第22話 ダンテ様行動開始……させません


「はぁ……」


 腕を組んでため息を零すだなんてお父様に見られてでもしたら何と言われるか分かったものではありません。ですが、わたくしの気持ちも分かってもらいたいというものです。


 アルバーノ様のご訪問をなんとか無事に成功させたというのに、休む間もなくやってきた目の前の難題に。

 弱音を吐けば苦難はどこかへ行ってくれるのか、と言われてしまえばそれまでですがだからといって勇み立ち向かうほどわたくしは強くもありません。


 届けられた一通の手紙。

 差出人の名はダンテ・ルークス。アルバーノ様に余計なことを宣言してくださったために面倒臭い事件を引き起こし、なによりもわたくしとアメリータ様の間に深い溝を造ってくださった張本人。

 八つ裂きにして火あぶりにしても許せそうもありません。


 手紙の内容は簡潔に言ってしまえば遊びにいくよ。というものであり、全力でお断りしたいのですがそうもいきません。

 こちらが断れないように先にお父様に話が通っているらしく、わたくしの意思でどうにか出来る段階など伝わった時には終わっておりました。

 せめてアルバーノ様が一緒に来てくださればと思うのですが、公務で遠くに行かねばならない日を狙い撃ちされてしまえばそれも適わないのです。


「ここまで行動を起こしてしまえば明確にアルバーノ様に敵対しているというようなものだと言いますのに……」


 好意を持たれていることも迷惑ですが、兄弟による諍いに巻き込まれていることのほうが厄介です。今はまだ小さな行動かもしれませんが、ダンテ様派の貴族の耳に入ってしまえばどのように利用されるか考えただけでも頭が痛くなります。


「このまま指をくわえているわけには……、いきませんわね」


 先日ただでさえアルバーノ様を暴走させてしまったばかりなのです、こんな不安の種をそのままにしておいて良いはずがありません。

 なによりもダンテ様と二人っきりなんて反吐が出ます。


「爺、来て頂戴。お願いがあるのだけれど」


 手は打っておきましょう。

 ベルの音ひとつで駆けつけてくれる我が家の優秀な老執事にわたくしは運命を託すのでした。



 ※※※



「どういうことだ」


 百点満点の不満顔。

 貴方も王族なのですから少しは感情を隠す訓練をなさったほうがよろしくてよ。


「まぁ、ダンテ様。たとえ王族の身でありましてもその挨拶はあんまりなのではありませんか?」


 ましてや、好意を持っている女性に向けて良い顔ではありません。もしも本当に兄上様から奪う気があるとしたらですけれども。


「聞いていないぞ」


 ダンテ様の怒りの籠もった視線を受けようともビクともしない。

 世間広しといえば、王族の怒りを買ってなお平気な顔を出来る貴族など限られているというもの。


「本日は、お招きいただき光栄に御座います。ルイーザ様」


「急なお誘い申し訳ありませんでしたわ」


「何を仰います。ルイーザ様の御誘いとあれば喜んで馳せ参じるというもの」


 爺の仕事の速さには幾度となく助けられます。

 本日は無事に乗り切るためのわたくしの防波堤こと、オズヴァルド様が子供とは思えないほど優雅に一礼されるのでした。


「ルイーザ嬢、おれ……、私は貴女とお茶会をしたいと文を出したはずですが?」


 さすがに別の貴族の前で俺を使うのは気が引ける御様子。言い直しているあたり、まだまだいつもの余裕が戻ってきていないようですが。


「ええ、ですのでわたくしのお友達もご紹介できればと思いまして」


 二人っきりで、と書いていない貴方が悪い。

 もっとも、そのようなことを書いてしまって証拠を残してしまえばあとでアルバーノ様に何を言われるか分からないのでさすがのダンテ様でも書けるはずがないのですけれど。


 普通なら空気を読んでいくのでしょうが、そもそも真に空気を読むのであれば兄を許嫁としているわたくしが貴方とお茶会をするはずがないでしょうに。


「ご紹介にあずかりましたオズヴァルド・シモンチェッリと申します」


「ところでオズヴァルド様。ローザ様は……」


「申し訳ありません、ローザは本日具合を崩してしまい……、お会いすることを楽しみにしていたのですが」


「そう……、それは心配ね」


 間違いなく嘘であることは分かっているが、指摘するわけにもいきません。

 オズヴァルド様を誘った際に、ただ苦行をクリアするだけでは意味がないとローザ様攻略を進めるために彼女にも招待状を送ったのですが、やはり一蹴されてしまいましたか。


「……仕方ないか。オズヴァルド殿、貴殿は確か貴族嫌いだと聞いていたが」


「恥ずかしながら不出来が故に家名は弟が継ぐことが決まっております。そのような身でありながらお呼び頂けましたこと最上の喜びであります」


 あまりオズヴァルド様に頼りすぎるのはあとが怖いところもありますが、だからといってわたくしが彼に言えることに変わりはありませんので、そこはそれで性格変貌に魔法が関与していないのかと失望して頂くきっかけになれば良し。


「そうか……、うん……、そうだな」


 おや?

 二人っきりでないことに不満しかなかったダンテ様の顔に別の感情が見えたように思えましたが……。


「そうであれば、本日は楽しもう」


「勿体なき御言葉」


 思う所はありますが、オズヴァルド様と三人でお茶会を開くことにダンテ様も御納得された様子。

 これでどうにか二人っきりになるというフラグを折ることには成功したようですわね。欲を言えばローザ様がいらっしゃればよかったのですけれど……。


「…………もしや……」


 御二人を案内しようとした時、ダンテ様がなにやら呟かれましたが、聞き返さないことに致しました。

 それはもう、余計なことに首を突っ込む気はありません。難聴系主人公の二の舞なんて致しませんわよ!

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