第51話 サンドラ様を救え


 説明のつかない不幸が止まるはずがありませんでした。

 当然です。サンドラ様の運命の相手はわたくしではないのです。そのわたくしのために男性であることを世間に公表してしまった彼には呪いが降りかかるだけ。


 気が荒くなる子育て時期でもないのに森の獣が暴れ出すこともありました。それも、周囲の村を無視して、まっすぐ王都へと突き進むという異常もプラスして。

 長年城に勤め続けた料理人がサンドラ様の夕餉に毒を盛る事件も起こりました。毒見役すらも裏切ったために、毒を盛られてしまったサンドラ様は、幸いにして大事にこそ至らなかったものの、山賊同様に犯人である料理人はどうしてこんなことをしでかしたのか覚えていなかったのです。

 季節外れの台風が直撃したこともあれば、次の日には嘘のように快晴を見せることもありました。


 例を出すとキリがないほどの異常性にマーティン王国が巻き込まれていくなかで、アルバーノ様には帰国の指示がルークス王国より届けられました。

 友愛国の危機とは言え、いえ、だからこそ、そのような場所に次期国王たる王子を置いておくわけにはいかない当然の動きでありましょう。


 ですが、アルバーノ様はそれを拒否。

 理由は至極単純にして、頭痛が止まらない。


「ルイーザを置いて帰れませんよ」


 つまりわたくしには帰国の指示が出ていないということです。本格的にお父様はわたくしを亡き者にでもしたいのでしょうか。一人娘なのですから、せめてもう少し周囲の視線を……。


「サンドラ殿のことが気になるのも事実ですしね」


「おや。ありがたい言葉だが、私のことは気にせずに帰国してくれて構わんよ」


「僕が帰る時はルイーザと一緒以外はあり得ませんからね」


「それは残念だ」


 牽制し合っているライバル同士の会話……、なのでしょうが、その裏でアルバーノ様がサンドラ様のことを心配なさっているのは紛れもない事実なのです。やはり、アルバーノ様にとって、サンドラ様はかけがえのない友なのでしょう。


「ここまで来ると偶然が重なったというわけにもいくまい」


「どこでおかしな恨みを買ってきたのです」


「はっは! 覚えがあり過ぎて分からないな」


「あの……」


「それはあり得ないよ」


「どこのどいつの仕業なのか、まったく」


 聞けよ。


 ここ最近はずっとこれです。

 わたくしが話をしようとしても、一蹴されてしまうのです。それも二人そろって。


「ですから! これはサンドラ様がお生まれになった時よりの呪いが!」


「だが、それはもう解呪されているからなぁ」


「サンドラ殿は然るべき時に発表なさいましたからね。此度の件は別の呪いと考えるが妥当」


「タイミングから考えても、どう考えても解呪されてないという結論になるではありませんか!!」


 ニクラといい、どうしてこいつらはこの考えを真っ向から否定してくるんだ!

 人の話を聞けよ!!


「私は貴女と出会って覚悟を決めた」


「ですから、それが……」


「何を言うのです、ルイーザ! ライバルという点では邪魔ですが、貴女に惚れること自体を当然の理!」


「はっはっは、きっぱりと邪魔と言いおって」


「実際に邪魔ですので」


「その勢いを実の弟にも言えれば良いというに」


「今はそれはどうでも良いでしょうが」


 ずっとこの調子だよ!

 気付けよ! 分かれよ! 理解しろよ!


 タイミング! 男性であると発表してすぐに恐ろしい目に会っているのですから、なにをどう考えても呪いのせい以外がないでしょうが! ということは、わたくしが然るべき相手ではないということ以外にあり得ないでしょうが!!


「そうは思いませんか!?」


「……私に当たるな」


 男性二人が役に立たず、ニクラは色んな意味で恐ろしいため。

 結局わたくしが愚痴を零せるのは、ラウロ様だけとなっていたのです。


「私が貴様を恨んでいること、忘れているのではないだろうな」


「いまはそれ以上に周囲の反応が納得いきませんので」


 心無しかラウロ様に覇気が見られません。サンドラ様に危険が及ぶことがことが多くなり、四六時中気を張り続けていたからでしょう。

 そんなラウロ様の御様子に、サンドラ様自らが御命じになられ、彼女は本日非番となられたのです。とはいえ、非番になった程度で大人しくしているはずがありませんので、ええ、つまりはわたくしはお目付き役兼最近変な事(と周囲は思っている)を言い続けるわたくしを隔離しているのですわ。


「ラウロ様はわたくしが然るべき相手ではないことを納得してくださいますよね」


「考えてみたんだがな」


 失敗に終わり、要らぬ恨みを買ったこともありましたが、それでも何度もサンドラ様へアピール大作戦を決行した間柄です。出会い当初よりは、随分と話せるようになった……、とそれだけのことに感動しているわたくしが小さい……。


「事実としてサンドラ様が危険な目に会われている以上、貴様がどうかは正直どうでも良い」


「どッ! で、ですが! 然るべき相手を見つけて!」


「見つければ呪いが解けるとは言われていない。仮に、貴様が違ったとしてすでに呪いが発動している以上、問題は次のステージに変わっている。そうではないか?」


「うッ」


 そこを言われますと……。確かに占い師も、呪いが発動してしまったあとで然るべき相手をどうこう。などという言葉は一切発していないのです。

 ですが、そこはきっとゲームとしての御都合展開が……。ある、かは分かりませんけど、なにもないよりは……。


「それでもまだこの話を続けたいというのであれば」


「あれば……?」


「よくもサンドラ様を誤解させ、危険な目に会わせてくれたな。と貴様の首を」


「話を次のステージに進めましょう!!」


 こんなところで粛清エンドはごめんです!?


「それが良いだろう。とはいえ、いま出来る手はすでに打っている。あとは、待つだけだ」


「待つ、ですか」


「サンドラ様の呪いを言い当てた占い師を呼び寄せている。人里離れた土地に住まわれているので、時間はかかっているがな」


「サンドラ様をお救いになる方法を視て頂くのですね!」


「情けないが、それしか頼るべき術がない」


 魔法がある世界です。

 呪いも、前世の世界のようなものではなく、技術として明確に存在しております。ですが、存在しているということはそれなりに研究がなされていることであり、その対処方も多く存在しているのです。


 ですが、サンドラ様の呪いだけは別物です。

 事実、この十年間多くの研究者が解呪を試みて失敗に終わっているのですから。いえ、それ以前に、彼の占い師以外に、サンドラ様の呪いを感じた者すら居ないのです。呪いがかかっていると分かった後でも。


 ……、こんなことでしたらもっと攻略サイトでゲームの裏情報を見ておけばよかったです……。

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