第27話 崩壊


「ぁああああああッッ!!」


「!?」


 貴族の屋敷の防音性能を馬鹿にしてはいけない。

 たとえ全力のカラオケ大会を開催しようが、廊下に多少音が漏れるくらいである。


 小さな少女が叫んだ程度では、密談のために部屋から音が漏れることはない。


「ああああッ!! あああ! ぁああああ!!」


 俺が悪いのか。

 ぜんぶ俺が悪いのか。


「ル、るイ……ッ」


 生まれ変わって頑張ろうと思ったんだ。

 女の子たちと仲良くなろうと思ったんだ。

 男の子たちとも別れるその日までみんな仲良くありたかったんだ。


「それが悪いのかッッ!」


 俺なりに頑張ったんだ。

 慣れない勉強も、慣れない習い事も、慣れない社交界も、慣れない身体も、慣れない好意も!


 少しでもあいつみたいになりたくて。


「必死にやったんだよ!!」


 せめてみんな仲良しエンドが欲しかった。

 どうして俺だけ死ななくちゃいけない。せっかく生まれ変わって、どうしてまたみんなに嫌われて死ななくちゃいけない。


 どうして


 主人公を虐めないといけない!


「頑張る女の子の邪魔なんかするわけないだろう!!」


 頑張る奴は頑張っているから頑張っているんだ。

 それを邪魔して何が楽しい。自分が欲しいものと重なっているなら正々堂々戦うしかないじゃないか。


 搦め手策略卑怯な手。

 それが全部駄目だとは言わないけれど、虐めなんかやったら自分が一番惨めになる。


 ルイーザは、誰よりもただ愛されたかっただけなんだ。

 俺は、誰かひとりだけでも良いから愛してほしかっただけなんだ。


 このままいけば惨めになるのが分かっている女の子。

 そのまま放置なんか出来るはずがない。俺だってまた死にたくもない。


 それなのに。

 どうして妙にリアルな事情が絡む。異世界転生なんてファンタジーに現実要素を巻き込んでなにがいったい楽しいというんだ。


「いらないんだよ、そんなの!!」


 笑えば良いじゃないか。

 みんなで笑い合えれば良いじゃないか。


 ルイーザはただ、愛されたかっただけなんだ。

 俺はただ、


「友達が欲しかっただけなんだよぉぉお!!」


 あとになって思うのですが、

 自分から許嫁を奪った相手が、いきなり狂ったように泣き叫ぶ光景というのは、恐怖でしかないわけで、わたくしはまたアメリータ様に迷惑をかけ続けたというわけなのですね。

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