アンダーグラウンド モスクワⅡ
金属生物が地球に来て、最初に接触した生物は人間ではなかった。隕石の飛来した山地、その周辺に生息する肉食獣が飛び散った一部の金属生物との邂逅を果たしていた。
では、金属生物がその肉食獣とふれあい、その意思や本能を吸収した時、それらは何を思ったか?
それらに下された命令は闘争だった。
そして
そのうち、
巣は、
その他、
夜はすっかり帷を下ろし、頭上には満月が登っていた。しかしその輝きは、モスクワ摩天楼の織りなす電子広告やネオン群の中にすっかりと埋もれてしまい、存在感はほとんどない。
「ニュース見たか?今日までで7人の人間が犠牲になってるらしい。全員、鋭利な爪で引き裂かれて殺されてるとか…。怖いねー」ローガンは携行火器の状態を確かめている。
「アズサ、本当に銃は持たなくて大丈夫か?」フリッツがアズサを気遣った。人間をたやすく屠る獣が相手だというのに、彼女は何も重火器は持たず、徒手空拳のみで立ち回るつもりだった。
「はい、大丈夫です。使い方もわからないですし、私には、この拳があれば十分です」
拳を握るアズサの瞳には確かな意思が宿っていた。その、人類特有と言える強固な意志こそが、人類を前に進ませ、
フリッツが口笛を鳴らした。もちろん、機械が実際に口笛を鳴らすことはできないのでこれはダウンロードした音声だったが。
「お前の父の哲学だな、それは。彼も凄腕の
「はい…父さんはずいぶん前にダンジョン攻略に行って、失踪して…。もう記憶もおぼろげですけど…でも、きっと生きてます。この街で、父さんと同じ生き方をすれば、いつかまた会える気がするんです。根拠は何にもないですけど」
「いや、そういう人間の本能的な感覚っていうのは、
アルトはいつもより神経質そうに見えた。呼吸は少し荒く、眼は見開いていて、高ぶる何かを抑えているように見えた。
「満月だからな…、昂るんだ、そういう体質なんだよ。満月の夜は感覚が過敏になりすぎて、肌とかちょっと痛いんだ」ころろとアルトのどを鳴らす音が小さく響いた。
「ははあ、なんか聞いたことがあるぞ。フリッツ、なんて言ったっけ、そういうの?」
「狼男か?あれは満月の夜にオオカミに変身する男っていう、昔の時代の創作だ。アルトの体に起きてる反応とは関係ないぞ。偶然だ」
「偶然かあ…。お、来たぞ」
四人の視覚に表示されていた地図情報が更新され、標的の予想される位置がポイントされた。
「行こう、先を越される前に」
ローガンとフリッツが走り出し、それを見たアズサとアルトもついていく。
≪地図情報の更新者、知らない名前だけど誰なんだ?≫
アルトが四人のプライベート回線で、ヴァーチャルコミュを用いて尋ねた。
≪ヴァシリだ≫
≪ヴァシリ≫ローガンとフリッツがほぼ同じタイミングで返答する。
≪偽名のつけ方には法則がある。ヴァシリは生まれた時からドロイドの、いわゆるピュアドロイドってやつだが、そういう人間的な癖みたいなのがあるのが面白いよな≫
≪ヴァシリさんと私たちが友達だから情報を流してくれたんですか?≫
≪奴の判断する有能な
「へ~」アズサとアルトは思わず感嘆の域を漏らした。
狭い路地を止まることなく駆け抜け、時には壁を駆け上り、建物の屋上を走る。パルクールの技術は賞金稼ぎには必須とも言える技術だ。アルトは人狼の、人を凌駕する脚力と野生的センスで、他の三人は靴に仕込んだ小型の電磁シールドを細かく展開し、壁や障害物を蹴り、強い反動を得て加速することで、夜の街を三次元的に駆け抜けていく。
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