お願い
「陸、なにみてんのー? って、なんだ
「……んー、いや、なんでもないわ。予習してないからノート見せてくれないかなって思ってただけ」
「げ! 数学予習あったっけ!? 南みせ……ってお前やってないんじゃん! 詰んだ!」
慌てて予習をやっている人を探し始めた友達を横目に見ながら、俺は昨日の月見山
泣きながら、キスを求めてきた彼女。
「……冗談よ。ごめんね、今日のことは、忘れてくれるとうれし……」
じっと俺を見つめた後でそう続けた彼女の唇が、なんとなくムカついて、それを塞いでしまった俺。
彼女は最初こそ驚いていたが、唇を離した後、「今日は帰って。明日も、この時間に待ってる」なんて意味ありげに微笑んで教室から出て行った。
表情には出さないようにしているものも、俺は、月見山のことが気になって仕方がなかった。
「来てくれたんだ、南くん」
「そりゃまあ、来るだろ」
教室の扉を開くと、昨日と同じ夕日に照らされながら、机に座って本を読んでいる月見山が目に入る。彼女は、俺の姿を見て机からぴょんと跳ねて立ち上がった。
微笑みを浮かべる彼女の唇につい目がいく。
月見山の方は知らないが、俺はキスなんてしたことなかったのだから、気になってしまうのも仕方がないというものだ。
それに気がついたのか、月見山が楽しそうにクスクス笑う。
「ふふ、南くん意外と純情? 何にも言わずにキスしてきたものだから慣れてるのかと思ったんだけど……?」
「あれはお前が頼んだからだろ。知らない女に勝手にキスするような馬鹿じゃないよ、俺は」
こっちが無理やりしたように言われたのが心外で言い返すと、月見山はそうね、と微笑みながら俺を手招く。
そういえば教室の入り口にもたれたまま動いていなかったことに気がついて、彼女のそばによる。
机一つ分くらいの微妙な距離を開けて立ち止まり、彼女をまっすぐ見据える。
……見れば見るほど綺麗な
だが、それをからかわれるのは癪なので、心の中の動揺を悟られないように、口を開く。
「で、何の用?」
「……ねね、私たち、お互いのことなんにもしらないよね。自己紹介でもしとく?」
話を無視されてため息をつきながらも彼女に言葉を返す。
「……
「あ、そうね。確かになにも知らないけどなにを知ればいいのかしらね?」
彼女はまた楽しそうにクスクス笑う。
「で、何の用か、だっけ? ……私ね、南くんにお願いしたい事があるの」
彼女はそういうと、微妙に空いていた距離を詰めて、ちょうど彼女の額のあたりにある俺の肩に頭を乗せた。
「……なにを?」
動揺を悟られないように、努めて冷静な声を出すと、彼女が苦笑したことを息遣いで感じる。
「ほんと、慣れてるの? 南くん。ちょっとは動揺してくれてもいいじゃない」
冷静を装ってるだけだ! と叫びそうになるのを堪えて、彼女の言葉の続きをまつ。
しばらく無言の時が流れたあと、彼女は諦めたように口を開いた。
「……ねえ、南くん。私と、毎日、キスして?」
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