第8話
何となく、自分達の将来が決まりつつあったある日、
俺とサトルは珍しく二人で話していた。
確か、このサトルの部屋だったな。
「サトル。俺、サキエに告白しようと思ってるんだ」
俺はサトルにそう打ち明けた。
その頃、俺は東京で働く事を決めつつあった。
これ以上、サトルの両親や親戚に迷惑を掛けたくない思いが
より強くなっていたのも、その決意を固める良い材料になっていた。
サキエに想いを告げるタイミングは、今しかないかもと決意を固めている時だった。
そして、告白する前には、
予めサトルにだけは言っておかなければならないと俺は考えていた。
サトルは一瞬ハッとした顔をした後、何やら難しい顔で黙り込んだ。
「いつ・・・告白する気なの?」
「明日か、明後日か、特には決めてないけれど。
言うタイミングが出来たら言おうと思ってる」
「そっか・・・」
「もし、サキエに断られたら慰めてくれよ」
「サキエが断ることはないよ」
「サトルがそう言うなら安心だな」
俺は床に寝転がった。
天上をぼんやりと眺める。
サトルに目を合わせる事が出来なかったからだ。
もしかしたら、サトルもサキエの事が好きなんじゃないだろうか。
そんな考えが俺の心にはあった。
もしそうなら、俺はサトルを裏切る事になるかもしれない。
今なら思う。
あの時、俺がサトルにこう聞いていたらどうなっていただろうか。
「サトル、サキエの事どう思ってるんだ?」と。
サトルのことだ。きっとはっきり言っただろう。
「好きだよ」と。
その方が、幾分俺の気持ちは晴れやかだっただろう。
「ならどっちが選ばれるか勝負だな」と。
仮にどちらかが断られても、お互いがお互いを祝福出来る。
今までの関係性を大きく壊す事なく、いつもの3人に戻れたはずだ。
だが、俺にはその一言を聞く事が出来なかった。
ずっと天上をぼんやりと眺める事しか出来なかった。
怖かった。
もし、サトルもサキエの事が好きだと知ってしまったら。
サキエの事を幸せに出来るのは間違いなくサトルの方だ。
そして、俺達二人が告白して、サキエがどちらを選ぶかと考えたら。
どっちを選ぶかなんて火を見るよりも明らかだ。
それが判っていた。判っていたからこそ聞く事が出来なかった。
俺は、無意識の内に、
サトルに言わせない様にプレッシャーを掛けていたのかもしれない。
「じゃ、俺帰るわ。それ伝えにきただけだから」
起き上がった俺を、サトルは何時もの笑顔で見送った。
「じゃぁ、またね」
サトルと目が合った。
一瞬寂しい目をサトルがしていた気がした。
そんな目をサトルがしているのを初めてみた気がした。
俺は逃げる様に、サトルの家を後にした。
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