第39話 明かされる秘密
いきなりこんなことを言うのもおかしいかもしれないが、聞いてほしい。
小学生の頃、スカートめくりをしたことがあるだろうか? なに? やったことがないだって? そうだろう、俺もない。
自分でやったこともなければ、その場面に出くわしたこともない。漫画の世界ではいざ知らず、現実に於いてスカートめくりなんて早々起こることではないのだ。
それが、ゲームとはいえ貴族の世界であればなおさらのことです。
紳士淑女として育てられる子どもたちが、スカートめくりなどと俗な行為に身を落とすはずがありませんし、なにより各家のことを考えれば意地でもそんな行為をさせるはずがありません。
王族であらせられるサンドラ様などはその最たるものと言えるでしょう。つまり、彼が今まで男であるとバレなかったのは持ち前の美貌もさることながら、気軽に近づくことなど出来ない高貴な身分があってのことなのです。
何を言いたいかと言えば、そうですわね。
彼の女装は、徹底的な防御などなされていないということですわ。
転倒した拍子にわたくしが掴み、ずり降ろしてしまったスカートの中。
男女の差が分かり易い下着は、確実に男性用のものであることを叫んでおり、そして……。そうですわね、明言は致しませんが、彼が男性だと言い逃れが出来ない証拠もありましたわ。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「わたくし、このあとお茶のお稽古がありますので」
「待ちなさい」
見られてしまえばお父様に激高されることも厭わない淑女らしさゼロのダッシュも空しく、サンドラ様がわたくしを逃げしてくださる気配などありませんでした。
「見ておりません」
「まだ何も言っていないわ」
「あ。あそこに美味しそうなケーキが」
「それで騙されるほど愚かでもないわよ」
「……」
「……」
サンドラ様の御顔を見ることが出来ません。
視線がわたくしを突き刺してくることだけを感じながら、わたくしはどうやってこの場から逃げるかだけを考えておりました。
サンドラ様ルートでは、学園の行事で主人公たちと春の行楽に出かけた折、不運にも賊に襲われてしまい、主人公とサンドラ様は二人っきりになります。その時に、山賊の刃から主人公を守るためにサンドラ様は男であることを曝してしまうわけなのですが……。
間違えても、転倒してスカートをずり降ろして、その、あれを確認して男であると認識するなんて流れではありません。なんですか、これは……。
「……ふぅ」
零れ落ちるため息は、決して聞きたいものではなく。
「これはもう仕方ないかもしれませんね」
「お待ちください、サンドラ様。諦めるにはまだ早いかと」
「それは貴女が言う台詞ではないのではなくて?」
「細かいことはお気になさらないでください」
まだどう動くか考えている最中です。勝手に行動を開始しないでください。選択肢を選ぶときは待っておくのがマナーですわよ。時間制限ありの選択肢など認めません。
「もう気付いているとおもいますが……、聞きなさい」
「可能であれば聞きたくありません」
「気持ちはよぉぉく分かりますが……」
耳をふさいでまぶたをとじる。
これは夢、もしくは幻想。そうここはファンタジー。
悪あがきと言いたくば笑ってください。それでも、これ以上はわたくしの胃がもたないのです。ただでさえ、連日のスイーツ地獄で痛んでいるというのに。
わたくしの無駄な抵抗もむなしく。
サンドラ様は、耳元までその麗しい唇を近づけ言葉を紡ぐのです。ふさいでいようとも、彼の声がわたくしの耳を振るわせる。
「実は、私は」
「~~……ッ!」
「甘いものが大好きなのです」
「知っておりますがァ!?」
むしろあれだけ見せておいて気付かれていないとでも思っておられるのですか!? それはそれでこの国の将来が心配になってしまいますけれど! 他国のわたくしの心配するなと? それはそうですわね、申し訳ござ……。
「やっと目が合いましたね」
「……ぁ」
サンドラ様の瞳に、わたくしが映り込む。
男だと分かっていても、いえ、分かっているからこそ、目の前の美にわたくしは心を奪われていく。
「理由があり、このような姿をしているのです。私は」
「……ぁ、ぁ…………ぁ」
「男なのですよ、ルイーザ様」
固まるわたくしの頬を、サンドラ様の両手が優しく、そして温かく包み込んでくださいました。
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