第56話 一件落着しても
物語は急転直下を迎えることとなります。
複数の兵士に取り囲まれてしまえば、占い師は抵抗することも適いません。彼女が拘束された当初の理由は他国の令嬢に刃を向けたこと。そして、その後の取り調べによりサンドロ様の件も白状したことで彼女の罪は決定的なものとなりました。
さて。
この占い師ですが、彼女は最初はサンドラ様の御母上。つまりは、王妃様の大ファンだったというのです。元々それなりに有名な占い師だった彼女は、かつて初めて王妃様が民にお披露目された際に一目惚れしてしてしまい、そこから城に呼ばれるためにと必死な努力を重ねました。そして、そのかいがあり、彼女は城勤めとなります。
幸せだった彼女の運命を狂わせてしまったのは、お生まれになったサンドラ様を拝見された時。王妃様を拝見された時の数十倍の衝撃を受けた彼女は、その身に宿ってしまった欲望に逆らうことが出来なかったとか。
十年もの間、国民すべてに性別を隠し通したサンドラ様です。それはそれは可愛らしい赤子だったのでしょうけれど、だからと言ってやって良いことと悪いことがあるというもの。
さすがに処刑までは免れたようですが、彼女は人知れずどこかに幽閉されることとなり、その地にて一生を終えることとなるそうです。
とはいえ、わたくしがこの事件の結末を聞いたのは占い師が幽閉先へ連行されてからしばらくが経ってからのことでした。
どうしてか? それは、わたくしが病院にて軟禁されていたからです。
……。はい、軟禁されておりました。
確かに。確かにですよ。
あの場で、制止を振りほどいて頭をポールに叩き付ける行動が奇行だったことは認めましょう。その際に出来てしまった頭の傷を癒す必要があったことも納得の一言です。
だからと言って病院に軟禁はないだろ! 軟禁は!!
あるじゃん! 漫画じゃ普通じゃん! 転生した主人公がおかしな行動を取ってしまうとかよくある話じゃん! そういう時は別に止められたりはするけど、その後は普通になるじゃん!!
「お嬢様……、お嬢様……」
直接の面会が禁止されているから窓の向こうでメイドのニクラがずっと泣きながら俺のほうを見守り続ける光景が一週間以上続いてみろ! これのほうが心が病むわ! しかも王子様二人まで直接面会が不可能な完全仕様だよ! マジなやつだよ!!
そういわけでして、わたくしが退院出来たのは、事件発生から二週間が経過していた頃なのでした。
どうにもこうにもご都合展開が続く割にはしょうもない所で現実チックなのはどういう了見なのでしょうか。……まあ、今回に関してましては誰が悪いかと尋ねられればわたくしが悪いの一言なのですけれども。
「お嬢様……? もう少しご休息を取られたほうが」
「大丈夫よ、ニクラ。お医者様も仰ってくださっていたでしょう?」
「ですが! 呪いにて操られてしまった後遺症は何が起こるか分かりませんではありませんか!」
「呪いにはかかっていなかったとお医者様も仰ってくださっていたでしょう……」
「やはり別の医者を!!」
「そう言って十人以上に看てもらって全員にお墨付きを頂いたでしょう……」
わたくしの奇行は、占い師による呪いだと思われておりましたが、どの医者が、そして名のある魔法使いが看ても呪いの欠片も見られないと皆が首をかしげることになっております。呪いではありませんので当たり前です。
話を聞くに、わたくしに呪いをかけたことも占い師の罪に入っているらしいので、その点に関してだけは非常に彼女に謝罪しなくては参りません。それはそれとして、やったことがあまりにも重い罪ですので、あと性格的にも一生幽閉されておいてほしいものです。
わたくしは今、諸々の謝罪、そしてお礼を言いにサンドラ様の御城へと向かっている最中です。本日は、といいますか、最近はずっとアルバーノ様も御城にいらっしゃるそうですのでちょうど良いとも言えます。
「お嬢様がわざわざ出向かなくとも、あの御二人であれば喜んでいらっしゃると思います」
「許嫁でもあるアルバーノ様はともかくとして、他国の王子たるサンドラ様を呼び出すわけにはいきませんわよ。ただでさえご迷惑をおかけしているのですから」
「何を仰いますか! お嬢様のおかげでサンドラ様の呪いの件が解決したのではありませんか!」
「あれはあの占い師が勝手に自滅しただけよ」
謙遜でも何でもなく、本当にわたくしは何もしておりません。
わたくしがしたことは、王子二人に助けてもらいそして変な気を起こしただけです。……、うっ! 思い出しただけでも寒気が……。
※※※
「来るべきではありませんでした……」
「ですから、何度もご忠告致したではありませんか」
「わたくしと貴方では来てはいけなかったと思う理由が大きく異なっていると思うわ」
治ったはずの頭の傷が痛い。
いえ、これは傷ではありませんね。純粋に頭が痛いのです。これはもう重症です。頭痛が痛いとか言い出してしまいかねないレベルです。
城の中庭で繰り広げられている白熱した戦いを前にして、ほとんどすべての者が熱気に包まれております。包まれていないのは、その光景に落ち込むわたくしとそんなわたくしを心配してくれるニクラくらいなものです。
「これで僕の五百二勝目ですね。そろそろ諦めては?」
「はっはっは。面白いことを言うね? 五百一回も負けていることは勘定していないようだ」
「……、千回以上戦っているように聞こえるのですがわたくしの聞き間違いでしょうか。聞き間違いですわね」
決闘の後に熱い握手を交わす二人の王子の目と目の間には灼熱を超える火花はが散っては居りますがそれでもどこかさわやかな様子なのだけがせめてもの救いと言えるのではありませんでしょうか。
「あそこの結果表が嘘でなければ、今回の決闘が千三回目であるのは本当のようでございますね」
「…………そう」
二国の王子が、決闘を重ねる。
決闘といっても命を懸ける戦いのそれではありません。時には武を、時には知を、そして時には運を競う二人の決闘は正々堂々の名の下に、何とも言えず美しく気高いものなのです。
それだけを見れば、二国の友好が強固になっていくとみることもできなくはありませんが……。いい加減遠回りする言い方は止めておきましょう。
つまりは、わたくしの許嫁を賭けての決闘なのです。
賭けるな!!
人の許可なく!! そういうことを!
決闘で決めるなァァ!!
それとなァ! こっちの許嫁関係は国の中でしっかり話し合った結果での関係性だから王子だからって決闘とかでころころ変われるはずないだろ! 止めろよ! 周りの大人ども!!
などと、元気につっこみを入れる余裕があるうちに本当に帰れば良かったと思ったのは。
「…………」
木陰に隠れてこちらを憎悪の瞳で見続けるラウロ様を見つけてしまった時でした。
……手招きしてるよ。どうしよう。
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