第36話 グルメ小説、にはなりません
それ
「まあ! まだ祈りの泉に行っていませんの? それはいけません! 明日一緒に行きましょう! そしてその後一緒にお食事を!」
からと
「明日城下町で新作ケーキが発売されるのです! ぜひとも我が国のスイーツのレベルを体験していただきませんと!」
いう
「ルイーザ様にぜひ食べてほしいと我が国のパティシエたちが張り切っておりまして!」
もの
「とにかく甘い物を食べましょう!」
いやもう、本当に勘弁して頂けませんでしょうか!?
連日続くスイーツ地獄でわたくしの胃はすでに限界を迎えております。甘いものを見ただけで胃もたれしてしまいそう……。
他国の者を歓迎するという名目にさすがのラウロ様も強く言えないことを良いことに、サンドラ様はわたくしを簡単に手放さそうとは致しません。
「お嬢様、胃薬をお持ちいたしました」
「ありがとう……」
「お嬢様の御身体のほうを考えて行動されたほうが……」
「王女様からの誘いを断るわけにはいきませんでしょ……」
ですが、ニクラの言うことはもっともです。というか、純粋に勘弁してほしいのですよ。ただでさえ甘いもの地獄がキツイというのに、日に日にラウロ様のわたくしを見る目が厳しさを増しているのですから。
貴女の大好きで大事なお姫様がわたくしを無理やり誘っているのですわ。文句なら、そちらに言えば宜しいというのに……!
「とにかく、なんとかして甘い物以外の食事にしていただかないと……」
「少しメイドたちより話を聞いてみましたが、サンドラ様の偏食ぶりは凄まじいらしいです。特に野菜全般は見るのも拒否するほどだとか」
「子どもか……」
実際十歳なので、子どもではありますけれどね。
「お肉とか、パンとか、ほかに好きなものはないのですか」
「お肉は脂っこいのが苦手らしく、パンはパサパサしているのが嫌だとかで」
「甘い物だって十分油っぽいでしょうに!」
これ以上あんな生活に付き合わされれば間違いなく体調を崩してしまいます。
それでなくても成長期の大事な身体。あんな偏った栄養だけ取り続けるわけにはいきません! といいますか、反省するために他国へ寄越されて太って帰れば今度こそお父様に殺されてしまいます……!
「ニクラ……! 貴女だけが頼りです! なんとかサンドラ様の野菜嫌いを治す方法はありませんか!」
「お、お嬢様は私を頼って……! お任せください!! このニクラ! 命に代えても!!」
きっと普通の転生物語であれば料理上手な主人公がどうしてか野菜料理もプロ顔負けで。という展開になるのでしょう。
ですが残念ながらわたくしは料理が一切出来ません! ルイーザとしては厨房に立ったことなどありませんし、前世でのわたくしの得意料理はカップラーメンです。
「それでは、こういうのは如何でしょう……!」
耳打ちされる内容に、貴女が主人公をやってみませんか? と提案してしまいそうになりました。
※※※
「ルイーザ様! 本日はどんなケーキを!」
「お待ちください! 本日は、わたくしが用意致しましたケーキを楽しむというのは如何でしょ」
「他国の者が作ったケーキなど、サンドラ様に食べ」
「さぁ、御毒見ですわ!」
「むがッ!?」
わたくしの言葉が言い切る前に飛び込んでこられたラウロ様には、彼女の言葉が言い切られる前にお手製ケーキを一口ぶち込んであげることに致します。ここで邪魔されてたまるものですか!
「まあ! まあまあ!! ルイーザ様が準備してくれたというのね!」
「む、もっ、んっ、んっ~~!!」
そもそも、わたくしは他国とはいえ、長年の同盟国たるルークス王国の者。ラウロ様が過剰すぎるだけで、他のまわりのものはわたくしの行動を止める素振りなど一切起こしません。
ふふ、普段から暴走気味な貴女とこちらに来てからというもの仲良くなれるよう努力し続けたわたくし。どちらに味方するかは当然の結果ですわ。
「もしかしてルイーザ様が焼いてくださったとか!」
「いえ、わたくしのメイドであるニクラがよく作っていたものです」
「あら、そうなのですか」
ついでに言えば、料理したのはわたくしが宿泊している最高級ホテルのシェフである。ニクラが指示をし、彼らが作る。わたくしはまったくもって関与しておりません。
よし、これでフラグは折っておきましたわ。完璧です。
「いつかルイーザ様が作られたものも食べてみたいですわね。それはともかく、いまは目の前のケーキです!」
さすがは甘いものに目がないサンドラ様。
折れたフラグを修復することなどする気もなく、目の前のケーキに夢中と見える。さて、ニクラがお皿に取り分けてくれて。
いざ。
「いただきましょう」
実食ですわ!
サンドラ様が、わたくしが準備したケーキを、食べた。
「んーッ!!」
「……ッ」
「美味しいです!!」
「!」
「初めて食べるケーキですね……? 不思議な味ですが、とても美味しい!」
パクパクと残りを平らげていくサンドラ様は、決して社交辞令を言っているわけではない御様子。
これは、……、勝った!!
「これは何という名のケーキなのですか?」
「こちらは……」
ここまでうまくいくとは、ニクラには感謝してもしきれません。存在こそ知っていても、それだけですぐに出来るほどお菓子作りは甘くありませんもの。
「野菜のケーキです!」
――からん
乾いた音は、サンドラ様が落としたフォークの音でありました。
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