせてしまった事。
その全てに僕は謝りたい」
まるで昨日までの俺を見ていたかの様な書き出しだった。
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