第7話

俺がサトルと連絡を取らなくなったのは今から10年程前の事だ。


俺とサトルは、幼稚園の頃からずっと一緒だった。


ずっと2人一緒だったのだが、その関係に変化が生じたのは中学2年の時。


サトルの家の隣にある家族が引っ越してきた。


とても仲の良い家族で、サトルやおじさん、おばさんともすぐ打ち解けた。


家族には一人娘が居て、サトルや俺と同じ中学に通う事になった。


それがサキエだった。


サキエは物怖じしない性格で、


サトルや俺だけでなく、すぐにクラスの皆と仲良くなり、一躍人気者になった。


女子の中には、そんなサキエを疎ましく思った子もいたはずだが、


サキエはそんな事は一切気にしなかった。


いつの間にか、俺達は3人で行動を共にする様になっていた。


中学を卒業し、高校も3人揃って同じ高校へと進学した。


サトルはもっと上の高校を狙えるはずだったが、


どうも俺とサキエに合わせてくれたらしい。


サトルは全く嫌味もなく、


「良い高校に行けたとしても二人がいないなら楽しくないよ」


とあっさり言いのけた。


俺達3人の関係性は、高校に入っても殆ど変わらなかった。


そう、殆ど。





高校3年になり、進路をどうするか決めなくてはいけなくなった。


流石に、高校を決めた時の様に、3人一緒に、というワケにはいかない。


サトルと俺の成績には雲泥の差があったし、


俺は早く働き始めたいと思っていたからだ。


両親を亡くしてから、


それまでずっとサトルの家族や親戚に家や食事の面倒を見て貰っていた。


それを負い目に感じていたのは間違いない事実だ。


だから早く働いて、サトルの家族や親戚にはもう迷惑を掛けたくないと思っていた。


俺はその話を勿論サトルとサキエにもしていた。


サキエは寂しそうな表情を見せたが、サトルは何やら考えている様だった。




サキエにも将来の夢があった。それは美容師になることだ。


今でこそ、サキエの家はある程度裕福だそうだが、昔はそうでもなかったらしい。


「唯一買って貰ったおもちゃがこの人形なんだけど、


やっぱり暫くすると飽きちゃうのよね。


それでね、髪型変えたら新しいおもちゃだって思えるかなって時々髪を切ってたの。


それが切っ掛け」


一度サキエの部屋に行った時、その人形を見せながら、


俺達にそんな話をしてくれた。



俺とサトルは何度かサキエに髪を切ってもらった事がある。


それは見事に斬新な髪型に仕上げられたものだった。


俺はそのことを思い出し、少し笑いながら、


「サキエならいい美容師になれるよ」と言った。


「あ、今ちょっとバカにしたでしょ?


私がカリスマ美容師になってもサトシは切ってあげないからね」


「バカになんかしてないって」


「冗談よ冗談。倍の値段で我慢してあげる」


二人して笑っていると、サトルも少し遅れてニコッと笑った。


「大丈夫、サキエなら良い美容師になるよ」


「ありがと。サトルはタダで切ってあげるね」


「これで僕は一生、髪を切るのに困る事はないね」


「やっぱ俺もタダで」


「判った。タダにしたげる。但しどんな髪型になっても文句言わないでね」


「お前、俺の事、坊主か何かにしようと考えてるだろ」


「あ、バレた。良いじゃん。カリスマ美容師にカットされたカリスマ坊主」


「何でカリスマが付くんだよ」


「ただの坊主じゃないんだから良いじゃん。カリスマだよ?


それに坊主にするのって結構技術がいるんだから」


「そもそも坊主が嫌だっての」


「サトシは意外と坊主似合うかもしれないね」


「やめろ。サトルが言うと妙な説得力生むだろ」


「けってーい。サトシは一生カリスマ坊主」


「だからやめろって」


本当に俺達3人は仲が良かった。仲が良すぎた。


一緒に居る事が当たり前になり、これが永遠に続くものだと思っていた。


多分、続けようと思えばずっと続けられたはずだ。


だが、その関係性は、結局、たった数日で壊れてしまった。

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