第19話 好感度引き下げ大作戦
好感度を下げるに当たって大切なことは、わざとらしく嫌われてはいけないということです。そのようのことをすればたちまち悪評が流れてしまうことでしょう。
あくまでも普通のことを行いながらも好感度を下げることが重要。そしてわたくしはゲームを何度もクリアしたのです。バッドエンドばかりですが。一見すると難しく見えるこのミッションも、このわたくしの知識を以てすれば容易い……はず!
ゲームの中では主人公が、そして、そこから派生する転生小説ものでは数々の悪役令嬢がどうして男性キャラ達に好かれているのか。それは、令嬢らしからぬ言動に興味を引かれている場合が多い!!
実際、このゲームの主人公も貴族でもなんでもない平民出身ですしね。
それにしても、平民として生まれ育って女性がいきなり王族と結婚して果たして幸せは続くのでしょうか……。王妃は国政に関与しなくても良いのかもしれませんが、政治とはその場で生きることも含まれているはずですし、それは華やかな見た目とは裏腹な……。止めておきましょう、考えたらわたくしまで気分が暗くなりそうですわ。
話を元に戻しましょう。
つまりは、何が言いたいのかと言いますと、本日のお茶会にてわたくしがアルバーノ様に行うべきこと。それは!!
日々のレッスンや勉学、そして最近の流行やわたくしの趣味についてちょっと自慢を踏まえてたらたら話し続けることですわ!!
どうです!
オチもなければ、山もない! あるのはわたくしの胸を張るどころか張りすぎて頭から後ろに転けてしまいそうなほどの自慢話の数々! 聞いていてつまらないことだらけでございましょう!
前世から友だちの少ないわたくしにとって興味のそそらない話をすることは得意中の得意ですわ! ……、泣いてませんわよ。
まさしく無双の作戦! 勝った! 勝ちましたわ! 今日は、久しぶりの祝杯を挙げることができるでしょう!!
『せやで』
わたくしの身に宿る諸葛孔明殿もこういっておられます!
さぁ、いざ! 出陣です!!
「さすがはルイーザですね、僕も婚約者として鼻が高いです!」
だというのに……。
「なるほど……、そのような本もあるのですね。では、次会う時までに読んでおきますので、ぜひ感想を聞いて頂けますか?」
だと、いうのに……。
「南方地区の気候のことは僕も気になっていました。今はまだ小さな変化ですが、これが続くというのであれば無視は出来ません」
だと、いう、のに……!
「この国をもっと豊かにしていきましょう! 僕とルイーザなら、きっと出来る!」
何を盛り上がっとんじゃァアア!!
おかしくありません!? バグ!? バグですか、目の前の王子様はッ!
自慢話をしてもニコニコと聞いてはすごいすごいと褒めてくださり、アルバーノ様の趣味とかけ離れた本の話をすれば今度読んでみますと興味を示し、頼みの綱のまだ王妃でもなんでもない小娘がちょっとだけ国の話をすれば真面目にわたくしの意見に耳を傾ける。
僕とルイーザなら、ではありません! 貴方とまだ見ぬ主人公がこの国をより良きものにしていくのです! そこにわたくしは居ないのです!!
はァ……! はァ……! ふ、ふふ……。さすがはアルバーノ様といったところでしょう。わたくしの予想の斜め上を超えていかれるとは、それでこそわたくしの最大の好敵手。
ですが! わたくしの身に宿る諸葛孔明殿の底力はまだまだこんなものではありませんわ!
『お暇を頂きます』
孤軍奮闘してやりますとも!!
※※※
「今日のルイーザは、」
「は、はい?」
「久しぶりに自分のことをたくさん話してくれて……、その、とても嬉しいです」
人の感情というものは不思議なものです。
以前の私も、アルバーノ様に好意を持たれてなかった時分のわたくしも、自身のことをそれはもうたくさん彼に伝えてきたはず。
貴方に好かれたいと。わたくしはこれだけ魅力がありますと。ですので、……捨てないでくださいと。
ですが、ダンテ様の言葉を信じるのであればその行為に意味はなく、アルバーノ様はわたくしと会うことを億劫に思われていた様子。
自分のことばかり話しているのは変わらないのに、相手のなかの感情ベクトルが変われば受け取り方も変わってしまう。
これは別に悪いことでも無ければ、アルバーノ様が悪いことでもありません。
何が悪いといえば、きっとそれはタイミングだったのかも。
アルバーノ様に好かれたかったわたくしの上にいまのわたくしは存在しております。異世界転生か異世界憑依か。その答えに向き合う覚悟はまだないけれど。
「それはきっと、友人が出来たからかもしれませんわ」
それでも、わたくしは、いまのわたくしの幸せを目指します。
もしも憑依だった時、わたくしは自分の幸せのために頑張ったのだと胸を張れなければ、以前のわたくしに本当に何も言えない屑になる気がするのです。
「御友人が? それはどこのご令嬢ですか?」
「オズヴァルド様ですわ」
なんてことを考えながら会話していたせいでしょう。
男性とお茶を飲んでいる時に別の男性の名前を出すなんて。……ミスを犯してしまうのですから。
「……シモンチェッリ家の?」
やっちまった
思ったときには
もう遅い
笑顔のままで
固まる王子
ルイーザ・バティスタ。
心の一首。
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