キスして。

 リッカ。高校に入学する前の春休みに出会った、おどおどとした髪の長い少女。

 彼女はコンビニで万引き犯に間違えられていて、それをかばっただけだった。

 実際の万引き犯は彼女のそばにいた男だったし、それに気がついて見過ごすのも気分が悪いので、言うなれば自分のために彼女をかばっただけだった。

 その時、彼女はタカミリッカと名乗り、俺に何度も何度も頭を下げてありがとうと言い続けたのだ。

 「今まで、私なんかを信じてくれるひとはいなかったから、本当に嬉しいの、ありがとう、ありがとう、陸くん」と。

 彼女とはそれだけで別れたから、忘れてしまっていた。……といより、雰囲気が変わりすぎていて、月見山と一切結びつかなかった。

 というか、それ以上に。

 

「……お前、あのときの六花なら、苗字はタカミって名乗らなかったか?」

「え、えと、あのあとすぐ、お母さんが再婚して苗字が変わったの。だから、今は月見山だけど、あの時は高見」

「はあ……で、あの時泣いてたのは何だったの?」


 この際だから、と気になっていたことを月見山……六花に尋ねると、彼女は居心地悪そうな表情を浮かべる。


「えっと、その……入学から一年とちょっとたって、せっかく同じクラスになれたのに、陸くんが気がついてくれないから……寂しくて?」


 小首を傾げて、ごめんね、という彼女は可愛くて、文句を言う気なんて一瞬でなくなる。


「あ、そ……だからといってよくあんなめちゃくちゃなことを……」

「あ、あれは……! なんとか陸くんを引き止めたくて、それで……」


 人が変わったように慌てふためく六花をみて俺は、目元を綻ばせながら、キスをした。


「んっ……!」


 彼女の体は、最初こそ強張るものも、いつも通り徐々に力が抜けていく。


「で、付き合うってことでいいの?」


 そういえばはっきりした答えを聞いてなかったな、と思い、唇を離してから改めて六花にそう尋ねると、彼女は、満面の笑みを浮かべて、頷いた。

 そうして、彼女は悪戯っ子のような表情かおで、俺を見つめながらこういった。


「ねぇ、陸くん。キスして?」

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口付けの行方 空薇 @Cca-utau-39

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