第42話 王子たちの


「どぉいうことですか!!」


「さすがの貴女もこれには慌てるのだな」


 わたくしがサンドラ様に突撃することが出来るのは、これが公式の訪問ではないから。アルバーノ様の話を聞いてすぐに城へと舞い戻ったわたくしを、サンドラ様は待っていましたとばかりに私室へ招き入れてくださったのです。


 余裕を含んだ笑みに、若干の苛立ちを覚えてしまいそうになりますが、それよりも注目すべきなのはサンドラ様の御姿です。

 わたくしが帰るまではしっかりといつもの恰好だったはずのサンドラ様は、いまでは本当の性別にあった格好をしているではありませんか。それでも、まだ中性的に見えてしまほどには美少女なサンドラ様ですが、少なくとも男性であるはずがないと言い切ることが出来ない程度には男性になっておりました。


「アルバーノ殿、しばらくぶりにお会い出来て嬉しいですよ」


「僕もです、と素直に言えれば良かったのですがね」


「すぐ来られるとは思っておりましたがこれほどとは。いやぁ、ルイーザ様を愛しているのですな」


「ええ。彼女は僕の許嫁ですから」


 二人の王子様に火花散る。

 色は違えど魅力的な男性に争ってもらえるなんて女冥利に尽きるというものかもしれません。が!! わたくしにとっては迷惑千万なだけです!


「サンドラ様、わたくしとの件もお聞きしたいことでは御座いますが、それよりもどうして御性別のことを周知なさったのです!」


「……おや? そちらの件の方が優先度が高いとは」


 確かに、わたくし個人だけを見れば許嫁発言のほうが問題と言えるでしょうが、サンドラ様の女装問題は、それこそ彼の命に関わることです。

 わたくしの方とて、アルバーノ様やダンテ様、そしてお父様といった遠回しに命に関わってきそうではありますけれど、それよりも彼の件は直接的と言えるでしょう。


 どれだけ迷惑をかけられているからといって、十歳の少年が死んで良いなんて思えるはずがないではありませんか。

 なにより、彼はこの国を背負っていかなければならない存在。わたくしのように誰でも良いはずがないのです。


「彼女はとても優しいのですよ。それよりも、王女として生きて来た理由はともかくどうしてこのタイミングなのでしょう」


「呪いの件は、魔石通話にてお伝えした通り。どうしてと言われれば、ルイーザ様と出会ったからと言うしかありませんな」


 ルークス王国とマーティン王国は隣国と言っても簡単に行き来できるほどの距離ではありません。サンドラ様の性別を知ってしまった(ことになっている)事件からしばらくの間が経っているとはいえ、アルバーノ様が来られたのが早すぎると思っていれば魔石にて話をしていたのですね……。

 魔石通話は、言ってしまえば電話です。ですが、かなり高価なために滅多に使用されるものではありません。


「呪いは、来たるべき時まで女性として生きなけばいけないというもの」


 そうです。

 だからこそ、このタイミングが分からないのです。このままでは、彼は呪いによって命を奪われてしまうというのに。


「そういうことですか……」


「そういうことです」


「はい?」


「つまり、サンドラ殿は」


「つまり、私は」


「「ルイーザ(様)を愛してしまったというわけですね(なのだよ)」」


 まぁ、そうなりますよね。

 分かっておりましたとも。分かっていないフリはしておりましたが、内心では分かっておりましたとも!! ええ、今までの経験的にもね!!


 惚れるな!? 一緒に甘い物を食べて、ちょっと珍しい物食べさせて、暴走気味の従者調教に付き合ってあげただけで惚れるなぁぁ!! お前ら王子だよな? 国を背負っていくんだよな! なにを少女漫画のヒロインみたいに簡単に恋に落ちてんだよ! 恋するなよ! 勉強しろよ! 学生の本分は勉強だよ! それは少女漫画か!!


「ルイーザが魅力的なのは分かりますが……」


 おい、止めろ。


「周りには居ないタイプでただ珍しいと思っていただけなのですが、暴走するラウロを前にして動じない胆力、彼を許す心、そして私の秘密を知ってしまっても少しも気持ち悪い顔することのなかった彼女が……、誰かのものになるのを指をくわえて見ているのは我慢ならない」


 我慢しろ。


「……貴方もですか」


「噂ではダンテ殿も求愛しているらしいとか。アルバーノ殿は大変ですな」


「そう思われるなら降りて頂けますか?」


「それは断る」


「でしょうね」


 なにを分かり切っている。みたいにお互い笑い合っているのでしょう。

 ダンテ様の行動におろおろしていたアルバーノ様がこれほど逞しくなられているのは将来の王として喜ばしいことではありますが、勝手に人をかけてライバル関係を結ばないでいただけませんでしょうか。


「今しばらくは、私も動けるというものではありません。少しの間、許嫁として彼女を守っておいていただけますかな」


「一生。僕が彼女を守り通しますのでご心配なさらず」


「随分と良い顔をするようになりましたね。去年新年のあいさつでお会いした時とは別人のようだ」


「その言葉、そっくりそのままお返しいたしましょう」


 言葉を刃に、視線を銃弾に。

 火花を散らし合わせ続けた二人は、ふっ、と纏う空気を軽くして強く、そして熱い悪手を交わすのです。


「今日は会えてうれしかったですよ。どうですか、このあと食事でも」


「甘い物以外も頂けるのなら喜んで」


「ルイーザ様のおかげで野菜嫌いが治りそうでしてね」


「ああ、それは素晴らしい」


 美少年二人はそのまま私室を後にする。

 さて、そろそろ良いでしょう。


 他国の王子の許嫁に求愛を宣言される。

 なるほどぉ……。


 国際問題!

 国! 際! 問題!!


 ゲーム的御都合展開がここで起こるのならわたくしが女性相手に動いている時にも起こりなさいよォ!!

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