第16話 嘘の結果
わたくしの状況はどちらなのでしょう。
もしも、前世で死んだわたくしがルイーザとして生まれ変わり偶然記憶を取り戻したのであれば、異世界転生。
もしも、前世で死んだわたくしがルイーザの身体に乗り移っているのであれば、異世界憑依。
前者であればともかく、後者であった場合のこともあり極力考えないようにしていたこと。
そもそも本当にこの世界はゲームの世界なのか。
そもそも本当にわたくしに前世などあったのだろうか。
全てがわたくしの妄想でしかないのかもしれない。
そのような諸々をオズヴァルド様に教えてしまっても、実は問題ないのかもしれません。
彼は重度の魔法オタクであり、魔法について学べるのであれば多少の常識など捨ててしまう方。
だと、すれば。
彼に付きまとわれないようにするためには、わたくしの現状をきちんと伝え、魔法が関わっていないことを説明することで彼の関心を消すことこそ最善なのかもしれません。
「オズヴァルド様は」
ですが。
「随分と面白いお考えをなさるのですね」
わたくしは説明しない選択を致しましょう。
「どういうことです……!」
わたくしの身にふりかかった現象を魔法でないと説明しきる自信がありません。
正直に説明したところで、それこそ魔法の真髄に関与していることかもしれない! とテンションが上がればもう終わりです。
「わたくしはわたくしですわ。ルイーザ・バティスタはこの世にただ一人ということです」
「如何に世俗に疎いボクでも貴女ほどの方の話は耳にする。同一人物だと言われても頷けないのですが?」
「あくまでも噂だったというだけのことでは?」
オズヴァルド様に権力での脅しは意味がなく。なにより、わたくしとしてもやりたくはありません。
そもそもお父様が動いてくださらないのですけど……。
知らぬ存ぜぬを貫き通しても、変に絡まれては今後に支障が出るやもしれません。と、なれば……。
「そうですね」
「ッ!」
あくまでも余裕を崩すことなく。
相手が欲しがる情報を、見せては手のひらに隠して伏せる。
「それでも、もしもわたくしが変わったとすれば……」
「すればっ!?」
紅茶で言葉を止める。
前のめりになるオズヴァルド様は、確かに可愛らしいけれど、もう少し落ち着いて事を為すことを覚えたほうが良さそうです。
「水溜まりを覗き込んだからですわ」
「…………はぃ?」
あらまぁ、更に可愛らしいお顔。
ここから先は相手にペースを渡す気はありません。なにせ、考えた自分ですら笑ってしまうほど下らない中身なのですから。
「わたくしの得意属性は水。ですが、なにぶん魔力量が少ないことがコンプレックスだったのです」
上手な嘘の付き方は真実の中に嘘を混ぜることだと誰が言っていたことだったかしら。
「隠れて魔法の特訓をしていた時に、家の者に見つかりそうになってしまったことがありまして、つい、いつもの様に強い口調を取ってしまったのですが、その時地面に出来ていた水溜まりに映った自分の姿を見てしまいまして」
遠い目を入れてみるのも演技の一つ。
当時を思い出しているようであり、過去の自分を恥じているようであるように。
「恐ろしくなるほど無様な者がそこには居りましたわ。もしも、オズヴァルド様が仰るようにわたくしが変わったとするのであれば、それは……」
そして笑ってみせるのです。
「あの姿に戻りたくないと必死に足掻いたわたくしの結果かもしれませんわね」
過去のわたくしが嫌だと思ったことは事実。
具体的に言うのであれば、そのあとに待っている粛清エンドが嫌だということですが、そこまで言う必要もなく。
もっと上手にやれば良いのに、と画面越しに思ったことも事実。
大好きな人を奪われないために別の方法があっただろうにとどれだけ俺は思ったか覚えてはいない。
ちょっと嘘を交えて事実を捻じ曲げはしましたが、だいたいは真実をお話しております。もっとも、嘘の部分が水溜まりを覗き込んでなんてカッコ悪いことですけれど、小さな少女からすればこの程度でも良いではありませんか。お相手もまだ小さな少年ですしね。
「つまり……、ルイーザ様が変わられたのは、あくまでもルイーザ様の御意思の賜物だと」
「そういうことになります」
ただカッコ悪い自分が嫌で努力して変わった。それだけの話。
ここには一切の魔法的要素も絡んではおりません。そんな話、貴方にとっては詰まらない内容でございましょう?
目の前に居るわたくしは、さぞや面白みのない、興味対象から外れてしまった相手でございましょう?
お分かりになられましたら、どうかわたくしがローザ様と仲良しになる計画の邪魔だけはしないようにお願い申し上げたものですわ。
「なるほど……」
さて。
少し回り道をしてしまいましたが、久し振りに作戦通りの結果となりましたわ。あとは、このお茶会を終わらせてじっくりとローザ様攻略作戦の次なる案を、
「つまりボクにはまだ真実を話す気にはならないということですね」
考え……、
「はい?」
「それほどまでに隠そうとすること……、面白い! 実に面白い!!」
実はただの馬鹿だろ、お前。
……って違う違う!
「ボクとしてもすぐに教えてもらえるとは思ってもいなかった! だからこそじっくり貴女と仲良くなろうと思っていたわけだが!」
「あの……、隠すもなにもわたくしは真実を……」
「ルイーザ様! ボクは貴女が隠す真実がどうしても知りたいんだ!」
「ですから、さきほどの話が」
「分かっているさ! それを話すメリットがそちらにはないということだろう! だが、ボクはどうしても知りたい! 知識欲が止まらないんだ!! だから!」
どうして。
「友達が欲しいと仰ってましたね!」
どうして。
「ボクが友達になりましょう! 僕という存在が貴女にとってメリットとなりましょう! これでボクたちはギブアンドテイクの関係で結ばれる!」
どうして!
「そうとなれば、このようなお茶会は終わりにして早速ボクの研究についてお話しようではありませんか!」
どうして、こうなるのよォ!!
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