第59話 密談


 マーティン王国で発見してしまった大問題を検証する機会は、思っていたよりずいぶん早くわたくしに訪れてくださいました。


「なるほど、なるほど。ああ、なるほど……。それは実に興味深、いえ、大変な旅となりましたね」


「本音を言ってくださって構いません」


「国内ばかりでなく他国! それも王族にまで影響を与えたもうとは! なんと素晴らしい効果でありましょうか! これぞまだ見ぬ魔法の神髄!」


「向こうが勝手に勘違いなさっただけです」


「勿論、そういうことにしておきましょう」


 こちらの話を聞いてくるくせに、肝心なところは一切聞いてくれないのは相変わらずですか。とはいえ、わたくしも隠さずにため息を零すことが出来るためお会いする相手のなかでは一番気が楽なのも事実ではあります。


「オズヴァルド様が思う通りであるとすれば、わたくしは二国を手玉に取ろうとする悪なる存在となりますが、そのあたりは宜しいのですか」


「そこに何か問題でも?」


 本日もまた自身の欲に忠実なるオズヴァルド様は、振りでもなく本心でわたくしの疑問の意味が分からないといった様子でありました。

 ダンテ様と親友となり、迷惑はだはだしくもライバル宣言まで出してくださったオズヴァルド様ではありますが、まだ明確なわたくしへの恋心を持っているわけでは……、この台詞、事実説明であるのですが自意識過剰の痛い子のようで少々心に来ますわね。


 こほん。

 ともあれ、そんな方ですので、わたくしが会う時に気を張り続ける必要がないというメリットもまた事実。


「それにしても、……やはりボクもついて行くべきでしたね」


「御父上の心労を無駄に増やすべきではありませんわ」


「ボクにもそれなりの情というものはあります。が、探求心に勝るものはなしというでしょう」


「好奇心は猫をも殺しますわ」


「虎の子が欲しいのであれば致し方なしといえましょう。まあ、終わってしまったことをこれ以上蒸し返しても仕方ありません」


 ティーカップを置くのを合図として、本題へと移ります。なにも、近況報告だけで彼と二人っきりで会っているわけではないのです。そもそも、彼と二人っきりで会うこと自体が楽でも、それが伝わると面倒くさいのがこの国だけで二人も居らっしゃるのですから。


「兄代わりとしてだからこそ言いますが、彼女は手ごわいですよ」


「簡単ではないことは承知の上です」


「貴女の状況を踏まえれば、動く相手として分からなくはないとも言えますか……」


 そうです。

 二人の王子と貴族の長男だけでなく、他国の王子にまで求婚されているという噂のせいで通常の令嬢の皆さまはわたくしをそれはもう虫の如く毛嫌いしてくださっているのです。泣いてよいですか、良いですね。


 だからこそ。


「良いでしょう、それでは始めましょうか。ローザと仲良し大作戦を」


 検証を行う。

 それを表向きの理由として、わたくしは一度は振られてしまったローザ様と仲良しになるのです!!

 正直に言いますが、そろそろ仲良しの友人が欲しいのです! いい加減ひとりくらいわたくしの味方が欲しいのです!!


 オズヴァルド様にあまり借りを作りたくはありませんが、ここは贅沢を言っているわけにはいかないのです!


「彼女はボク同様に魔法オタクです。貴女が特別であると分からせるのが手っ取り早い攻略方法ですね」


「わたくしの魔法属性は水で魔法量も少ないとなればその手は少々難しいですね」


 とっとと本当のことを話せと目で語るオズヴァルド様を一蹴する。見つめ合うことほんの五秒ほど、先に居れたのはオズヴァルド様です。


「では、ボクの名を使ってまずは三人で会ってみましょうか」

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乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったのでライバル達と恋仲になってみせる。 @chauchau

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