第45話 立ち留まらずに歩きましょう
転生したわたくしが男に媚びうる嫌な女に見えている件について。
そんなわけがありませんわ。と笑って済ませることは出来ません。なにせ、三名ものサンプルがあるわけなのですから。
思い返してみれば、アメリータ様だけではなく、ローザ様もおかしいと言えばおかしいのです。
確かに、わたくしは彼女の意思を無視してご自宅にまで押し掛けた迷惑な女であったことでしょう。ですが、その後、そんなわたくしにオズヴァルド様が興味を示されたのです。
それも、主人公のように光属性の持ち主という分かり易い珍しさではなく、一見すれば変哲もない、どころか、面白みのないと吐き捨てられるべき存在に、あの魔法オタクことオズヴァルド様が興味を示された。
あの時は他に考えることもあって流してしまいましたが、今になって冷静に考えればオズヴァルド様に並ぶほどの魔法オタクたるローザ様が興味を示さないのはおかしいではありませんか。一度調べたあと、ただの魔法量の少ない女と斬り捨てるならともかくです。
これはつまり、魔法研究に常識を放棄したローザ様を以てしても、知的好奇心を超える嫌悪感をわたくしが抱かせているということ。
……、おや、これはもしかして詰、そんなわけありません!!
認めて諦めろ、とどこかで誰かが呟いている気も致しますが、まだここで諦めるわけには参りません! ラウロ様は、少し考えると言ってくださったではありませんか。つまりです、わたくしに抱く嫌悪感以上の提案を出すことさえできれば、渋々で嫌々で納得いかずとも行動を共にできる可能性が零ではないということ! ……、むなしいです。
「お嬢様、御茶が入りました」
「ありがとう、そこに置いておいてもらえるかしら」
まだお父様からわたくしは自国へ戻るように言われていないため、マーティン王国から離れることが出来ません。いっそのこと、ゲーム知識ではほとんど記憶にない近場の国に行くことも考えましたが、知識があってこの状況です。ここから何も分からない国に出向くのは……、危険が高いと考えざるを得ません。
ニクラがわたくしのためだけに淹れてくれた紅茶で心と頭を落ち着かせます。いま、無理に場を変えるのは得策ではないはず。幸いにして、アルバーノ様もまだいらっしゃるのですし、ここで一気に彼と仲睦まじい姿をお見せして、サンドラ様には諦めてもらい、かつ、マーティン王国内でわたくしとアルバーノ様の関係性を盤石なものにするほうが良い、はず……。
将来的には別れるとはいえ、現状、一番関係性を保っておきたいのは間違いなくアルバーノ様です。……見た目だけならサンドラ様ですが、コホン。
「アルバーノ様は如何なさってるのかしら」
「マーティン王国との話し合いを終えて、いまは国内を視察なさっておられるはずで御座います」
さすがにサンドラ様の暴露事件のためだけで帰るというわけにも参りませんものね。表向きはどこまで行っても、サンドラ様が実は王子であったことしか伝えていないのですから。
「ニクラ、アルバーノ様に文を出してちょうだい。その視察にわたくしも御同行願いたいと」
「畏まりました!」
わたくしの言葉に、ニクラが喜び勇んで部屋を後にします。
ニクラにとっては、やはりわたくしはアルバーノ様と結ばれることを望んでいるのでしょうね。まぁ、彼女の立場を思えば当然のことですわね。
やはりわたくしとアルバーノ様の破局をする前に、彼女も含めてすべての使用人たちの新しい受け入れ先は探しておかないといけませんわね。……、オズヴァルド様とか駄目でしょうか、……興味は示さないでしょうね。
アルバーノ様のもとに文が届き、返事が戻ってくるまで早くても明後日でしょうか。その間に、もう少しマーティン王国の知識を増やしておきましょう。
視察を行うからこそ、たとえ紙の上の知識だけとはいえ持ち合わせていて損もなければ、アルバーノ様に恥をかかせるわけにも参りませんものね。
……勉強は苦手ですが。
※※※
「明日の朝お迎えに来られるそうです!」
「はやくありません!?」
わたくしが文をお願いしたのは、昨日の夕方だったはず。どうして、一日も経たずに返事が戻ってくるのですか。
「それだけお嬢様のことを愛してらっしゃるのですよ!」
アルバーノ様のもとに手紙が届いたのは、うちの者が急いだと好意的に捉えることが出来ますが、それでも昨日の夜かもしくは、今朝のはず。
どうしてまだお昼にもなっていない内に返事があるというのです……。
こちらはまだマーティン王国の歴史についてようやく半分程度読み返せたのですよ。まだ現在の王国の情勢など読み返せてないというのに! もう少し準備期間をください!!
「まあ、良いとしましょう……、では、ニクラ。申し訳ないけど至急明日の服を見繕ってくれる?」
「すでに隣の部屋に準備しております!! さぁ、お嬢様! 本など置かれて合わせといたしましょう!」
「貴女も仕事が早くて助かるわ……」
彼女の興奮具合から、これは三、四パターン程度では済まないと経験則で分かりつつも、これもまた令嬢としての業務かと諦めて着せ替え人形となる覚悟を決めるのでした。
「お願いだから、少し休憩させて……」
二十を超えたあたりから数えるのをやめました。
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