第52話 占い師の到着


 王国からの命を受け、城へと参った占い師はわたくしが予想していたよりは随分とお若い女性でした。わたくし達の親世代程度の御年齢に見えましたので、決して若いわけではないのでしょうが、高名と聞いておりましたので、てっきりご老体の方だとばかり。


 しかし、彼女だけがサンドラ様にかけられた呪いを彼が御生まれるなる前から言い当てた唯一の存在です。

 それほどまでに素晴らしい方がどうして城仕えをしていないかと言いますと、聞いていて嫌になる話ですが、城の中でのやっかみが原因らしいのです。

 そもそも、呪いに関して確認が出来たのが彼女だけ。それも、御生まれになった後ですらサンドラ様の呪いを確認出来たものが居ない。と、なれば呪いに関しては王家に近づくための彼女の狂言であると言い出したものが居たそうです。


 サンドラ様の御父上であるマーティン王国国王がそのような噂を流すものを罰し、彼女を守ろうとしたのですが、先に彼女の方から遠い地へと離れていってしまったとか。

 それでも連絡がすぐつくようにはしていたようですが、こういう話はどこの世界でもあるものかもしれませんが、やはり嫌になってしまいます。


 どうして皆で力を合わせてサンドラ様を守ろうと思えなかったのか。そう思えるのは、わたくしが何も分かっていないからなのかもしれません。


「占い師の方がサンドラ様にお会いになられるようですよ、お嬢様」


「そう。これで少しは良い方向に進むと良いのだけど」


 話を聞いてももらえないわたくしですので、占い師の方が居らっしゃった今は、それはもう暇なのです。出来ることと言えば、ニクラとともに城の中庭で素晴らしい庭園を眺めることくらい。

 これはこれで心が洗われるのですが、なにも出来ない自分が歯がゆくもあります。


 わたくしの知識はバッドエンドのものばかり。加えていえば、バッドであろうとも、サンドラ様が性別を明かされたのは本当に然るべき相手である主人公に出会ってからですので、そもそもゲームでは問題なく呪いが解けているのです。

 実際、ゲームシナリオの中で呪いのせいで不自由な生活を送っていたサンドラ様の身の上話は多々あれど、呪いを解いたり、呪いのせいでおかしな目にあったことはなかったとなれば、わたくしの知識もまったく役に立ちません。


 攻略サイトであれば裏情報があったかもしれませんが、攻略に関係ないからと見ておりませんでしたし……。


「いまは待つしかありませんわね」


「そうです、お嬢様! せっかくですので、なにか甘い物をお届けになられてはいかがでしょう。きっと、サンドラ様も喜ばれますよ」


「喜ばすのはちょっと……」


「お嬢様……?」


「あ、いえ! なんでもないわ。そうね、それも……良いかもしれないわね」


 危ない危ない。首をかしげるニクラには笑って誤魔化しておきましょう。

 わたくしのせいで命の危険に会われているとはいえ、だから好感度を上げたいかと言われればそれは全力でノー!! なのです。難しいところですね。


「では、少しお時間を頂けますでしょうか。なにか良いものを調達してまいります」


「ええ、お願いするわ」


「お任せください!」


 一人になってしまっては、ますますやるべきことが見つかりません。美しい庭園を見続けていれば飽きるというもの。申し訳ありませんが、そもそもわたくしにそこまでの美的センスはありませんので。


 せめて何かするべきことを見つけなければ、このままここで昼寝をしてしまいそう……、いけない! いくらなんでも王家の庭で昼寝などは出来ません……ッ!


「…………、歩きましょうか」


 身体を動かしてしまえば、強制的に眠気も覚めるというもの。最近、疲れてしまうことも多かったですし、こうやって綺麗な空気に癒されるのも……。


「……今のは……?」


 庭園を走り去っていった女性は、間違いありません。ついさきほどサンドラ様を看ていたはずの占い師の方。随分慌てた様子でしたが……。


「…………」


 さて、如何しましょう。

 ……、いや、どう考えても怪しいじゃん!? 王子を看るために呼び出された占い師がたった一人で庭を駆けていくとかなにこれゲームじゃん! まさしくゲームな展開じゃん!


 え……。これ、俺が追いかけないといけない奴か……? いや、待て。追いかけて良いのか……? 下手に行動して……、ああ、でも!!


「行くしかありませんわね……ッ」


 今から人を呼んでは見失ってしまいます。

 見るからにイベント発生でしかありません。それも、間違いなくサンドラ様好感度関連の!! ですが、だからといって、サンドラ様の命に関わっている以上、放置なんか出来ません……。


「わたくしはこれから一人になってはいけない人生を歩めと言われているのでしょうか……」


 偶には一人になりたい時だってあるのに、そんな時にばっかりイベント起こったらいくらなんでもあんまりではありませんか!!

 世の中の主人公の皆さま! いまになって分かりました、いつも本当にお疲れ様です……ッ!


 などとくだらないことを考えながらでも、つつがなく尾行は行えたのです。わたくし如きの低レベルな尾行に気付かないほど占い師の方は慌てている様子。それは、後ろ姿からでもよぉく伝わってまいります。

 これはもしかすると、もしかするのでしょうか。……ですが、だとすればどうして登城の命令に従ったというのか。


 庭園の端、普段は庭師でもなければやってくることがない場所でようやく占い師の方は立ち止まります。

 ここで仲間と密会でもなさるのでしょうか。ですが、そうだとするとわたくしだけでどこまで出来るのか。やはりここは隠れて情報だけを盗み聞きする方向で……。


「サンドラたんくっそ萌えぇぇええ!!」


 ……なんとかなりそうな方向になりましたわね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る