第3話
サトルの家に着いた。
おじさんは俺と荷物を降ろし、先に家へ入っている様にだけ伝えた。
10年ぶりのサトルの家。
俺は敢えてインターホンを鳴らした。
鳴らさなければいけない気がした。
「はい」
おばさんの声が聞こえた。
「こんにちは、サトシです」
「はいはい」
ガチャっとインターホンが切れる音がした後、
おばさんが笑顔で俺を出迎えてくれた。
おばさんの目には明らかに涙が滲んでいた。
が、俺に気を使ってか、明るく振舞ってくれていた様だ。
その気遣いが、俺の心をザワつかせた。
「お邪魔します」
おばさんと俺は玄関ではなく、勝手口から家に入った。
近所と比べても立派な玄関があるにも関わらず、
サトルの家はいつも勝手口から入るのが決まりだった。
「その方が気兼ねなく遊びに来られるでしょ?」
おばさんが豪快に笑ってそう話してくれた事を思い出していた。
「本当はお葬式やお通夜に来てもらえばと思ったんだけどね。
あの子が嫌がる気がして」
おばさんは肩越しにそう話し掛けた。
俺はまた、何て返せばいいのか判らず、目線を下に落とした。
おばさんが奥の襖を開けると、そこには立派な仏壇があった。
真ん中には、写真が何枚か飾られている。
おじいさんや、俺も小さい頃数回だが会った事があるおばあさんの写真の隣に、
サトルの写真も飾られていた。
「サトル、サトシ君が来たわよ」
おばさんが一言そう言って、俺を前へと促す。
「今、冷たい麦茶持ってくるわね」
そう言い残して、おばさんは部屋から出ていき、そっと襖を閉めた。
俺はおばさんを見送った後、改めてサトルの写真を見つめた。
「サトル・・・」
本当に死んだんだ。
紛れもない事実が目の前にあった。
死んだと電話で聞かされた時とは、比べようのない波が俺の心に襲い掛かる。
グっと堪えようとしても、目から止めどなく涙が溢れる。
「ごめんな・・・サトル」
俺の心の中は、後悔と懺悔の二文字で埋め尽くされていた。
あんなに声を上げて泣いたのは初めてだったかもしれない。
両親には悪いが、両親が死んだ時よりも、きっと泣いていただろう。
おばさんが麦茶を持って来てくれていた事すら、俺は気付かなかったくらいだ。
その頃には、おじさんも駐車を終えて、家に戻ってきていた。
おじさんはおばさんに部屋を出る様、促した後、俺の隣にゆっくりと腰を下ろした。
おじさんは、俺が泣き止むのをずっと黙って待っていてくれた様だった。
俺がやっと落ち着いた時、おじさんがゆっくりと口を開いた。
「サトシ君。私はね。サトシ君がもしかすると来てくれないかもと思っていたんだ」
「・・・・」
「サトルがサトシ君にした事は、許し難い事だと私も思う」
「・・・!」
「私も全て知っているワケではないんだけど、
サトルから少しだけ話を聞いた事があってね」
「・・・」
「サトルに代わって、私が謝りたい。本当に申し訳ない」
おじさんは俺に向き直って、頭を下げていた。
「おじさん、やめてください。もう10年も前の事なんですから」
おじさんはゆっくりと頭を挙げた。
俺はどこを見ていいかわからず、ずっと畳を見つめていた気がする。
少しずつだが、俺は心の整理を始めようとしていた。
そうしなければならないと思った。
おじさんの為にも、おばさんの為にも。そしてサトルの為にも。
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