第15話 オズヴァルドの狙い
お断りいたします。
ローザ様のようにお断りできればどれほど楽なことでしょう。ですが、わたくしは栄えあるバティスタ家の令嬢であり、加えて、今のわたくしの状況が大変よろしくありません。
事情が何であるとも、事前に早馬を飛ばしていようとも、勝手に押しかけたのは事実であり、揉めていたところをオズヴァルド様に助けて頂いたのです。
そんななか、彼の誘いを断ろうものなら本日の一件をどのように使われても致し方のないこと。
ゲーム内通りのオズヴァルド様であれば、そのようなことに関心を持たないはずなのですが、どうにも彼もまた少々性格に異変が在る様子。
結局の所、
「疲れましたわ……」
喜んでお伺い致します。と笑顔で返事する以外のルートがわたくしには思いつきませんでした。
「やりましたねお嬢様! スピッツィキーノ家だけではなく、シモンチェッリ家の御嫡男様とも縁をお結びになられるなんて! さすがはルイーザお嬢様です!」
「そうね……」
貴女には今日のお茶会が大成功だと見えたのね。
あの場に居なかった貴女からすればお茶をした三人が、次の約束を取り交わしていればそうも見えるのでしょうか。こちらとしては大失敗も肌はだしいのですが。
「オズヴァルド様は、その、……えー、独特の方と聞いております。が! そのような方ともご交流を結ばれるお嬢様こそまさしく未来の王妃に相応しいかと!」
「そんなことはないわよ……」
あと数年もすれば彼女こそ王妃として相応しい光の魔法を使いこなす聖女が現れるのですから。
わたくしはそれまで、彼女の場所を守るだけの張りぼての王妃でしかありません。
「帰りましたら奥様にご報告して、さっそく次のお茶会のドレスを準備しないといけませんね! ああ……、楽しみで仕方在りません!」
「わ、わざわざ新調しなくてももうドレスはいくつも……」
「なりませんッ! ドレスにも流行があるのですよ、お嬢様! その時との時に相応しいモノをお着になられませんと!」
どの世界に行こうとも女性が流行に敏感なのは変わらないのか。
知識として服飾のパターンや色彩は頭に入れておりますが、本音を言ってしまえばどれも綺麗なのだから良いじゃないか。としかわたくしは思えません。
平和な時代においては、上のモノがお金を使うことは経済の循環に繋がるとでも思って諦めるしかないのでしょうね……。
※※※
「本日はお招きいただき、感謝を申し上げます」
どれだけ楽しみにしていなくても時間を止めることなどわたくしに出来るはずがありません。数日の時間が経過して、とうとうわたくしはシモンチェッリ家へとやってきてしまいました。
ああ……、あの時わたくしがもっと上手に立ち回れていれば今頃ローザ様と魔法談義に明け暮れていたというのに。
「ようこそいらっしゃいました。こちらこそ、ルイーザ様にお越し頂けるとは光栄の極みに御座います。本日は当家の歓待をどうぞお受け取りください」
オズヴァルド様の普通の挨拶に、どうしても違和感を感じてなりません。彼は、ローザ様とは違って仮面を被ることが出来ない方ではありません。ただ、被る気にならないために被らないというある意味でモノグサな方だったはず。
ゲームでも、オズヴァルド様を馬鹿にする貴族と衝突する主人公のために完璧な貴族を演じるシーンもあるとネットでは評判になっておりました。わたくしはバッドエンド専門ですので見たことはないのですけどね。
ですが、彼が今仮面を被る理由がわたくしには皆目見当もつきません。
何かを企んでいるのは間違いないのでしょうが、それが何だと言うのか……。
「この日のために南国より取り寄せた珍しい茶葉なんですよ」
「ルイーザ様のお口に合うと良いのですが」
「いかがですか、当家自慢の花壇は。ここを管理している者はまだまだ若いのですが、かのサッシ家にも仕えていた経験のある」
怪しさしかありません。
まるで本当に普通のお茶会の流れに、そして、わたくしをもてなすオズヴァルド様に。
これはもう。
「それで」
進むしかありませんか。
「わたくしに何をお伺いしたいのでしょうか」
わざわざ取り寄せて頂いた珍しいお茶も、甘く幸せなケーキも、すてきな庭園の眺めも、
そこにあるのは素敵な素敵な張りぼて。
「ああ、安心致しました」
ほんの少しだけ、仮面を外していただけませんか。ゲーム内での素敵な貴方のほうがわたくしは好みです。恋愛感情などは皆無ですが。
「噂は本当のようですね。これ以上続けるのが辛かったので、非常に助かります」
「噂ですか」
さて。
どの様な噂でしょうか。と、言いたいのですが、オズヴァルド様の関心を引くものがあるとすれば、
「ルイーザ様は流行り病にて亡くなっており、いまの貴女は別人ではないかという噂ですよ」
魔法が関与しているのではないかと思えるほど、不可思議な内容に違いありません。
「別人が成りすましている。誰かがルイーザ様の中に居る。どちらにせよ、そんな魔法は大昔の文献でも見たことがない」
外れた仮面から見えた素顔は、
「とても興味がある」
まったくもって
「仮に」
唇を濡らす。
まるで氷を含んだように。
「その噂が本当であったとして、わたくしに何をしたいのでしょう」
「知りたいのですよ」
それでもわたくしはそれを飲み込んだ。
目の前のショーを楽しんでいるように。漏れる悲鳴を一緒に飲み干すために。
「誰も知り様がない魔法の存在が目の前にある、それをどうして我慢出来ようかッ」
選択肢を間違えてはいけない。
「教えてほしい!」
前世の記憶を思い出したことも。この世界が前世ではゲームであったことも。オズヴァルド様にバレてしまって問題はありません。
「成りすましているのか!」
仮に人を殺そうともこの方がそこに関心を持つことはありません。まともな倫理観など期待しても仕方ないのです。
「それとも、他人の身体を自由に操れるのか!」
この方が強い関心を持つのは魔法にだけ。
ですが、もしも魔法だと思われてしまえば最後。
「どんな魔法だ!」
オズヴァルド様はずっとわたくしに付きまとうはず。
男に付きまとわれては堪りません……!! 断固として! くだらない理由をこじつけてでも興味を消してしまわないと!!
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