第14話 冷たいお茶会
「やれやれこの間のお茶会は断ったというのにもしかしなくても直接やって来たわけだ。君には迷惑ということが理解できなむがッ!?」
「ロォォザァァ!! 駄目じゃないか、しっかり寝ておかないと今にも死にそうだとお医者様にも言われて何? めまいがする!? それはいけないじゃあ今すぐ屋敷に戻ろうそうしようそれが良いそれ以外はお父様は認めないからなァアア!!」
ローザパパ、もといスピッツィキーノ様まさしく必死であります。
娘の口から飛び出す無礼な言葉をこれ以上一音でも出すものかと家を守るために戦うことは理解できるのですが、貴族が自身の娘を羽交い絞めになさるのはそれはそれでどうかと……。
あと、嘘でも彼女は病気の設定なのでは……。
「病気!? いい加減にしてくれ父上! 僕は至って健康体だ! それともまさか今更僕の趣味のことを病気と言う気ではないだろうね! あれはそうじゃないとこの間しっかり話し合ったじゃないか!!」
すでにお分かりかと存じますが、ローザ・スピッツィキーノは所謂僕っ娘なのです。動きやすいという理由から男装をしているために一目に貴族の御令嬢とは分かりかねます。まだ幼いために差はありませんが、ゲーム開始時期になると一般男性とそれほど変わらないほどの高身長も手に入れられます。
彼女と攻略対象であるオズヴァルド様が仲良く研究に没頭するシーンのスチルは、そこだけまるでゲームの種類が少し変わってしまったようにも思えてしまうほどです。
こういう女性に関しては意見が分かれるところもありましょうが、わたくしと致しましては一切の文句などあろうはずがありません。
男装にしても、この世界ではおかしいことかもしれませんが、前世の記憶があるわたくしからすればむしろカッコ良いとすら思ってしまいます。実際、彼女が前世で生きていればそれはそれは女性におモテになられたことでしょう、羨ましい。
「ああ、ローザ! お願いですから今だけはこの母に免じて大人しく屋敷に戻ってください! そうしてしばらく、ええしばらくだけ絶対に顔を出さないで、あともうお願いだからしゃべらないで!!」
「母上までどうしたというんだ! いったい何が起こ、まさかルイーザ嬢! 君が僕の両親になにやら不吉なことを!」
「ロォォォザ!! そこまで熱にうなされているとはお父様はとっても心配で泣きそうになってきたぞぉぉ!!」
これは、わたくしのせいなのでしょうか……。
違うと言いたいのですが、その、どうやって止めれば良いか分かりません。
ですが、確かに普通に考えますとどのような事情があろうとも公爵令嬢を目の前にしてあのような態度を取って良いものではないはず。
そういう意味では、彼女はまさしくローザ・スピッツィキーノなのでしょう。趣味、と言っておりましたがそれはゲームと同じく魔法研究のことのはず。
それ以外に一切の興味がなく、ルイーザとは別の意味で人間関係をまっとうに結ぶことの出来ない変人。
しかし、考えようによってはだからこそ仲良くなれるかもしれない相手……!!
スピッツィキーノご夫妻には申し訳ないのですが、このチャンスを逃す手はありません!!
さぁ、ここからわたくしのわたくしによるわたくしのための逆転劇が、
「いったい何事ですか」
ぁぁぁ! 一行も始まることなく終わってしまった! わたくしの! わたくしの逆転劇がァァ!!
「ローザ……、いったい君まで何をしているんだ」
「ああ、良いところに!」
まさか、この声は。
振り返ったわたくしが目にした方こそ、
「オズヴァルド! 手を貸してほしい!」
ローザ様がライバルキャラとなる攻略対象者オズヴァルド・シモンチェッリ、その人でありました。
※※※
まずい。これは大変まずい事態になってしまいました。
アメリータ様の反省を活かすために攻略対象者と出会う前にライバルキャラに会いに来たというのに、
どうしてわたくしは、ローザ様だけではなくオズヴァルド様ともお茶を嗜んでいるのでしょう。
「……それで? いったい僕に何の用事があるんだ」
あぁ……、ローザ様のご気分が誰が見ても分かるほどに冷え切ってしまっております……。
「お、お話を……」
「うん?」
「お話がしたい、と思いまして……」
「僕はしたくないんだが」
おふぅ……ッ!
男装していようとも、いえ、男装しているからこそより美少女であると分かるローザ様にこうも冷たくされてしまうと心臓がきゅっ、と掴まれたように痛く……!
「ローザ。ルイーザ様はあのバティスタ家のご令嬢だぞ」
「だから何だと言うんだい。ああ、お決まりの家名での圧力かい? 本当に君たち貴族はくだらないことが好きだね」
「そんなことは致しません! 今回の件は、わたくし個人のことですわ!」
第一、あのお父様がわたくしのことで動いてくれるはずがありません。
むしろ家の名前を穢しおってと蔑まれるのが目に見えるようです。
「ともかく、父上と母上のためだ。一杯だけ付き合おう。だが、それを飲み終えたら直ちに帰ってくれ。僕は君と違って忙しいんだ」
「ローザが失礼な態度を取って申し訳ない。彼女に代わり謝罪をお受け取り頂けますでしょうか」
「とんでも御座いません! 謝罪するのはこちらの方ですわ! ……、勝手に押しかけてしまい申し訳ありませんでした」
謝罪は相手の目を見て。
たとえ相手がこちらを見ようとしていなくとも。これ以上は家名を穢すわけにはいきませんものね。
「ふむ……」
それにしても、今回も攻略対象者であるオズヴァルド様の性格がゲームと多少異なるような気がしてなりません。
確かに彼はローザ様を助手のようにも、妹のようにも可愛がっていたことは事実ですが、そこはもっとドライなものだったはず。だからこそ、二人は上手く関係を結んでいたのですから。
加えて、彼もまたローザ様のように貴族同士の煩わしい関係性を嫌っていた本人でした。だからこそ後継者が弟になられたのですし。そのオズヴァルド様が、わたくしをバティスタ家の令嬢だと意識した行動を取っているのが不思議でありません。
「ルイーザ様、どうしてローザとそれほど話をなされたいのですか? 宜しければ理由をお伺いさせて頂けますでしょうか」
この質問もおかしい。
彼は魔法に関することにしか興味を持たない性格だったはず。それは、たとえ幼少期とあっても変わらないはずですのに……。
「……、お友達になりたい、と思いまして」
とはいえ、ここは正直に答えておきましょう。これはこれで情けない理由ですが、変に存在しない裏を勘ぐられてしまっては今後の行動に支障が生まれてしまいかねません。
「は?」
「こら、ローザ」
変人と名高いローザ様に、こいつは頭のネジでもぶっ飛んでいるのか。といった目で見られるとなかなかショックですね……。
「やはり、噂は本当だったのか……」
「え?」
「ああ、なんでもありません」
いま、噂と仰りましたよね……?
噂とは一体……。
「どうでしょう、ルイーザ様」
どうしてでしょうか、
どうしてかとても嫌な予感が致します。
それは、まるで
ごく最近に感じたこともあるのと同じ……。
「今度、ボクの屋敷へお越しくださいませんか」
ぁぁぁぁッ! 目がッ! ローザ様の目がァァ!!
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