第2話
新幹線が京都に到着した事を告げる。
俺はボストンバッグを抱えて京都駅に降り立った。
駅には、サトルの
八条口から一般の送迎専用レーンへと向かう。
キョロキョロと周りを見渡していると、
「サトシ君」
と柔らかな声が俺の耳に届いた。
メガネを掛けた柔らかな表情の男性がこちらに手を振っている。
10年近く会っていなかったはずだが、
その男性がサトルのおじさんだとすぐに判った。
10年前と変わらず、物腰が柔らかく、優しい顔をしている。
「ご無沙汰してます。おじさん」
「こっちこそ、態々東京から呼び出して申し訳ないね」
「いえ・・・」
ただ遊びに来ているなら、もっと会話も盛り上がったかもしれない。
事が事なだけに、俺もおじさんも言葉少なにおじさんの車へと向かった。
バッグをトランクに押し込み、俺は後ろの席へと座った。
おじさんは俺がシートベルトをするのを確認すると、車を発進させた。
優しい運転の仕方が、俺に懐かしい感情を呼び起こさせた。
そういえば、良くサトルと一緒におじさんの車に乗せてもらってたっけ。
おじさんは後ろで騒ぐ俺達を叱るワケでもなく、
いつもニコニコしながら運転してくれていた。
1度だけシートベルトを外してサトルとじゃれついていた時は、物凄く怒られたが、
それも俺達を心配してのことだと、子供ながらに学んだものだ。
「こうやってサトシ君を後ろに乗せていると、昔を思い出すよ」
おじさんは変わらず優しい声で俺に話し掛ける。
俺はなんと返していいかわからず、バックミラー越しにおじさんへ目をやった。
少しの間だけ、おじさんと目が合ったが、
おじさんはそれ以上特に何かを言うワケでもなく、
また視線を前に向けて、運転を続けた。
俺の中で、サトルが死んだ事への実感が徐々に大きくなってきているのを感じた。
京都駅から30分程車を走らせたところに、サトルの実家がある。
結局、その間におじさんとは一言も話さなかった。
いや、俺が話せなかったと言った方が正しい。
口を開けば、サトルが死んだ事を認めてしまいそうだった。
認めてしまったら、俺の中にある思いが一気に溢れ出してしまいそうだった。
サトルに会うまでは、絶対に我慢しよう。
俺はそう新幹線の中で誓ってきたんだ。
そんな俺の意思を、おじさんはきっと汲み取ってくれていたんだろう。
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