第24話 差し込む光


「友達が欲しいです……」


 誰かに聞かれでもしたら優しく生暖かい瞳を向けられることまったなしの独り言をどうか許してください。

 あれからすっかり意気投合したダンテ様とオズヴァルド様は時折城で会っているそうですし……。

 ダンテ様はオズヴァルド様と違って魔法オタクというわけではありませんが、王族として、そしてアルバーノ様を支える存在になるためにと幼き頃からたくさんの教養を学んでおられる御方。そのために少々拗ねたことはあってもその能力はとても高いのです。

 ダンテ様にとってオズヴァルド様は、今まで自分が囚われてきた柵に関心を持たない希有な存在であり、オズヴァルド様にとってダンテ様は、自身の知識を聞いてくれ、しかも話についていける同性の存在。

 二人の相性は驚くほどに良かったようです。製作者の方々もびっくりでしょうね。


「わたくしの友達はあなただけ……」


 以前ニクラにわたくしと間違えられたクマのぬいぐるみだけがわたくしの話し相手。いくらなんでも空しすぎて涙がとまりません。抱き心地は最高です。


 元々アルバーノ様に宣戦布告をなさっていたようですが、それはあくまでもわたくし個人に対する嫉妬心のようなもの。

 しかし、オズヴァルド様との友情を超えて柵を捨て去り、本当の自分に戻られたダンテ様は、アルバーノ様をお認めになられた上での宣戦布告をなされたそうです。

 兄弟の確執も、次期国王としての地位も、多くのことを置き去りにただ一人の女性を求めて男と男の勝負を申出たとか。まさしく格好良い展開ですね、その女性がわたくしでなければの話ですけれど。良い迷惑です。泣きたい。


 わたくしの耳に届いていることが他の方も知らないはずがなく、ルークス王国で最近の話題といえばもっぱら王子二人による愛の戦いで持ちきりです。

 それはつまり、


「また断られましたわ……ッ」


 世の中のご令嬢のほぼ全てを敵に回してしまったということ。

 当然です。王子二人に求婚されて、しかも、どこから漏れたのかオズヴァルド様までわたくしに惚れているということもばっちり伝わっている様子。

 そんなモテモテ人生を謳歌する公爵令嬢なんて誰が好きになりましょうか。それも元々性格が悪いと言われ続けてきた女なのです。


 王子達は欺されている、とわたくしの悪口の飛び交うこと飛び交うこと。

 結局、しばらくは大人しくしておこうとゲームに関与していないご令嬢と友達になろう作戦実行中だったわたくしの成果は全敗という華々しい結果となっております。


 しかも、この件でお父様も相当腹を立てているらしいのです。大人しくアルバーノ様の許嫁であれば良かった娘が、他の男にも色目を使っているなんて、それはもうお父様も多くの貴族から色んな事を言われていることでしょう。……、それはどれだけお父様のストレスを増加させていることかしら。


 公爵令嬢という立場、そして求婚相手が王族や貴族ということもあり明確にわたくしに嫌がらせを行ってくる度胸のあるものはいませんが、それでももう今のわたくしの味方といえば、ニクラや爺といった屋敷に住む親しい者達だけ。


「……ですが、考えを変えてみましょう。これ以上わたくしの胃が病むことはないと思えばいまの状況もまた良いことでしょうか。ふふ、ふふ……」


「お嬢様! ニクラで御座います」


「ダンテ様からのお誘いなら断っておいて……」


 扉の向こうからわたくしを呼んでくれるいまとなっては貴重な存在。

 こんなことなら彼女や他のメイドたちと幸せで静かな人生を歩んでいたほうが良かったのでしょうか。


「それが、別の方からのお誘いのお手紙が」


「オズヴァルド様なら忙しいと言っておいてちょうだい……」


 ダンテ様ほどではないが、オズヴァルド様も時折誘いのお手紙をくださいます。まだ、彼の中でわたくしの性格変換に魔法が関わっていると思い込んでいる様子。

 アルバーノ様やダンテ様ほど明確に恋愛意識を持ってらっしゃらないので二人よりは会うのは気楽ですが、彼と会おうものならその二人からのアプローチが凄まじいことになるので結局オズヴァルド様ともしばらく会いたくはありません。


「オズヴァルド様からでもなく」


「……へえ、ではどなたからかしら」


 幸せになれる壺でも売られるのかしら。

 それとも、どうしてわたくしがこれほどまでにモテているか聞き出したいどこかのご令嬢かしら。異世界転生すれば良いのではないですかね。


「アメリータ様です」


「たとえ矢が降ろうとも行きますわッ!!」


 アメリータ様! ああ、わたくしのアメリータ様!!

 信じておりました! わたくしは信じておりました! たとえ世界が敵に回っても、心優しい貴女だけはわたくしを信じてくださると!!


「なにをしているのです、ニクラ! 貴女が頼りですわ! 新しいドレスの準備をお願い致しますわ!」


「か、かしこまりました」


 近頃自分の部屋で塞いでいたわたくしが勢いよく飛び出してくるものですからニクラが驚いてしまっておりますが、そんなことは二の次です!

 ああ、アメリータ様に会える! わたくしの天使! わたくしの希望!!


 待っていてください、アメリータ様! ルイーザがいまから参りますわ!!


「馬車の準備は宜しくて!」


「御日にちはまだ先で、お嬢様ぁぁ!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る