第23話 正々堂々


 事実は小説よりも奇なり、とは申しますが目の前の光景に開いた口が塞がりません。お行儀悪いので実際には紅茶を飲むふりをしているだけですけれど。

 異世界転生などを起こしている身がなにを言うかと思われますでしょうが、どれだけ自分がレアな経験をしていようとも目の前にレアな光景があれば驚くのが人間というもの。


「その考えも分からなくはないが、だとするとルーベンバッハの理論に矛盾が生じるのではないか」


「それが生じないのです。こちらを見てください」


「これは……。……そうかッ! つまり魔力を火薬のようなものと捉えたとして」


「その通りです! そう考えれば、この理論の……、ここです。三十年前にありえないと一蹴されたものですが……」


 ダンテ様とオズヴァルド様が仲良く魔法談義に花を咲かせるだなんて誰が予想したことでしょう。

 おかしいですわね。ダンテ様、……あなた、確か今日はわたくしを口説くためにやってきたのでは? いえ、本当に行動されても迷惑でしかないのでこのままのほうがこちらとしては都合は良いのですけれど。


「待ってくれ。そうするとカラメルの説にこそ矛盾が生じると君は言いたいのか」


「ええ、その通りです」


「……、それを言うにはこれだけは足りないのではないか」


 あれほどまでに貴族嫌いのオズヴァルド様がわたくしと話している時以上に楽しそうにしているというもの不思議な光景です。

 なんと言いますか……。


 お前ら、こっちを忘れすぎじゃね?


 良いんですけどね。あなた方二人の好感度を上げたいわけではありませんので、このままわたくしのことはどうぞ居ないものとして扱ってくださって良いのですけれどね。

 なんと言えば良いのでしょうかね。なんと言いますか、昔の、そう前世での休憩時間での教室内の居ても居なくてもな空気だった自分を思い出すようで心苦しいと言いますか、若干、あ、もうトイレに逃げ出したいと言いますか。


 ゲームの中でこの御二人に交流があるという設定はありません。

 そもそも、ゲームのシナリオ上仕方ないことですが、一人の男性キャラルートに入ってしまうと元からそのキャラと交流のあるキャラ以外はあまり登場することがなくなってしまうのです。


 オズヴァルド様に至ってはその最たる例であり、彼のルートに突入すれば出てくる名前ありキャラはメインとしてはローザ様ぐらいなもの。

 そのような仲で、このように仲良く話されている光景を見るとですね。


 ……。

 ……。


 良いなァァ!


 なんかすっげぇ楽しそうじゃん! 普通に友達になってんじゃん! 良いなぁ!! 俺もそういうのが良い! 好感度とかそういうの気にしないで普通に男友達欲しいんだけど!! 意味もなく馬鹿な話したり、意味もなく夜更かししたり、意味もなく好きな女の子の話したりしてキャッキャしたいんですけど! ポテチ! ポテチとコーラで遊びたいんですけどォ!!


 将来のことを見越して女の子と仲良しになりたいけどさ! やっぱり男だもん! 男友達欲しいわけよ! なに勝手にそっちで盛り上がっているわけ!? 俺は! 俺のことは無視ですか!


 ですが!!

 淑女として、殿方のお話に割って入るわけにもまいりません。結局わたくしはただ一人さびしく笑顔でお茶を飲み続けるしかないのです。もうおなかたっぽんたっぽんですわ、いい加減にしてもらえませんかねッ!


「オズ、今度うちに来ないか。秘蔵の書が読めるように父上に頼んでおく」


「良いのか、ダンテ!」


 愛称呼びしてるぅぅ! しかも呼び捨てやん! 王族を呼び捨てしてますやん!!

 めっさ仲良えやん! あんさんら、めっさ仲良しこよしですやん! どうしてわたくしはこってこてのあり得ないレベルの大阪弁を叫んでいるのですかッ!


 あれが良い! わたくしもああいう関係性の友達が欲しいです! 出来ればアメリータ様でお願いします! ローザ様でも大喜びです! この際、ゲームには出てこないほかの御令嬢でも良いです!


 友達が! 友達が欲しいのですぅぅう!!


「あ」


 おや、気付かれましたわね、ダンテ様。

 そうです。わたくしは貴女のためにお茶会を開いたというのに存在を無視され続けた哀れな女ですわ。

 こうなったら忘れていたことを慌てる可愛らしい貴方の姿だけでも見てあげると致しましょう、こんちくしょう。


「ルイーザ嬢」


 はい、ルイーザです。

 それでは、どんな言い訳をなさるのでしょうか。


「貴女には……、感謝しかない」


「……はい?」


 はい?


「貴女は、俺のために彼と会わせてくれたのだな」


 違いますけど?


「弟であるためにずっと兄上と比べられ続けてきた。……、分かった上で、それでもどうしても兄上に嫉妬してしまっていたんだ。俺は……とても小さい男だ」


 ええ、そのことに関しては一切の異論がありませんわ。


「だが、オズと。家を継ぐことよりも自分の気持ちを大切にする彼と話して分かったんだ。俺は、なんて小さなことに囚われていたんだと」


「は、はぁ……、そ、そうですか?」


「白状する。俺は、貴女に惚れている!」


 吐かなかったわたくしを誰か褒めてください。


「だが、今日も兄上が居ないことを良いことに姑息に貴女に近づこうとした。貴女は……、そんな俺を叱ってくれたんだな!!」


 んー……?

 これは、その……、ちょっと待ちましょうか?


「俺は目が覚めた! 兄上と自分を比べるのはもうやめる! そして!」


 これは、もしかして。


「正々堂々と兄上から貴女を奪って見せる!! 改めて、そうだとも! 今度こそ正々堂々とだ!」


 もしかしなくても。


「俺は! 貴方に似合う立派な男になってみせる!!」


 ダンテ様ルートのエンディング間近な台詞を吐いてくださってませんか!?

 ちょっとお待ちくださいな!? まだ出会って数回程度ですわよ!? イベント! イベントの回数を踏んでこうなるんですよ! ゲームだったらそれこそニ十分ほどで終了ですわよ! ゲーム会社にどれだけクレーム来ると思っているんですか! 何ですか!? 三百円で買えるお手軽ゲームですか、これは!?


「つまり、ボクも君のライバルということだね、ダンテ」


 参戦するなァァア!!

 こちらはいまダンテ様だけで手いっぱいなんですけど!? なにを勝手に人の許可なくライバル宣言してくださっているんですかっ!


「オズ……、そうか、君もか」


 ふっ……、じゃない!!

 ふっ! じゃないってぇええ!! なにをそこで男の戦いみたいな格好良い空気醸し出しているんですか! 少しはこちらの意見を!!


「まだこれが恋がは分からない。だが、ボクもルイーザ様に興味があるのは事実さ」


「良いだろう。君と俺は友達であり、そしてライバルだ」


「ああ、君の兄上にも、アルバーノ様にだって負けるつもりはない」


「お互い、頑張ろうじゃないか」


 握手してますわ。

 なにかがっちり男の友情を確認し合っておりますわ。


 そろそろ飽きてきましたか? それでもお付き合いくださいな。

 それでは、御一緒に。


 どうしてこうなったァ!?

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